平和がおとずれたその後で



 
ほんの少しの戸惑い
新しく始まった生活にまだ少しだけ慣れない
1つ増えた存在
待ち望んだ時間だけれど、どこか落ち着かない
扉の向こうに聞こえる足音、扉を開く手がほんの一瞬躊躇う
開いた扉の中にある2人の姿
「おはよう」
いつも通りの挨拶に返ってくる言葉はふたつ
長い間聞き慣れた言葉と、聞き慣れない言葉
軽い足音を立てて動くエルオーネの姿を見ながら、スコールはテーブルに座るラグナの向かいへと腰を降ろした

「それじゃあ、出かけて来るね」
明るい言葉と共に、エルオーネが外出する
「おう、気をつけてな」
背後から聞こえる声が幾分心配そうに響く
スコールは小さく
「いってらっしゃい」
の声をかける
扉の向こうで気配が遠ざかっていく
「………大丈夫かな」
そうして浮かび上がるのは不安
エルオーネが居ることに戸惑いを感じて
エルオーネの気配が近くに無くなれば不安を感じる
背後から伸びた手が、軽く宥める様に背を叩く
―――大丈夫なのは解っている
出かけていったエルオーネにはさりげなく気づかれない様に護衛が付いている
―――そんなものがつかなくても、エスタで何か悪い事が起きる事は無いはず
別にたった1人で出かけた訳じゃなく、門を出た所で迎えが来ている事も解っている
―――誰かに攫われる事も無いし、突然姿を消したりする筈もない
なんの不安を抱く必要も無い事は良く解っている
昔の様に、突然引き離されて会えなくなるなんて事が起きるはずはないということは解っているけれど………
遠ざかる気配に、幾度と無く感じる不安
感じ慣れない気配に戸惑いを覚えていることは確かに事実だけど、居なくちゃダメなんだ
「大丈夫だ、二度と―――」
力強い言葉が耳を打つ
上げた視線に、厳しい顔をした父さんの表情が映る
「大丈夫だから、スコールはもう心配しなくてもいいんだぞ?」
厳しい表情がゆるむ、
幾度も言われた言葉と表情に、安堵感が浮かぶ
「………任せる」
返事に躊躇って、そんな言葉を返す
これから先、きっと自分が不安に思っている様な事は起きないだろうけれど、もしも何かがあったら―――
そうではなくても、何か別の事があったとしても―――
先程よりも力のこもった手が背中を一つ叩く

1つ増えた気配にはまだ慣れないけれど
ソレが当たり前になるのに多分時間は掛からない
気配が側から無くなる事にも、そのうち不安を感じ無くなるはず
―――望んでいた“当たり前”の生活まで後少し

 End