ぎこちない交流


 
「………珍しいね」
珍しくエルオーネへと届いた連絡は、珍しい場所から送られてきたもので、相手も珍しい人だった
思わず零れ落ちた言葉には別に意味なんて無かったんだけれど………
「迷惑なんてそんな事ないよ、ただ驚いただけ」
予測出来ない程の反応に、エルオーネは慌てて言葉を連ねる
「………うん」
用件を聞きたいけど、そんな事を言ったら、誤解しちゃいそうだな
時計が指し示す時間は、まだ余裕がある
もう少し余裕見ようか
エルオーネはそれからしばらくの間、要領を得ない相手の言葉を聞いていた

「おじさん、現在エスタに入国するにはどんな手続きが必要だっけ?」
夕食の時間、エルオーネは何気ないふうを装って、話を切り出す
都合良く、テレビのニュースはエスタを訪問中のトラビア一行の話題を取り上げている
「んー?まぁ、政府間の場合はそりゃ話し合いだろうけど、一般人の場合だと入国者の保証をするヤツが保証書を提出する事と、入国時の立ち会いが必要だったんじゃないか?」
エルオーネの質問に首をひねりながら答えたラグナは、スコールへと問いかけの視線を向ける
「提出した保証書の審査があって、許可を得られれば保証人の立ち会いの下、軍が入国時の検査を行った上で漸く入国許可が降りる」
国を開いたと言っても、いきなり自由に行き来が出来るようにはなっていない
そう聞いては居たけれど、まだまだ複雑な手続きが要るみたいね
「へぇ、それで今の所入国者ってどれくらいなの?」
エルオーネの問いかけに、ラグナは軽く首を竦め、スコールは首を横に振る
「………………もしかしてゼロ?」
「マスコミや研究者、学者なんてのは幾らか居るけどな」
「そういうのは、他の手段で入国してくるから、純粋な一般の人っていうのは今のところ誰もいないんだ」
最近は、エスタの中でも他国の人の姿を見るようになったから、在る程度の観光客が来て居るんだと思っていたけど、アレって違ったんだ
「でも、なんで誰もいないなんて事になっているの?」
エスタに来てみたいっていう人が全く居ないなんて事は無いはずだと思うんだけど、な
「保証書を書く人がいないから」
ラグナへの問いかけには、スコールが返事をした
「居ないって?」
「エスタが他国と関わりを断っていた時期が結構長いから、知り合いが居るってことがまず無い、仮に居たとしても、今現在どこに居るのかどうかが解らない」
“閉ざされた国”として存在したのはだいたい17年
確かに知り合いがどうなったのか解らなくなる可能性はあるかも知れないけれど、17年ならどうにかならない?
「まぁ、魔女戦争が続いたっていう事情もあるからな」
エスタの魔女が世界を相手に起こした戦争
「………そっか」
2つの期間を合わせると、エスタという国が孤立していた期間は大幅に変わる
それに、“魔女戦争”とエスタが起こした戦争じゃない、“魔女アデル”が起こした争い
最近になって漸く世界に知られる事になったけれど、エスタの人々も“魔女”を相手に戦っていた
もし、エスタに知り合いが居たとしても、その相手の居所は解らなくなっていて当然なのかもしれない
「幾つか問い合わせは来て居るんだけどな」
「まだ保証書の段階までたどり着けていない」
「相手の人、見つかればいいね」
エルオーネのつぶやきに、二人は同じように頷いた

「だから、今エスタへ来るっていうのはすごく注目浴びると思うけど?」
あれから2日後、再びバラムから届いた連絡にエルオーネは先日聞いた話を教える
「………………」
「注目浴びても良いっていうなら、手続きしてもいいけど?」
問いかけながらエルオーネは、ほぼ確実に断られることを解っている
ただ、入国時に注目を浴びる程度なら、結論は解らないけれど、この場合の注目は、ニュースとして取材される位の規模
「頼んでおいてなんなのだけれど………」
長い沈黙の後、躊躇いがちにキスティスが断りの言葉を口にする
「うん、私も今はその方が良いと思うよ」
―――なんていっても、初めてだもの
注目されるのは当然、だからもう少し人が自由に行き来できるのを待った方がきっと得策
 

 End