偽装
かつて海岸沿いから見えていたという、巨大なエスタの都市
見間違える筈の内その景色が、一夜にして跡形もなく消え去ったという話はとても有名で
一時期、真相をその目で確かめようとする人々が幾人もエスタを訪れた
そして、彼等が見た物は視界を遮る事無く延々と続く荒野
見慣れた巨大建造物は欠片ほども見ることが出来ず
エスタは滅んだ、と
魔女の手によって滅ぼされたとそう伝えた
―――エスタは魔女の手によって滅ぼされた
誰が始めに言い出した事なのか、ハッキリとしたことは解っていない
エスタ消失の報を誰が始めに伝えたのかも解ってはいない
ただ伝わったのは、エスタの都市が在った場所には欠片一つ存在しないということ
エスタの大地には人は勿論、生き物が一つとして存在しないということ
複数の人が語る言葉に
人々は恐れ、拒み、そしてエスタを忘れ去った
それから十数年
エスタは真実を隠したまま、変わらずその場所に存在していた
荒れた岩肌と、進路を阻む様に存在する湖
長く見る事の無かった光景が彼等の歩みに従って映し出される
「こんな機械、良く動いたな」
昔侵入者の行動を監視する為に設置された古びた機械
訪れる物も居なくなってからはメンテナンスもされないまま長い間放置されていたソレが、時折鮮明さを欠きながらも映像を映し出している
長い間子人が利用する事の無かった大地は荒れ果て、かろうじて残る微かな道筋
対峙するものが居なかった為か、我が物顔で現れるモンスター
悪態を付きながらも、数々の障害を無難に排除して歩く少年達の姿
今彼等が歩くその場所は、全て本物の光景
人の痕跡を欠片とも感じさせない景色の中を惑う事無くしっかりとした足取りで歩いている
「誤魔化せそうには無いな」
予感はしていたが、エスタの存在を確信しているのか、不安そうな素振りを一切見せず消えかけた道を確実に歩いている
「兵士の用意は終わっているか?」
周囲には各地と連絡を取るため、急がしそうに動く兵士達の姿
「全員持ち場へ向かっているところです」
先ほど確認した通路、都市及びその周囲を覆う巨大な仕掛けは今も変わる事無く動いている
もちろん、仕掛けの内部、ゲート内へと入り込んだ進入者に対する仕掛けの動作も先ほど確認された
「急ぐ様に伝えてくれ、仕掛けが動いても兵士がいないと意味が無い」
ゲート内に在るのは、複数の身体の動きを奪う為の仕掛け
自由が奪われた所で、拘束する兵士が間に合わなければ余り意味はない
………俺達の時と違って相手は複数だしな
1人、2人、効果が無い奴が居てもおかしくない
かつて、1度だけ作動した対侵入者用の仕掛けを思い出し、苦笑を浮かべる
見たことのない機械に意識を奪われている間に降り注いできたのは睡眠薬や麻痺薬
不意を突かれたということもあり、自分達は見事に仕掛けにはまったが、使用された薬は様々な事が考慮されているのか、それほど強いものではなく
自分達も程なくして意識を取り戻した
勿論意識が戻った時には、周りを兵士達に囲まれていたが…………
「………せめて同じ状況に持ち込まないと拘束は無理だろうな」
「―――配置終了しましたっ」
ガスが効かない事、戦闘要員が複数存在すること
それらを考慮し考えると、兵士達が踏み込むタイミングは仕掛けが作動した直後
不鮮明な映像が、ただ1度だけ見たことのある光景を映し出す
―――切り立った崖の上、眼下に広がるのは果てなく続く荒野
エスタを覆い尽くした仕掛け
人の手で作り出された偽物の景色
戸惑った様な少年達の会話が途切れ途切れに聞こえる
「………出番だぞ」
開きっぱなしの回線の向こう
ゲート内に待機しているはずの相棒へ
少年達が仕掛けへ触れるのと同時に
素っ気ない合図を送った
To be continued
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