安心感



 
「ただいま」
誰も居ないことは解っていたけれど
声を掛けて家の中へと入る
久しぶりの我が家
ああ、帰ってきた
大学の用事でほんの数日離れていただけなのに、玄関を開ける時に妙に懐かしい気がした
ほっとした気分で、ドアを閉め自分の部屋へと向かう
いつも通り人がいなくとも暖かな空気
安心するな
ここは私の居場所でなじんだ場所だから
すごく力が抜ける
荷物を片づけると、椅子に座る
「疲れたなぁ」
ぼんやりと宙を見つめると自然に言葉が零れ落ちる
………少し気をつかってたのかな
こぼれ落ちて、本当に自分が疲れていた事に気が付く
「少し休もうかな」
ぼんやりとつぶやくと自然に足がベッドへと向かう
勢いよく倒れ込んだ身体が柔らかく受け止められる
倒れたまま身体を動かして、布団の中に潜り込む
まだ時間もあるし、大丈夫
ぼんやりとそうおもってエルオーネは時間を置かず眠りについた

ふいに目が覚める
真っ暗な室内の様子をぼんやりと見渡して、慌てて身体を起こす
「いけない」
外の様子は真っ暗で、寝過ごした事に嫌でも気が付く
もう帰ってきてるかも
家を空ける前に聞いておいた二人の予定
二人とも今日は特別な用事は何も無かった
いつも通り帰宅する筈
二人には私の予定も伝えているから、私が早い時間に帰る事は知っている
帰ったら、美味しいご飯を作るって言ったのにな
長いって訳では無いけれど
1日や2日では無い時間
出かけると言った時にほんの一瞬残念そうな顔をした二人に約束した言葉
きっと楽しみにしてる
………よね?
何とも思っていないなんてことはないってそう思いたいんだれど
エルオーネは明かりをつけ側に在った時計を両手で掴む
「なんとかなる、かな?」
暗くはなっているけれど、二人が戻る迄はまだすこしだけ時間の余裕がある
あまり凝った物は出来ないかもしれないけれど、何もないって事態は免れるはず
エルオーネは立ち上がるとキッチンへ向かって階段を駆け下りた

「おかりえなさい」
「ただいま、それとおかえり」
帰宅の音に玄関まで出迎えて言葉を交わす
「どうだった?」
「んー、特に何も無かったかなぁ?」
報告する様な特別な事は何も起きていない
場所がいつもと違うだけでいつも通り
そんな会話を交わしながら、居間へと二人で歩く
「いい匂いだな」
扉の向こうから漂ってくる食べ物の匂い
そういえば………
「使った後がなかったけど、食事はどうしてたの?」
ここ数日なのか、私が居ない間なのか正確な所は解らないけれど水回りには使った形跡が無かった
「ああ、ちっとめんどうになってな」
苦笑して言うラグナにエルオーネはわざとらしくため息を吐く
「面倒だからって手をぬいちゃダメでしょ」
いつもの様にお説教をするけれど
少し嬉しいかな
これも私が必要だっていう証拠みたいなもの
エルオーネは笑みを浮かべて扉を開ける
「スコールが戻ったらすぐにご飯にするから」
「おう、スコールも楽しみにしてたからな」

それから数十分後戻ってきたスコールと3人話をしながら食事をした
いつもの日常
それと改めて感じる安心感
和やかに話をして
いつも通りの家事をこなして
いつもどおりの時間に就寝
日中たっぷりと寝た筈の身体は不思議なほど素直に眠りに落ちた
 
 

 End