幻影の妖精
身体が、不意に軽くなった
いつも以上のスピード、いつも以上の力
敵の動きに、自分以外の何かが反応を示す
右手に持った、マシンガンが、敵をなぎ払う
振り払われた勢いで、相手がはじき飛ばされる
……おいおい……
その様子にラグナは思わず目を見張り
妖精さん、俺が持ってるのマシンガンなんだけどな……
まるで他人事の用にため息をつく
頭の中にざわざわとした雑音の様なモノが生じる
いや、助けてくれたのはありがたいんだけどさ……
ラグナは、襲い来ようとするモンスターへ向かい、引き金を引く
小気味良い音が響く
硝煙の臭いが辺りを漂う
無数の弾丸をその身に受け、モンスターが倒れる
倒れ伏した敵を眺め、ラグナは、ゆっくりと緊張を解きほぐす
妖精さんは、不思議なタイミングで来るんだな……
ラグナは、どこにいるともしれない相手に一方的に会話を試みる
「おじさーん」
背後から、小さな呼び声が聞こえる
「エル!?」
声の相手に気付き、ラグナは、顔色を変えて走り出す
まだ、近くにモンスターがいる可能性がある
不意に走る速さが増す
まるでもう1人が、焦る心に同調するように……
レイン!?
視界の先に2人の姿が映る
エルオーネが笑いながら手を振っている
周囲にモンスターの姿を探す
ラグナに見える範囲では、姿は見えない
見えない所にいるかも……
そう思うラグナの心と裏腹に、張りつめた神経がゆるむ気配がする
………居ないのか?
ラグナは、妖精へと問いかける
相変わらず明確な返事は帰ってこない
……大丈夫って事だよな………
ラグナは、幾分歩を緩め2人の元へとたどりつく
「2人とも、危ないじゃないか」
無意識のうちに、妖精の態度を信頼しながらも、2人へ声を掛けるラグナの顔はこわばっていた
「何かあったの?」
レインが緊張を含んだ声で問いかける
「今モンスターが………」
「帰りましょう」
判断は即座に下される
もちろんラグナは反対などしない
「さあ、エル、帰るわよ」
「はぁーい」
つまらなそうにエルオーネが返事をする
「こればっかりは仕方ねーよな」
ラグナは、エルオーネの頭を撫でた
今日はずいぶん長い事いるんだな
暖かく光りの灯った室内で、ラグナは細やかに後片付けする2人を見るとも無しに見つめながら、未だ消えない妖精へと語り掛ける
相変わらず声が聞こえる訳でもない
ただ、なんとなく気配がする
頭の中のざわめきか、大まかな感情の動きを伝えている
これと言った反応が返ってこない
夕食を食べる頃から、妙な無口になった相手に、ラグナは困った様な顔をする
今までの妖精さんとはどこか違う感じがする
「はい、おじさん」
うん?
ふと気がつくと、エルオーネが目の前に座って湯気の立つカップを差し出している
お礼を言って、受け取る
片づけを終えたレインが、向かい側に腰を下ろす
いつもの夜、いつもの団欒
「今日はいやに静かね」
レインの静かな声
「いや、別にそんな事はないんじゃ…………」
「具合でも悪いのかとおもっちゃうわ」
続けられる、明るい言葉
「それは、ちょっと酷いんじゃないか?」
いつもの用に他愛のない会話が続く
穏やかな空気、ラグナが一番好きな時間
エルオーネが無邪気に語る言葉に耳を傾ける
柔らかい感情に包まれ、ラグナは、未だ離れない妖精の存在を忘れかけていた
「じゃあ、今度みんなで旅行に行くか?」
珍しそうに、他の土地の話をせがむエルオーネに、ラグナは、笑ってそう言った
エルオーネの口から歓声が上がる
「じゃあね、エルは、ガルバディアに行ってみたい!」
「あら、良いわね、私もガルバディアに行ってみたいわ」
そう言い合うと、2人は顔を見合わせて笑いあう
「なんでガルバディアなんだ?」
確かに他の土地ってのは、今ちょっとやばいかもしんねーけどさ………
いちを戦争中だもんな……
「だって、おじさん達が住んでた所でしょ?」
「そうよ、どんな所なのか、一度くらいは見てみたいわ」
へ?
どういう意味なのか理解する間で数秒の間があった
「いや、それは…………」
はずかしさのあまり慌てるラグナの中で、不意にそれは起きた
「ラグナ!?」
驚きに満ちたレインの声
な、なんだ!?
視界が霞んでいく
「いったい、どうしたの?」
慌てたような2人の声が聞こえる
目から涙がこぼれ落ちる
……ちょっ、ちょっと……
混乱するラグナの意識に何かが触れる
「いや、俺じゃなくって、妖精さんが………」
とっさの言葉
……妖精さん?
言い訳の様に言った言葉が事実だと言うことにラグナは気付いた
訳が分からずに混乱していた気持ちが落ち着いていく
「妖精さん?」
レインが僅かに首を傾ける
「うん、妖精さん」
「妖精さん、泣いてるの?」
不思議そうに、心配そうにエルオーネが覗き込む
「そうみてー」
「まだ、泣いてるの?」
静かに言われたレインの言葉に、ラグナは、ゆっくりと頷く
「……そう……」
不意に、ラグナはレインの腕の中に抱き留められた
「れ、レイン!?」
慌てるラグナに構わず、レインの腕に力が込められる
「泣かないで……」
耳元で優しく声が語りかける
ラグナではない相手に向けられた言葉
「大丈夫よ、何も悲しい事なんてないの………」
妖精さんが、微かにレインの言葉に反応を返した気がする
……しょうがねーな……
今は妖精さんに譲るよ
そう語りかけ、身体の力を抜いた
END
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