守る力


 
「うわっ、わっ、わっ、わっ」
一歩外へ足を踏み出したラグナは、大慌てで扉を閉めた
「ふぅ〜、危機一髪ってやつだな、なぁ?」
誰もいない室内に向かって、思わず同意を求める
玄関を開けたとたん、目の前にモンスターってのは、ちょっと卑怯じゃないか?
………キロスは、先にいったんだったな……
照れ隠しに頭をかきながら、二階へと続く階段を登る
「いや〜危ない、危ない」
どアップのモンスターを思い出して、背中に冷や汗が流れる
………まだ気づいてなかったよな……
見たその瞬間に慌てて扉を閉めたため、モンスターがラグナに気づいた様子は無かった
俺じゃなかったら、確実に襲われてたぞ
間近にモンスターに迫られて、とっさの判断ができる人間(一般人)はまずいない
これでどんなに近くでも、武器も持たずに出歩くのは、危険だって事が証明された訳だ
「こんどエルによーく言っておかないとな……」
きっと、そんな状況になったら、俺を呼ぶことだって難しい
二階の窓から、下を見下ろし、モンスターが、扉の前から離れたのを確認する
さて、それじゃあ、行きますか……
マシンガンを肩に担いで、さて……と振り返ったとたん…
「キャー!!」
窓の外から女性の悲鳴が聞こえた
!!!
慌てて、窓へと飛びつき、身を乗り出す
「逃げるんだっ!」
モンスターが、おばさんを襲おうとしている
このっっ!
ラグナは、その様子を目にしたとたん、そのまま、窓から飛び降りた
「まて、まて、まてっっ!」
飛び降りた衝撃で足を僅かに痛めながらも、モンスターを背後から銃身で殴りつけ、おばさんの前へと飛び出す
「今の内だっ!」
「……あ、ああ……」
これは、ちょーっと、やばいかな……
先ほどのラグナの攻撃で、ケダチクが怒りに燃えている
……ま、なんとか、なるだろ……キロスもすぐにくるだろうし
近所のおばさんを背後にかばって、引き金を引く
「危ないから、家の中に入るんだっ!」
銃弾を正面から受け止めながらも、勢いをつけ突進してくる
おお!?
まさか、後ろにかばっている人間がいるのに、よけるわけにも行かず、ラグナは、正面から相手を受け止めた
モンスターの攻撃をなんとか受け止め、おばさんをせかし家へと向かわせる
これは、マジでやばいぞ……
どうやら、半端に傷つけたのが悪かったらしく、相対したケダチクは、咆吼をあげ、ものすごい勢いで暴れる
ラグナの多少の反撃は全く効いていない、むしろ、生半可な事をすればするほど、動きが激しくなる
その上、こいつらは戦闘が始まると、どこからともなく集まってくる時がある
こんな時に背後から襲われでもしたら、おばさんが危ない
僅かに距離を置き、ラグナは、至近距離から、マシンガンを連射した
連続した重い衝撃、先ほどの攻撃で腕を痛めたのか、いつもなら気にもならない振動が骨に響く
おばさんが家の中に逃げ込むと同時に、モンスターが倒れる
「よっしっ!」
モンスターがちゃんと死んだのを確認すると、ラグナは急いでおばさんの家の前から離れる
「きたきた……」
思った通り、新たなモンスターが現れる
構えたマシンガンを先行してきた、バイトバグに向かい乱射する
そいつらは、あっさりと、空中から、地面へと落ちる
さて、次は……
近づいてくるケダチクに向けマシンガンを構える
“シュッ”
風を切る鋭い音と共にケダチクが切り裂かれる
「おおっ!!キロスくんっ!」
切り裂かれ倒れたその後ろからキロスが現れる
ちょっとくるのが遅いよな……
「後ろだ……」
キロスの声に少し気を抜いていたラグナは慌てて振り返る
「おお!?」
すぐ後ろに迫っていたモンスターに、慌てて飛び退く
「キロスくんっっ、こういう事は早めに……」
体制が整わない内の鋭い一撃
「おっとっ!」
反射神経と運で、ラグナはぎりぎりの所で攻撃を交わす
マシンガンを構え、攻撃しようとしたその時……
「ラグナっ!!」
キロスの声と共に背後から、痛烈な一撃をあびせられる
「ぐっ………」
どうやら飛んできたバイトバグが体当たりしていったらしい
さすがにこの一撃は効いた
“ザシュ”
駆けつけたキロスがモンスターを引き裂いた音がする
「大丈夫か、ラグナ」
「……ちょーっと、油断した」
顔を上げたラグナは、目を見張り、いやそうな顔をする
「キロス………」
ラグナの変わりにケダチクと相対していたキロスが、ちらっと視線を動かす
「………どうする、ラグナ……」
「どうするっていってもな……」
いつのまにやら、周りをモンスターが囲んでいる
「片づけない事には、どーしようもない……」
逃走するための場所がどこにある?
「……同感だ……」
周囲に集まったモンスターに自然背中合わせになる

