対魔女1
全身が総毛立つ
眼前に立ちふさがる“魔女”の姿
脳裏に反響する、狂ったような笑い声
そして、“魔女”の口からこぼれ落ちる怨嗟の言葉
大統領に対する憎しみ
エスタに対する憎しみ
全てに対する憎しみ
あまりにも強い呪いの言葉に身体が重く感じる
憎悪を滲ませた強い視線が、立ち向かおうとする精神力を奪い去っていく
くそっ―――
魔女の憎しみがここまで影響を及ぼすとは思わなかった
どこかゆっくりとした動きで魔女が右手を払う
魔女の憎しみがこれほどまで強いものだとは思わなかった
避けた先に襲う強い風圧
魔女の左手に集う魔力
力が明確な形を作る前に左腕に加えられる衝撃
“魔女”が体勢を崩し、一時的に魔力が消える
子供の遊びにも見える些細な攻撃
だが、正面から降り注ぐ強すぎる怨嗟に身体は思うように動かない
舌打ちする音が聞こえる
そうだ、さっきの攻撃もいつもならもっと効いたはずだ
それがもう………
再び“魔女”の身体に魔力が集い出す
嫌な感じのする気配が集まる
強くなる魔法の光に比例して、笑い声が高くなっていく
狂ったように笑い続ける声
頭の中で声が木霊する
何処から取り出したのか、魔女の手にはいつの間にか刃が握られている
ゆっくりと狙い定める切っ先
笑い声が脳裏を支配していく
刃が振り下ろされる
「しっかりしろっ!!」
ボンヤリと刃を見上げていた俺を強い衝撃が襲った
『“魔女”と真正面からぶつかったら勝ち目なんかねぇ』
いつか訊いた言葉が脳裏を掠める
『もし、“魔女”と正面から相対してまともで居られる奴が居るなら、そいつは………』
昔、“魔女”との戦いの話を聞かせて貰った時の言葉だ
“魔女”と戦うのに必要なのは何処までも強い想い、強い精神力
『戦いの技術、なんてのは訳にたたねぇ、実際に………』
どれだけ強いと言われようと、“魔女”に飲み込まれてしまったら役には立たない
むしろ、“魔女”にとって便利な道具に成り下がるだけだ
『―――だなぁ、何でも良いからこれだけは、この為だけには、っていう気力じゃないか?』
“魔女”へ飲み込まれないだけの力を奮い立たせるにはどうすれば良いのか………
思えば、ばからしい質問をした
だがそのばからしい質問もこうして役に立っている
“魔女”と相対するなんていう有り難くも無い機会に、どうにか魔女に引きずられる事無く相対する事が出来る
「しっかりしろっ!!」
引きずりこまれそうになる少年に活を入れ、武器を振るう
封印が解けたばかりの魔女の力はまだ本調子ではないのかそれほど強くはない
今は、魔女が繰り出す精神的な攻撃に引きずり込まれなければ何とかなる
―――優秀なSeeDも揃ってることだしな
こんな状況で、負けでもしたら良い笑いものだ
ファウロは気の狂うような笑い声を意識から閉め出し、きつく武器を握る
“魔女”の性質上倒す事は不可能でも、もう一度封印することは出来る
「………動けるか?」
先ほどから比較的ましな動きをするサイファーへ短く声を掛ける
一気に決めるという合図
「あぁ」
微かに口元が笑みをはく
「なら………」
お互いの呼吸を計り始めたその時、頭上を巨大な影が覆った
To be continued
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