英雄とモンスター(おまけ)


 
「あの………」
「悪いが、席をはずして貰えないか?」
スコールは、黙ったままにラグナを見ている
……そんな事言われて、出て行く訳にはいかないじゃない……
緊迫した雰囲気に2人きりにしたら何が起こるか解らなくて、エルオーネは、その場を動けずにいる
「エル……俺からも頼むわ……」
頼むから席を外してくれないか?
いつまでも動かないエルオーネに今度はラグナが頼み込む
「でも……」
「頼むから……」
視線で大丈夫なの?と問いかけると
大丈夫だと返される
そこまで言うのなら仕方ないけど……
スコールの様子を気にしながらもエルオーネは部屋の外へと出る
「2人とも、喧嘩なんかしないでよ」
……本当に大丈夫かなぁ?
扉を閉める直前の言葉に、スコールが返事を返さなかったことが気になり、エルオーネは、扉の前から動く事かできすにいた

静かに扉が閉められた
「……話って、あれだろ?」
違うって言ってくれれば助かるけど、違うって事はないよな……
ラグナはあの後ずっと、スコールの視線を感じていた
顔が強ばってるし……
……いや、でも……単にスコールが誤解してただけ、だよなぁ?
別に、そんな事話した事もなかったし……
無言で立つスコールが気になる
…………で、納得してくれそうもないよなぁ〜
思わずため息が漏れてしまう
「……なにか言うことがあるのなら聞いてやる…」
スコールの声は声が強ばっている
……スコールくん、ちょっと怖いぞ………
攻めたてる様な視線に背中を汗が伝っていく
「い、いや………その……偶然、なんてのはダメか?」
視線に力がこもる
さ、さすがに迫力あるな
とっさに馬鹿な事を言ったのを後悔するが、すでに後の祭りだ
「そうか、偶然か……」
納得したかの様な口調、だが目は……
「そ、そう、偶然ってことで……」
黙ったまま睨み付けていたスコールが突然背を向ける
??
そのまま、扉の方へ歩いていく
ん?まさか、帰るのか?
「………スコール?」
“カチャ”
ちょっとまて、カチャってなんだ、カチャって!
扉の前で立ち止まっていたスコールが、戻ってくる
「……ス、スコールくん……」
無言で近づくスコールがガンブレードを振り上げた

……なにも聞こえないな……
どうしても中の様子が気になって、エルオーネは扉の前を行ったり来たりしていた
時折立ち止まり、何か聞こえないか聞き耳を立ててみる
絶対何かあるものっ
何か、スコールは思い詰めている様に見えた
ラグナおじさんも緊張してたみたいだし
エルオーネは心配そうに扉を見つめる
何があったのかな……
今までとはまるで様子が違っていた
関係の好転につながる様な事ならいいんだけど……
扉から視線をはがし、エルオーネは再び扉の前を行ったり来たりする
“グァワッシャーン”
扉の中からものすごい音が聞こえてきた
な、何!?
「まてっ、落ち着けっ!」
続いてラグナの声
……………
スコールの声はよく聞こえない
「ちょ、ちょっと、何してるのっ!!」
エルオーネは扉に飛びつき開けようとした
「あ、あかない……」
扉はかたかたと揺れるものの、鍵がかかっているらしく開かない
「キャッ」
中からも再びものすごい音が聞こえる
「避けるなっ!!」
スコールの声の後に続く破壊音
「スコール!?何やってるの!」
エルオーネは、扉を叩くが中からの返事はない
「避けなきゃ死んじゃうだろう!」
ラグナの悲鳴が聞こえて………
「死んじゃうって……」
全身の力を込めて扉を開けようとするが、びくともしない
「スコール!ここ開けなさいっ!!」
中の騒ぎはますますひどくなっていく
……どうしよう………
エルオーネの力では、扉は開かない、中から開けるつもりもないらしい
こんな時に頼りになるのは……
「キロくーんっ!!!」
エルオーネは、キロスに助けを求めに走った

「スコールちゃんっ、スコールくんっっ、スコールっっ!!」
繰り出す攻撃は、軽々と避けられる
「俺が悪かったってっ!」
かすりもしない
俺は次第にいらいらした気分になりながら、ラグナに向かってガンブレードを振り下ろす
「黙れっ!」
水平に薙いだ刃は、ラグナの後ろにあった調度品を粉々に砕く
「ちょっ、ちょっと今のは洒落になんねーぞ」
慌てた様なラグナの言葉
そんな事は知った事か
机が真っ二つに割れる
「スコールっ!」
逃げ回るラグナを追いかけたおかげで部屋の中はめちゃくちゃになっていた
このっ
攻撃はことごとく当たらない
「逃げるなっ」
まるで俺の次の動きが解るかの様な動きをする
ラグナは逃げ回るだけで、一向に反撃しようとしない
渾身の一撃すらも避けたラグナの実力は………
「スコールちゃん、いい加減にしないと怒っちゃうよっ」
ガンブレードは、空を切る
ふざけたラグナの口調
そっちこそ……
「まじめにやれっ!」
ラグナの胸元へと突き出したはずのガンブレードは、壁へと突き刺さる
避けられた……
運の悪い事に壁から抜くことができない
「……あのよ………」
ガンブレードの柄の部分にラグナの手が伸びる
「もしかしたら、俺と戦ってみたかった、とか?」
何を今更………
腕に力が込められ、ガンブレードが引き抜かれた
俺の視線を受けラグナはがっくりと肩を落とす
……………
話そうとしないのなら、実際に戦ってみればその実力が解る
………その他の理由がない訳でもない、が……
「………スコール………実力行使の前に一言な……」
……言ったからといって相手になったのか?
……………………………
ラグナが疲れたように瓦礫の上に座り込む
「あんたの実力を確かめたい……」
「………………騒ぎが収まったらな………」
ラグナの言葉に重なるように音を立てて扉が壊された

部屋はめちゃくちゃだった……
「これは、また見事な壊れ方だな……」
「よお、結構早かったな」
壊れた机(?)の上に座り込んだラグナがのんきに手を挙げる
「……ラグナおじさん……」
エルオーネは、怪我一つないその姿に安心する
そ、そうだよね、いくらなんでもスコールが一般人(……でもないけど)に本気になったりしないよね
壊れた部屋の様子はものすごいものだったけれど、2人共まったく怪我はしていない様なので、エルオーネは少し安心する
「これはいったいどういう事ですか!?」
安堵したエルオーネの後ろから役人の声
「どうしたっていってもなぁ〜」
振り返れば、まさに頭に血が登ったっていう状態で……
「説明をお願いします」
………この部屋、使い物にならないよね………
「話すと長いんだがな……」
「では簡潔に」
困ったように頭を掻くラグナがそっと、スコールを隅の方へと移動させる
「まぁ……なんてーか………簡単に言うと、意志の疎通に失敗した、と……」
それって……
エルオーネは、思わず隣に立つキロスを見上げていた
「……そういうことだろう……」
エルオーネにだけ聞こえる小さな声
なんとなく事情が解ってしまう
……………なんでこの親子ってこうはた迷惑なのかしら……
エルオーネは、そっとスコールを呼び寄せる
「それがなぜこういう状況に!?」
役人は、はっきりしないラグナに詰め寄っている
「……後、任せるね……」
そっとキロスに囁くと、エルオーネはスコールの手を取りその場を逃げ出した

数日後、親子喧嘩で、大統領官邸の一室が破壊されたという噂が流れる
その件に関して、関係者は一様に口を堅く閉ざしたが、大統領官邸に、強度の高い訓練施設が作られた事により、その噂は真実味を帯びる事になった
 

END