はじまり9
さぁ、身を潜めよう
―――その時が来るまで
意識の底で微睡み
―――その時に目覚めを迎えよう
世界の様子をただ見つめて
―――その時にこそわたしという存在を解放しよう
“魔女”の姿が消えていく
長い時の果てに風化した姿が風に流されて消えていく
未来の“魔女”は姿を消した
背後から人の気配を感じる
“魔女”が姿を消すと同時に聞こえた、息を飲む音
側に居たサイファーが背後を振り返る
「ママ先生」
背後の人物を目にとめたサイファーの口から小さな声が零れる
この場所に現れるのは“魔女イデア”
この場所で“魔女”の力を引き継いだのは“魔女イデア”
知っていた事、すでに解っていた事実
「今のは“魔女”ですね?」
微かに震えた声が問いかける
「何故“魔女”が………?」
困惑したような響き
それと、もしかしたら、興奮したような声の調子
「“魔女”は………」
いつもとは比べものにならない程、おとなしく言葉を紡ぐサイファーとイデアのやりとりをスコールは背を向けたまま聞いていた
“魔女”は死ぬことは出来ないという常識が覆されたからだろうか、誰にも力を引き渡すことなく消滅した“魔女”の存在にイデアは戸惑いながらも興奮している
イデアの問いかけの言葉を聞きながらスコールはゆっくりと空を見上げる
どうすれば“魔女”では無くなるかなんて、知らない
辺りの景色がゆっくりと歪みだした
相打ち覚悟で繰り出した筈のガンブレードが空を切り裂く
目の前で魔法が爆発するのとほぼ同時に魔女の姿が崩れた
まるで元々この場所には存在しなかったとでもいう様に、砂で造った像の様に、身体が風にながれて無くなっていく
そういや、元々ここの時代の人間じゃなかったな
遙か未来の“魔女”
この場所に存在する人間じゃない
戦闘の間に背後に近づいてきていた、見知った―――それとは違う―――気配の持ち主を振り返る
予想通り“今”よりも若い彼女の姿
「ママ先生」
目を見開いて“魔女”がいた筈の場所を見つめている
口の中で呟いた声が聞こえた筈はないっていうのに、まるで声に反応するかのように、イデアの視線がサイファーへと向けられる
「今のは“魔女”ですね?」
確信を持った問いかけの言葉だ
「何故“魔女”が………?」
戸惑う様に濁された言葉には、いろんな感情が込められていそうだ
そういう、ママ先生はもうすでに“魔女”だったな
「“魔女”は………」
“魔女”の身で有りながら、未来の“魔女”の力も………
消滅した未来の“魔女”
「あなたが“魔女”を倒したのですね?」
未来の“魔女”の力を引き継いだ“魔女”の存在
―――魔女は魔女の力を引き継ぐことなく死ぬことは出来ない
幾度か聞いた事のある事実
「いったいどうやって?」
魔女の力の継承がどんなものなのかサイファーは知らない
「ママ先生が取り込んだんじゃないのか?」
どんな変化が起こるのかも知らない
知っているのは、その結果起きた未来の姿だけだ
「私が………?」
俺が解っているのは“魔女”を倒したっていう事だけだ
戸惑ったように視線が辺りを彷徨う
「貴方達は何者です?」
「俺は―――」
問いかけに答えようと口を開きかけた時、目に映る風景が歪んだ
To be continued
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