逃走


 
辺りを埋める砂が渦を巻く
足下の砂が建物に向かって流れる
ゆっくりした動作で建物が砂の中へと吸い込まれていく
「随分ゆっくりだが……」
どこか故障したのか、それとも、“脱走”という非常事態に対処しての措置なのかわからないが、ひどくゆっくりと砂の中へと建物が沈んで行く
舞い上がる砂塵が風に乗り青い空を覆い隠す
時間が掛かるのは良い事じゃないが……
「仕方ないな」
既に手出しの出来ない場所に居る自分達には、後は彼等が無事に脱出してくるのを待つしかない
「気長に待つとしよう」
そんな言葉を聞いた後、辺りを舞う砂を避けて、誰からともなく幌付きのトラックの荷台へ避難した

一度も会った事の無い人
確かに私にとって特別な名前を言って
その人の消息も知っていた
だけど、その言葉が“本当”なんていう保証はどこにも無い
それに………
それに、その言葉を信じるには、少しだけ問題もある
………あったはずだった
私は彼が話した事を“嘘”だと見破って
そして、あの子達に助けを求めて………
………そうなるのが本当だった
「大丈夫か?」
足場が良いとは言えないこの場所で、私を気遣い何度も声を掛ける
「これぐらい大丈夫」
力強く答える私に、何度目かの笑みを見せて
彼は、素早く辺りへと視線を向ける
私も思わず辺りを見まわしたりして……
姿を消した私を探している筈のあの子達を警戒している
目の前にいる人の言葉が真実だという証拠なんて何処にも無い
聞かされた話―――彼がおじさんの知り合いで、スコールが既におじさんの元に居て、そして、ずっと私を探している―――それが作り話だっていう可能性だってある
あるなんて言うよりも、その可能性が高いかも知れない
………彼は“エスタ”の人間だって、自分でそう言ったんだから
不意に私へ向けて腕が伸ばされる
慌てる間も無く、抱え込まれたまま地面へ屈み込む
問いかけようとした目が、彼の真剣な顔を見つける
厳しく鋭い目が、遠くを見ている
まわされた腕に微かに力が籠もる
意識が戻った私の目に入ったのは、空の青と木の葉の緑
部屋を抜け出すつもりでいたのは私だけど、予想もしない光景に慌てた私の傍に居たのは彼で………
謝罪の言葉と共に口早にたった一言
それから会話を交わしたのはほんの僅か、彼が知り合いだと言う事と、おじさんとスコールが無事で一緒にいるという事
後は、私の話
私がずっとエスタ兵から逃げていて、特別なSeeD達に、先生達に匿われていたっていう事
そして、私は逃げ出した
私の話を聞いてる間の彼の表情を見ていたから
私の話を聞き終えた後の彼の言葉を聞いたから
この人の言葉が嘘だなんて思えない
『冗談じゃねぇぞ』
喉の奥から絞り出す様な声だった
「………行ったな」
吐息の様な言葉と一緒に腕が緩む
「少し、急ごう」
スコールはここに居た
“誰か”に引き取られたんじゃなく、おじさん本人が迎えに来ていた
私はスコールは誰から引き取られて、その後の消息は不明と言われた
私が一緒にいた事を当然スコールは覚えていたし、おじさんも私の行方を聞いた
『居場所が判明したら教える』って約束したって聞いた
おじさん達ならきっとそうする、おじさんでなくても一緒にいるあの二人ならきっと定期的に問い合わせをしてくる、と思う
それなのに私は未だ此処に居る
私は伸ばされた彼の手を躊躇うことなく掴んで、秘密の海岸へと急いだ

ね、うそつきは誰だと思う?
 

 To be continued
 
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