戦闘は混乱を極めていた
「キロスくん……、今日ほど君がここに来てくれて嬉しかった事はないよ」
どうした訳か、今日に限って後から、後から、モンスターが湧いて出てくる
「くそっ、きりが無い……」
不意に迫ってきたモンスターにとっさに、マシンガンで殴りつける
こんな時ってのは、不利だなぁ……
ラグナの武器のマシンガンは、接近戦には向いていない
……もっとも、単独戦にも向いている武器だとは言い難いのだか
はじめは背中合わせに戦っていたはずだというのに、いつの間にかキロスとも離れてしまっている
くそっ!
ラグナは、モンスターと距離を置き、キロスの姿を探す
キロスは、少し離れたところで、いつものように素早い動きで相手を翻弄し、両手のカタールで複数の敵をうまく相手にしている
「っ!キロスっ!!」
目の前のモンスターを相手にしながら、キロスを見ていたラグナは、モンスターを相手にするキロスの背後から、モンスターが近づくのに気づいた
素早くマシンガンをキロスの背後に迫るモンスターに向ける、が……
ちっくしょー、これだとキロスにあたっちまうっ!!
ラグナは、マシンガンを構えたまま、躊躇した
キロスを背後から、モンスターの一撃が襲う、ラグナの声でその存在に気づいたものの、たまたま前方のモンスターに攻撃を繰り出されたキロスはその攻撃をまともにくらった
「っ!!キロスっ、よけろーっっ!」
攻撃を受けた為か、ラグナの声に反応したのか、キロスが倒れ込むと同時にラグナがマシンガンを乱射した
弾丸は、地面に伏せたキロスを綺麗に避け、周囲のモンスターを蹴散らした

囲まれていたあの状況から、事態は少しは好転した、かもしれない
見ようによっては、“追いつめられている”ともとれるかもしれないが……
「キロスくん、ちょっと時間稼ぎしてもらえるかな?」
乱戦のおかげで、あちこちに傷を負ったラグナが、似たような状態のキロスにそっと提案を持ちかける
モンスターが一匹、動く
「時間稼ぎ、か……確かにこのままだとキリがないな」
探る用に動くラグナの左手を見、キロスは僅かに足を踏み出す
さっさと敵を一掃してしまわなければ、面倒な事になる
「よし、じゃあ、いけっっ!」
ラグナのかけ声と共にキロスが勢いよく敵の前へと飛び出していく
突然動いたキロスに、知能の高くないモンスター達は、その動きにつられ、そちらの方へ頭をめぐらす
敵の前方へ飛び出しうまい具合に引きつけたキロスを見ながら、ラグナは手榴弾を取り出す
モンスター達が襲いかかろうとする中、キロスはあたりの敵をも巻き込むかのように回転し、一匹先行していたモンスターを切り刻む
ラグナは、敵の中心に向かい手榴弾を投げた
「キロスっ!」
ラグナの呼び声と共に、キロスが敵の中から舞い戻る
“ガガガガガガガガッ”
キロスが戻るのを見届けるよりも早く、ラグナの手の中のマシンガンが、モンスター達に向かい乱射される
ねらいを定める訳でもなく、ただ乱射される弾丸に、一カ所に集まりつつあったモンスター達は倒されていく
“グァーン”
ラグナが、マシンガンの乱射を止めるとほぼ同時に、モンスター達の中心で、派手な爆発が起きる
最後のその衝撃で生き残っていた、モンスター達が吹き飛ばされる
…………………
「よし、今だっ!」
手榴弾の火の粉が飛びちる中、切り開いた道を駆け抜け、新たなモンスターが現れないうちにと、家の中へと向かい2人走りだす
まだ死にきれず身もだえるモンスターをキロスのカタールが一閃する
キロスの後に続くラグナは、新たに手榴弾を取り出し、走りながら安全ピンを抜き取る
目の前には、家の扉
キロスが飛び込んだ後に続き、扉の中に駆け込む寸前、ラグナは、手榴弾を背後に向かい、投げつけた……

“バタンッ”
大きな音をたてて扉が閉められる
それと、同時に、家の外で、大きな爆発音がし、振動で窓ガラスが震える
顔を見合わせ、そっと外をうかがう
焼けこげた地面と、横たわるモンスター
どうやら、まだ死にきれないものもいるようだが、それも時間の問題だろう
そして、最大の不安だった、新たなモンスターは、現れていない
「……ふぅ……いやー、まいったなぁ……」
扉に背をあずけ、満身創痍のラグナが座り込む
「大量発生だったな……」
キロスもまた、満身創痍の姿で机に身を預けている
「……後で……ちょっと収まったら回収に行くか……」
モンスターハンターの収入は、モンスターを倒した後の戦利品
「そうだな……」
大量のモンスターの死骸を始末する手間を思い、うんざりした気分になる
「ひっでえー、恰好だよなぁ」
無数の怪我を負いながら、ラグナは晴れやかに笑う
「………こんな恰好見せたら心配かけるよな……」
心配させたくはないよな……
「……だろうな」
……………
モンスター達の暴れる音が聞こえなくなった
全身に走る痛みをこらえキロスは立ち上がる
「……少し、休ませてもらう……」
「おおっ……」
傷を負ったキロスが、二階へと昇っていくのをラグナは、そのままの姿勢で見送る
「ちょーっと、あんまし、動きたくねーなー……」
気が抜けた状態のラグナには、動く気力が今はまだない
………今はこのままで……もう少ししたら………
……………………
ラグナは、その姿勢のままで眠りに落ちた

とりあえず、今は少し休もう………
たくさんの傷を労って、ラグナは、休息をとる
……大切な二人が心配したりしないように……
なんともない姿をみせられるように
 
 

 
END