解放4



 
最後の一欠片
あと一度だけの呼吸
命が尽きるその瞬間に、私は私でなくなった
“私”の中に入り込んで来た異質な存在
“私”を飲み込み取り込んだ漆黒の闇
終わる筈の命は不自然に引き延ばされ
そうして“私”ではなくなった私が行った数々の悪夢
繰り広げられた惨劇の数々
ソレが私の中に居たのはほんの一時
時間にして1時間にも満たない時間
けれど………
ソレの存在は強烈で、力は強大すぎた
あの一瞬で私は私では無いモノへと作り替えられた
“私”を覆い尽くす、憎しみ、怒り………絶望
“私”は人が持ち得ない力を使って、私ではない何かの命を使い始めた
私に殺された人の命
人ではない、何者かの命
閉じこめられた闇の中で、“私”は私がする事を余すことなく見ていた
“私”では無い私を呼ぶ声が聞こえる
―――怨嗟の声が聞こえる
今日もまた、私に逆らった者が始末される
私に向かい突きつけられる憎しみの感情
恐怖に震え私に従う者の姿
彼等に“私”の声は聞こえない
“魔女”アデル
“私”の名ではない名前が呼ばれる
今日も世界が悲鳴を上げる

“魔女”は力を失う迄死ぬことは出来ない
ある時聞こえてきた言葉に納得する
私はあの時から生きてはいない
けれど、死を迎える事も出来ずにいる
“私”では無い何者かが支配する身体は生きても死んでもいない中途半端な状態で、様々な所に歪みが生じている
閉じこめられた内側には、崩壊の音が良く聞こえる
今にも終わりそうで終わることのない時間
あまりにも長い時間は、“私”にも歪みを生み出したのかもしれない
恐怖以外の感情に従って、悲鳴と絶望以外の言葉を初めて発した
“私”を取り囲む“魔女”へ向かって
『新しい器を探せば良い』
初めて“私”の言葉は聞き入れられ
新しい狩りが始まった

長い眠りから覚めた“私”が見たのは、私と相対する人の姿
不意にぶれる視界
“私”を取り囲んでいた暗い力が消え去っていく
突然、忘れ去っていた感覚が戻ってくる
音が聞こえる
鼻を突く臭い
身体に感じる熱
そして、激痛
でも、それもこれもほんの一瞬の事
私は長い時間の果てに漸く最後の息を吐く
誰かの視線を感じながら

悪夢が終わった―――
 

 To be continued


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