終演



 
音楽が静かに流れる
広大な会場の中に、漸く聞こえる程度の音楽が流れている
人々のざわめきが聞こえる
大勢の人が詰め込まれた場所で、人の声がざわめきのように押し寄せる
幾月もかけて計画された祝宴
様々な人へ送られた招待状
あれほど騒がしかった会場が、一瞬静まりかえる
世界が平和になった、祝宴が始まる

世界中の主立った国―――機関―――の主立った人々
見たことも無い大勢の人の中に、ほんの僅かに見える見知った人の姿
世界に平和をもたらした貢献者としてガーデンが位置づけられ
人々が集まる中にSeeD達の姿がある
あの時から数ヶ月
真実を巧妙に隠したいくつもの発表
ガルバディアの侵略は、今は亡き大統領と一部の強硬な軍人達の独断となり
未来の魔女の存在は隠匿された
イデアは―――ガルバディアに与した魔女イデアの存在をどう処理したのか詳しいことは聞いてはいない
ただ、今この会場の中で堂々と姿を見せている事を考えれば、ガーデンがなんらかの言い訳を考えたんだろう
人々に囲まれたSeeDや“魔女”
争いを終結した、彼等へ称賛の声がかけられている
この中の人々の内、真実を知っている人がどれだけいるのかスコールは知らない
無かった事にされた未来の魔女
あの戦いも無かった事にされている
ほんの一部真実を知っている人達も、エスタが深く関わっていた事を知らない
高らかにファンファーレが鳴り響く
奥まった箇所にあった幕が引け、シドが現れる
『面倒な事は避けたいからな』
解らないけれど、なんとなく理解できる言葉と共に、ラグナは全てをガーデンに押しつけたらしい
世界に平和が訪れた事を知らしめる為の宣言
出来の悪い劇
嘘ばかりの台詞に、人々が熱狂的な声を上げた

心地よい気温に青い空が見える
住み慣れた家の、居なれた庭
久しぶりの休日に、明るい時間に会わせた顔
遠くから、人々の明るい声が聞こえる
時折強く吹く風が、工事現場の音を運んでくる
エスタ各地では、被害を受けた箇所の修復が行われている
今までと変わらない、平穏な日々
笑い声を上げて、表を小さな子供達が通り過ぎていく
遠くない場所にいる見慣れた人々
「スコールっ」
幻聴ではない声が名前を呼ぶ
記憶とは違う姿が手招いている
焦燥に駆られる事のない、穏やかな時間
変わらない景色の中にある大きな変化
「今、行く」
長い間願い続けていた光景
幸せな時間が漸く始まる

 End