(終幕)
「かつて此処では月の涙への対策が研究されていました」 少女の姿をした機械が軋んだ言葉を語る 「月が零すモンスター達への対抗策です」 機能に異常が現れたのか、部屋の片隅で座り込んだ姿は、老いた老人の姿を思い起こさせる 問われるままに語られる事実は、聞く者達に意外の念を与える 始め研究されていたのは、モンスターを操るのではなく、モンスターによって及ぼされる被害を無くする為の研究 モンスターからもたらされる被害の最もたるものは、その凶暴性から生み出される、命に関わる被害 それをどうにかする事を優先した結果考えられたのは、モンスターの意識下に働きかけ、凶暴性を破棄する研究 「モンスターの無力化の研究は、その効率性の悪さにより失敗と判断され、それ以上の研究は中止されました」 どこか疲れたように、眼を閉じて言葉を紡ぐ 月の涙がセントラ文明を滅ぼした事は知られている 話しに寄れば、過去の人々は月の涙が襲い来る時期を予測していて、その被害から逃れる為に、様々な対策を練り、可能な限りの実験をしていたという事なのだろう 「それ以後、この研究所では、過去の文献を参考に出現したモンスターを別の地点へ転送する装置の開発を進めて……」 眼に見えて明らかな不調 情報を得て、各地から集まって来た化学者達が、慌てたような顔を見せる あの時、G.F.の攻撃のひずみで予期しない爆発が起きた 材質の解らない施設の大半は無事だったが、未だ稼働していたシステムは可笑しくなったらしい 「けれど、……装置も失敗…………」 雑音混じりの声が語る 説明もなく残された機械の数々 その一端を知る者はここに居る機械の少女しか居ない 「転移範囲が極端に……」 「対象より、巨大」 「エネルギー、悪く」 途切れとぎれの言葉 言葉を語る声が時間と共に聞き取りにくくなっていく 捕らえられた者達は、施設の仕組みについて何一つ理解してはいなかった 彼等が装置を使う事が出来たのは、ただ一体残っていたこの人形のおかげ けれど、今この機械の寿命も尽きようとしている 途切れ、間延びしていく言葉 少しでも情報を引き出そうと言葉を重ねる化学者達の姿を横目に、スコールはそっと人々の輪の中から抜け出す この僅かな時間で、何処まであの施設の真実が解明できるのかは解らない 問いかけ続ける人の声が聞こえる とぎれとぎれの解答 微かな音を立てて扉が閉じる 異様な熱気に包まれた重苦しい部屋を後にして、スコールはゆっくりと息を吐き出す 責任と公平さを示す為のパフォーマンスはそろそろ終わりを告げる 彼女の口からもたらされた情報は、適度な不満と満足を彼等に与えて情報として世界に流出する エスタは早々に、施設を自由に閲覧、使用出来ると決定した 『面倒な事にはなりたくないからな』 あの後すぐ合流し、建物の後に出た後 状況を確認し、情報を集め、ほんの一部分破損した施設を見上げてラグナがすぐさま決定を下し、情報として流すよう指示を出した後に呟いた言葉 情報が流れるとすぐに集まって来た各国の人々 その中でラグナは、自分は専門外だからと、関わり会う事を避けている 余計なトラブルを回避する為の手段 と言えば聞こえが良いが、面倒な事から逃げた様な気がしてならない 「忙しくなりそうだな」 今はまだ直接詳しい話を聞く事の出来る存在がある けれど、それは近い内に……… 先の事を思い気が重くなる 今の内に何か対策をたてておくか 静寂に包まれた廊下がやけに心地よく感じた |