英雄と犯罪者(おまけ)


 
……無言の圧力、だよな……
部屋に入ってきてから、スコールは一言も話さない
キロスもウォードもいなくなるしよ……
久しぶりに親子の絆でも深めたまえ、と面白そうに言っていった、が……
この間会ったばっかりだしな……
……そりゃ、普通に話とかはできなかったけど……
スコールは、室内に視線を巡らせている
あいつら、絶対逃げたよな……
殺風景な室内
ちょっとやそっとじゃ壊れたりしない頑丈な造り
「………スコールくん………」
そっと、声をかけてみる
むっとして、スコールがラグナを見る
………………
無言の時間が流れ
……前もこういうのあったよな………
冷や汗が流れる
……きっと、手加減なんかしてくれないだろうな……
ここは、以前新たに作られた訓練施設
ラグナと話がしたい、とスコールが強ばった顔で言ったとたん、ラグナの優秀な秘書達は会談の場としてここを使うよう、強引に主張した
……喧嘩しろっていってるようなものだよな………
「…覚悟はできてるみたいだな………」
低く囁くようにスコールが言う
か、覚悟?
知らない間に後ずさっていた
「スコールくん……」
ちょっと、覚悟はしたくないんだけど……な……
ラグナが下がった分、間を詰めるように、スコールが大きく一歩足を前へ踏み出す
ガンブレードがゆっくりと持ち上がる
……盾になるようなものもないんだよな……
使わないとはいえ、ここは訓練施設、邪魔になるような(盾として使えるような)家具の類は、一切置いてはいない
刃先がラグナの目の前で止まる
「説明して貰おうか?」
……ここで下手な事言ったら、二の舞だろうな……
ラグナは、天井を仰ぎ見、そして、大きく息を吐き出した
話さなかったら話さなかったで、話したら話したで、怒るんだろうな
催促するようにスコールが切っ先を動かす
話すから、そう脅すなよ……
「初めは、ちょっとした疑問だったんだ……」
ラグナは重い口をしぶしぶ開いた

「なぁ、エスタに来た奴で全員だと思うか?」
人数とかそういう事からではなく、純粋に、苦労してエスタに組織の本部を置く事のへの疑問
『どういう事だ?』
兵士達が忙しく動く中、ラグナ達三人は、集まって話を始める
「なんていうか、さぁ……エスタ以外に本拠地を置いて活動している可能性……」
気を失った元教師を兵士が運んでいく
傭兵というシステムを確立し、本来の目的をないがしろにした者達
「……あり得ない事ではないな……」
そう、エスタには、高度な科学力が存在する、エスタ国内で傭兵が必要とされる割合は、少ない
エスタという国を乗っ取りたい、科学兵器を我が物にしたいというならばエスタへ本拠地を構える可能性もあるだろう
現実的じゃないな……
国内で争いが起きるならば、数十人の安全は最悪の場合無視される事になる
本気になったエスタ軍を相手に勝てるとは思っていなかっただろう
彼等の目的は、自分達の存在を示したいといった権力誇示、もしくは、純粋に金の為で大方当たりだろう
「どっちかっていうと、エスタ以外に行った方が目的は果たせそうだな」
「確かにそのようだ」
今国として安定していると言えるのはエスタや、バラム位だ
ガルバディアは、例の事件のおかげで、国の内外に問題を抱えている
ドールやティンバーは、ガルバディア相手に交渉の最中だし、トラビアは、唯一国を守る為の手段であった、ガーデンが無くなった影響で混乱が生じている
エスタ以外であれば、いくらでもチャンスが転がっている、逆に言えば、エスタ程やりにくい場所はない
………考えれば考える程、だな……
ふとした疑問だったが、突き詰めて考える内にエスタ以外の国に残党がいる可能性が高いように思えた
「連絡取り合ってたりするとやばいよな?」
連絡がなければ不審に思うだろう、通じなければきっと捕まった事に気づく
『逃げられると簡単にみつけだせないな』
こっちは、相手の顔を知らない、一度逃げ出してしまえば、探し出す事は困難を極める
顔を知ってる奴ってのは………
「ガーデンに連絡した方がいいな」
「軍の方に伝えておこう」
「情報聞き出せたらそれもガーデンに伝えるようにってなっ」
解ったの言葉と共に、キロスが歩き去る
…口を割るのを待って手遅れにならないといいけどな……
ラグナは、洞窟の方へ視線を向けた
……………
「なぁ、隠し部屋みたいなとこで、気絶してたのっていたよな?」
間の抜けた話だが、なんらかの用事でその場所にいた人物が、作戦の際のとばっちりで、そのまま気絶したらしい
詳しい状況は解らないが、話を聞いて間の抜けた奴だと思ったから間違いはないだろう
『仕掛けるのか?』
「うまく行くかどうかも解らないけどな」
うまくいったら、儲け物ってとこだな
ラグナは思いついた作戦を伝える為に、歩き出した

