予感


 
乗り込んだ車両に人影は無かった
先ほど確認した時刻表には、現在時刻近辺にはデリィングシティ行きの列車は存在していなかった
特別列車でも運行されていない限り、彼等もまたこの列車に乗っている筈だろう
目的地が同じである限り、今無理に彼等を捜す必要は無い
それよりも、この時間を有効に利用した方がきっと効率的
振り返った視線の先、オルロワは壁に背を預け天井付近を見上げている
彼の視線を辿った先には、一台の古びたスピーカー
線路を走る列車がたてる音が耳に響く
音を伝達する機能があるならば、逆に音を収集する機能があった所でおかしく無い
静かとは言い難く、煩いとも言えない状況
声を言葉として、聞き取る事が出来るだろうか?
声を交わさない方が良いって事なんだろうか?
オルロワは、先ほどから一言も言葉を発しない
困ったように視線を移動した先、扉の側で淡い光を放つ操作パネル
軽く視線を流し
―――ロックを兼ねたデータ集積
ソレの意味を理解する
どこかに監視カメラがあっても可笑しくないな
列車がたてる音に紛れて、どこかで聞こえる筈の機械音は聞こえない
下手な事はしない方が無難、か
スコールは、扉の外の光景へと目を移した

代わり映えのしない光景
……そんな風に言えれば、疑いを持つ事も無かったんだがな………
ファウロは内心深いため息を吐きながら、何気ない風を装い、バラムガーデンの中を歩く
所々に立つ、“教師”の姿
隠された顔、威圧感を与える姿勢、同一の姿
彼等の存在は、あまり良い感じがしない
感じ、なんて甘いものじゃないか
近くを通るたびに感じる視線
そして視線にこめられたろくでも無い感情
力を手に入れた人間が陥る、最低な行為の気配を感じる
ほら、俺の見目ってやつも正確じゃないか
視線の先で、小さな子供を威圧する姿が見える
俺を含め、吐き気を覚えるような行為
ここがエスタじゃないってのは、不運なのか、幸運なのか
エスタならば、確実に起きるはずの騒動を想う
そしてそれに率先して参加する自分の姿が目に浮かぶ
辺りに満ちるピリピリとした空気
柱の向こうに立つ男から強い視線を感じる
ずいぶん前から監視されて居る事に気付いている
時間が立つにつれ余裕が無くなるのか、嫌な雰囲気が強くなる
どうやら、こっちも一騒動おきそうだ
ファウロの心の声が聞こえたかの様に、子供が不安そうに辺りを見回した
 

 To be continued
 
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