魔女アルティミシア5



 
魔法が解ける
空を切る手応えが薄れ、何かを切り裂いた感覚が残る
徐々に聞こえる悲鳴
憎しみの声
スコールの周りの光景が消える
現れたのは元の場所
そしてすぐ近くに“魔女”の姿
憎しみに濁った視線が、間近からスコールへと注がれる
凍り付くような暗い視線
スコールは、身を起こし魔女から距離を置く
わずかの差で氷の刃がスコールの居た位置を切り裂いていく
部屋のあちこちに分散された彼等の姿が見える
目にしたサイファーの、不快なモノを振り払うような仕草に彼等も似たような経験をさせられた事が伺える
「大丈夫かっ!?」
すぐ後ろでゼルの声が聞こえる
「大丈夫」
不快な経験
在るはずのない幻
先ほどの光景は魔女が見せた虚実の世界だと解っていても、心がざわめく
感情が、強く揺れ動く
あり得ないと解っているのに、忘れられない光景
絶対に無いと知っているのに、もしかしたからと思う心
“魔女”が醜悪な笑顔を浮かべる
「何を戸惑う?」
表情と相反した、甘く優しく囁きかける声
「そなた達が見た光景は全て真実だと言うのに………」
言葉と共に、蘇る偽りの光景
「違うっ」
柔らかな微笑みを浮かべ、誘いかける様に手を伸ばす魔女の姿に、スコールはガンブレードを振り下ろす
魔女の足が止まる
「何故、拒絶する?」
怒りをはらんだ魔女の声
魔女が動く度、言葉を放つたびに繰り返し見える嘘
振り下ろされる鋼の輝き
スコールは魔女を見据え、しっかりと両手でガンブレードを握りしめる
「この光景こそが真実だと言うのに――――」
魔女が言葉を告げると同時に、スコールは浮かび上がる幻と同じ仕草で魔女を切り裂いた
父さんは剣を使わない
あの人は、こんな仕草を取らない
浮かび上がった幻が描くのは、攻撃の習慣の癖
それは紛れもなく自分のモノ
魔女が作り出した幻は所詮紛い物
その全ては、嘘

魔女が壊れていく
魔女の姿が崩れていく
“人”の姿を保っていた筈の魔女が姿を変える
人ではない生き物へ、化け物へと姿を変える
―――憎しみの声が聞こえる
全てを呪う声が聞こえる
頭の中で幾重にも反響する声
まっすぐに向けられる不快憎しみが重りとなって手足を封じる
「気をつけろっ!」
鋭い声と共に、頭上から強い光が降り注いだ
 

 To be continued


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