「…………すごいとこ通るな……」
聞こえないように押し殺した声
ラグナ達は、前方を歩く犯罪者の後を追い、山を越えていた
いちかばちかのラグナの作戦―――気絶した人物を元の場所へ戻し、発見しなかったふりをして、後を付けるというもの―――は今のところうまくいっている
エスタの北西部には、山脈が連なっている
山々は一つ一つが険しい上に、さほど遠くない距離を置き、2つの山脈が平行して連なっている為、普通通行するのは不可能、と思われていた
「だが、道は選んでいるようだ」
そりゃ、な、選ばなかったらこんなとこ通れないよな……
山を掻き分けるようにしながらも確実に進んでいく彼を追跡するのは、ラグナ達三人
『それにしても、こんな進入経路があるとは……』
ある一定レベル以上の訓練をしたものにしか通れないだろう道筋
「この辺も警備箇所に含めなければならないな」
普通の民間人には到底通ることができない場所、言い換えるならば、ここを通る事ができる人物というのはそれなりの能力を有しているということになる
海から密かに上陸してくれていた方がこっちとしてはありがたかったな………
一度誰かが通った道は、いずれ誰かが通る事になる
ま、早い内に解ってよかったのかもしれないな……
急ぎトラビアへと脱出する彼の後に続きラグナ達もエスタを後にした

「後は、まぁ、そのままつけていったらついちまったって訳だ……」
スコールは、ラグナの話の間も相づち一つ打たなかった
「……それで……ついでに乗り込んだのか?」
口調はいつもと変わらず冷静だが、目が据わっている
冷や汗が吹き出てくる
「間に合いそうになかったしな……」
ラグナは、周囲に視線を走らせスコールから逃れるすべを探す
「間に合いそうに、ない?」
「と、おもったんだってっ!!」
実際は、スコールは間に合った
というか、スコールがやって来る気配で、ラグナ達が密かに退散した、というのが正しい
ラグナの目の前でガンブレードが振り下ろされる
「あ、危ないじゃないかっ!」
刃先が触れる寸前で、ラグナは、大きく後ろに飛び退いていた
「人の迷惑も考えろっ!」
横殴りに剣が繰り出される
「だから、そんなに早く吐くなんて思っていなかったんだってっ!」
スコール(ガーデン)への連絡は仲間の居場所を白状したその情報を流した物だ
きっと、彼等は仲間意識など全くなく、自分たちだけが捕まるのは、割に合わないとでもいうように簡単に白状したのだろう
“ダン”
音を立てて、ガンブレードの刃がラグナの顔の脇へとつきささる
「その後の事はどう説明する気だ?」
底から響いてくる様な声
あ、あと?
ラグナは、そっと、ガンブレードをつかみ、力を込めて引き抜いた
…………あれの事かな………
「………俺達が見つかったら問題だろ?」
他国で、エスタの大統領が戦闘してたってのは、ちょっと立場的にまずいんだよな……
まさか、スコールが来たとも思わなかったし……

スコールは、ラグナの手の中にあるガンブレードを奪い取った
だから、いい加減だっていうんだっ
ラグナに向かい一歩足を踏み出す
そこまで解っているなら、少しはおとなしくしていろっ
来たのが本当に関係のないほかの人間だったら、どうするつもりだったんだ!?
きっと、騒ぎは大きくなっていた
スコールは、ラグナを壁際へと追いつめた
慌てたようなラグナの顔
そこまでやったのなら、責任をとって最後までやり通せ、それができないなら、初めから何もするなっ
怒りを込めてスコールはガンブレードを振り上げた
何事も他人が途中まで手をつけた物は、やり方が違う為、後を引き継ぐ人はいつもよりも面倒になる
中途半端に攻撃を受けた組織は必要以上に混乱していた
今回の件は、後を付けた時点で連絡を入れるとか、なんらかの策を講じられたはず
ラグナが引きつった笑みを浮かべる
言い訳だったのか、制止の言葉だったのか……
「人の迷惑も考えろっ!」
ラグナが言葉を発する前に、スコールの渾身の一撃が振り下ろされた

数時間後、恐る恐る覗いた人々は、息をきらして座り込む二人の姿を見た
この件に関し、様々な憶測がながれたが、二人の間にどういう決着がついたのか、実際のところを知っているものはいない

 

END