販 路



 
エスタの存在が世界に知れ渡り
途絶えていた国交が再開され
誰でも自由に
と、まではいかなくてもそれなりに、人々の行き来が出来るようになった
国同士のやり取りが終わり
ある程度の落ち着きを取り戻すと
次に盛んになったのは、他国の企業からの売り込み
他企業よりも少しでも早くという思いからなのか、様々な企業が販路拡大の為に一斉に流れ込んできた
流れ込んだのは良いんだが、エスタはエスタで様々な会社が存在し、様々な産業が発達している
末端の小売業に直接売り込むだけの信頼や実績は存在しない
企業間での取引に持ち込むにはそれなりに手間と時間が掛かる
手っ取り早い売り込み先として、最近は政府機関への売り込みが増えてきている
そういった話を聞いたのは先日の事

『売り込みだそうだ』
その日到着した人々を見て皮肉げな笑みを浮かべる
「売り込み、ですか?」
到着した人々は他国の民間人
どこかの会社組織のようだ
『エスタじゃ馴染みは無いだろうが、ここは昔から様々な武器を扱う民間企業でな』
武器商人が軍本部に訪れる目的は
「武器の売り込み」
『向こうはそのつもりらしいな』
ウォールの言葉に、部屋に居た軍人達から失笑が漏れる
他国はエスタ軍に配備された品々を知らないが
国交を閉ざしていた間も様々な国を見てきたエスタ軍は、他国がどんなモノを使っているのか良く知っている
技術力ではエスタに数段劣る品々
エスタが求めるものとは違う方面に特化された機能
持ち込まれた品を見る迄もなく
彼等の商品をエスタ側が受け入れる事は無い
窓の外で、彼等が持ち込んだらしい荷物が下ろされた

彼等が持ち込んだ武器の基本的な形状、扱い方はエスタのものと変わりは無い
大本の原型となる形が一緒だったこと
元々はエスタも他国と交流があり、こういった物の取引も行われていた事を考えればそれは当然のこと
―――だいたい、軍のトップと国のトップか元ガルバディア人だ
施されているのは多少の改良
いちいち説明を受けなくとも、なんとなくで使いこなせる
―――新型になる度に説明されないと使えないんじゃ意味が無い、そう言ったのはどこの誰だったか
昼間熱心に担当者を口説いていた相手が置いていったサンプル品
『特徴としては誰でも簡単に使いやすく、だったかな?』
ウォードの言葉に、今日一日相手をしていた担当者が肩を竦める
置いて行かれた武器のほとんどは、元の形から機能がそぎ落とされ簡略化されている
そして武器の大半が銃器類
その場に集まった軍人達が側にあった幾つかの銃を手に取る
以前任務先で、見た覚えのある品々
「民間人向け、ですね」
どこかの国のどこかの店に置かれていた、身を守る為の品物
「どうやら、エスタ国内での一般流通を目指したいようですね」
『軍相手では商売にならんと踏んだんだろう』
「その判断は正しいというべきでしょうが………」
護身用として造られた武器
「どの程度必要とする人がいるでしょうね」
護身用として武器が必要なら、とうの昔にエスタ国内にも同等の品が広まっているはずだ
『今だって、取り扱いが無い訳では無いからな』
それが広まらない理由はただ一つ
「商売をするしないは自由でしょう」
わざわざ購入する必要が無いから
「どちらにしろ、我々相手の取引ではありませんから」
『適当に処理しておいてくれ』

エスタ政府相手の売り込みは、まだ一つも成功していないらしい
 
 

 End