夏の嵐



 
エスタシティは季節を通して快適だ
真夏だっていうのに、そんなに暑くない
感心したエルオーネが告げたのは先日の事

「エスタの国内っていうのは、気候の差が激しいんだ」
エスタの国土は広く、様々な土地を抱えている
エスタシティ周辺の様に穏やかな場所もあれば、砂漠地帯も森林地帯も山岳地帯まで兼ね備えている
「それに、元々はエスタシティの辺りも穏やかとは言い難いものだったらしい」
この辺りの事は歴史と科学の教科書に載っている事だけれど、今の様な状態にする迄は先人達の多大な努力があった、らしい
「そうなんだ」
「今もエスタシティを一歩出れば、それなりに体験ができると思う」
わざわざ苦労をしに行こうなんて人は居ないだろうけれど
「………外に出れば、昔ながらの気候が楽しめるって事?」
「さすがに昔の気候がどうかなんて知らないけれど、そう言われてる」
ここで言われている“昔”は本当に随分昔の事だ
きっと今生きている人の誰も体験はしたことが無いと思う
………その当時の資料なら残っていると思うけれど
「じゃあさ、今日みたいな時はもっと酷いって事だよね」
「今までの経験上は、そうかな」
いつもよりも数度高い気温
熱気が肌にまとわりつく
喉を通る空気さえも熱い気がする
年に数度あるとても暑い日
「やっぱり、誰もいないね」
こんな日に家の外に出る物珍しい人は普通は居ない
目に見える範囲以外にもこの付近には自分達2人以外誰もいない事を、機械が知らせている
「………暑いから………」
道路の上にゆらゆらとゆれる湯気が見える
頭がくらくらしてくる
「うーん、確かに暑いけど………」
目の前に居るエルオーネは、暑さを感じていない様に思える
「そろそろ戻ろう」
「耐えられない程じゃないよ」
2人の言葉が重なる
平然として見えるエルオーネの姿に、より一層暑さが増した気がする
にじみ出た汗がしたたり落ちる間も無く消えていく
「………お姉ちゃんは大丈夫でも、俺無理だ」
「そうみたいだね」
スコールの様子に、エルオーネが困った様に笑い、帰る事を承知した

「そりゃ………暑いところで過ごしてたからじゃないか?」
冷房の前からどく気がないらしいラグナが言う
あの暑さが普通だと感じられる様な所
「ようは慣れの問題だろうしさ、住んでる土地に適応するって言うしな」
砂漠のモンスターは、砂漠に適応してるじゃねーか
ラグナの言葉にうっかり頷きかけて、スコールは思い留まる
「似てるけれど、それとは違うと思う」
丁度扉を開けたエルオーネの姿が見えた
 
 

 End