英雄と遺産
(事件)


 
室内には、届いたばかりの報告書を読み上げる声が響いていた
報告は先日姿を消した船に関する物
「船底に穴?」
「はい、……いえ、穴というよりは亀裂の様です。船体を前後に二分する形で……」
ラグナはその言葉に眉をひそめた
「……船からはなんの報告も無かったんだよな?」
「はい、付近を航行していた船からもそのような報告は入っていません」
連絡をする間もなく沈んだ?
船体にそれほどの亀裂が入るならば衝撃は大きい
徐々に亀裂が大きくなったのだとすれば、浸水する水に気がつく
「初心者だったのか?」
長い間、外との関わりを断ってきたが為に、船の乗組員が初心者で構成されていた可能性がある
それならあり得るかもしれないが……
「それが…………」
「ベテランだと言う訳か………」
キロスの言葉に肯定する
沈黙しているその間も、全く外部との交流が無かった訳ではない
国籍を隠しあくまで個人取引の名目で、外に出ていた船が多くはないが存在する
どうも嫌な感じがする
「その船は、簡単に穴があく様な船だったのかな?」
「まさか、そんなはずはありません!」
キロスの質問に悲鳴の様な言葉が返ってくる
「いくら軍船ではないといえ、簡単に穴があくような材料を使った船であるはずがありません」
ラグナは、提出された報告書へ目を通す
理論だった矛盾
あり得ない事故って訳か……
室内に重い空気が降りる
「……まだ、事故ではないと決まったわけではありません」
力ない声が響いた

「調査船が沈没しました」
息を切らし、飛び込んできた補佐官の言葉に室内は凍り付いた
なんだって?
声を出すことができず、視線で問いかける
「調査船の一隻が、目の前で沈んで行ったとの事です!」
その言葉は絶叫に近かった
目の前でだと?
「沈んだ際の状況は?」
確信めいた予感がする
ラグナは、キロスと視線を交わす
視線を受け、キロスは端末へと手をのばす
「それで、どういう状況で沈んだって?」
ラグナはもう一度、一言一言区切る様にして、言葉を掛ける
冷静なラグナの声に、息を整え、彼は口を開く
「それが、波も低く穏やかな天候でしたが、突如調査船の一隻に船底から浸水、沈んでいったと……」
「乗員はどうなった?」
調査船は3隻、他の2隻に被害が無かったというならば、すぐに救出に向かっているだろうが……
「全員無事です」
その言葉に室内の空気が僅かに緩んだ
不幸中の幸いってやつだな
「近くに船は無かったのか?」
もしくは、空の上ってところか
「いえ、視界の届く範囲に船影は無かった様です、ですが……」
無言で先を促す
「水中に船影を見たとの証言が上がっています」
水中に船影?
海上に姿が見えないとなれば、それは、水中に存在すると言うことになる
「なるほどな……」
視界の隅でキロスが、部屋を出て行くのが見えた
 
 

 
 
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