英雄と魔法生物
(おまけ)
今回の依頼先はエスタではない
協力して貰ったという事実はあっても、報告の義務はないはず
別に任務終了後にエスタに来る必要は無い
無いはずなんだが………
戦闘が終わった後、突然に現れたラグナの姿を見たとたん、学園への報告は2人に任せてラグナと共にエスタへと戻った
気になる事はいろいろあって
おかしな事もいろいろある
闘いの合間に見た幻の事とか、考えて見ればおかしなタイミングで現れたラグナの事とか………
エスタへと戻る飛空船の中でとぎれとぎれに交わした会話
―――モンスターを倒したという報告
見慣れた殺風景な部屋の中で、話すべき言葉が思い浮かばない
何を話せば良いのか
何を話そうと思ったのか
―――何を話したかったのか
たぶん、話したところで、どうにかなる訳でも無いのに………
幻の件はラグナが関与している筈は無い
この件に関しては、明確な答えが得られる筈はない
沈黙が室内を支配する
目の前に思い悩むスコールが居る
いつものように、いつもと違って2人の間に横たわる沈黙
良く在る光景で、良くある行動だが、いつもとは違っている事は良く分かっている
今までのように、秘め事を感じ取ったスコールの問いかけの視線を感じない
ラグナの言葉を待つ間の沈黙とはまるで違っている
何か可笑しい事は気付いているのかもしれない
けれど、それ以上に気に掛かる事に出くわしたか………
俺もそんなに上手い方ではないけどさ、隠し事は出来ないタイプだよな
スコールの態度に笑みが零れそうになる
さて、どうするかな
何があったか聞き出すべきか………
聞いた方が良さそうだって事は解っては居るんだけれな
問題は、下手な事を言うとこっちにも追及の手が伸びてきそうだって事なんだけどな………
そんな事を考えながらも、既に行動は決まっている
―――さて、何て言って切り出すか?
まだ沈黙は続いている
ぽつりぽつりと語られる幻の姿
言葉から浮かぶ情景は確かにあの施設―――研究所
残されていた資料には1つも手は触れなかった
あの研究所で行われていたことを知っている訳じゃない
残されていた機械の数々が何を行っていたのか知っている訳じゃない
今回の件に関して、ラグナが知っている事はほんの僅か
その知っている事も真実かどうか確かめては居ない
「昔、昔のおとぎ話だ―――」
知識として知っているのは、遙かな昔に聞いたおとぎ話
そして、目にしたのは古い文献
その2つを結びつける物だって本来なにもないのかもしれない
遠い記憶をたどり、物語を紡ぐ
―――おとぎ話の名を借りた遠い昔の真実
モンスターの中にある秘められた力
それに取り付かれた哀れな人
そして――――――
灯り一つ無い暗闇の中、部屋の中を静寂が支配する
現れたモンスターの姿
闘いの最中に見えた幻の数々
悲しい物語の結末に自然と沸き上がる祈り
遠い過去に思いを馳せる無言の時間
そういえば………
『ようやく全部終わったんだ』
最後にラグナが漏らした言葉がどこか引っかかる
………なんで『終わった』なんて事が言えるんだ?
スコールが倒したのは、海を彷徨っていた1匹のモンスター
ラグナが話した話や幻が真実だとしても、どこかに施設があり、その中に姿を変えた人が存在しているはず
そもそもあのモンスターがそこに関わっているという事すらもただの推測でしかない
全てが終わるということは………
スコールはゆっくりとラグナへと視線を向ける
「―――ラグナ………」
もし終わったと断言できるとするなら、それは―――
スコールの口から、自然と問いつめる様な堅い声が出た
反射的になのかラグナが身を震わせる
考えてみれば、話を知っていたラグナが大人しくしているはずが無い
タイミング良く姿を現したラグナ
ラグナがのっていたのは…………
飛空船で何処に行っていた?
「今度は何をした?」
問いかけの声と鋭い視線を向けた瞬間、ラグナはソファーを飛び越えていた
数時間に渡って続いていた静寂が破られる
例の部屋から聞こえてくる様々な音と声
「やはりこうでなくてはな」
騒々しい音を聞きながらキロスが満足そうに呟いた
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