英雄と墓標
(祈り)
―――あなたは生きて
―――あなただけは生き残りなさい
幾度も祈りを込め思いながら、必死でその作業を続ける
―――あなただけは助けてみせる
―――大丈夫、私が、私達が守ってみせます
頭の中で声が巡る
ここは最後の部屋
ここが最後の砦
部屋の隅にある金属の固まりへと視線を向け
そして、黙々と作業をこなす
物音一つ聞こえない部屋の中では、今の状況は何一つ解らない
細い指が複雑な機械を作動させていく
床が動き、壁が動き、まるで金属が溶けるようになくなり
そして、新たな物体が部屋の中へ出現する
止まる事無く動く指が機械を弾く
部屋の中へと設置されていた機械の一部さえも姿を消し、新しい装置が現れる
ピーー
小さな音が部屋の中へと響く
最後の仕掛けが作動した合図
部屋の中程から部屋を分断するように現れる巨大な仕掛け
細かく編み込まれた堅く頑丈な金属の柵
音も立てずに変わっていく室内の様子
仕切られたこちら側へ出現する巨大な―――棺
人が両手を伸ばしたよりも厚く、特殊な鉱石で作り上げられた巨大な容れ物
出現した最後の護りへと視線を向け、先ほどから唯一変わらないずっと触れていた機械へと視線を戻す
ゆっくりと、慎重にインプットされていく情報
最後の仕掛けを解除する事の出来る強固な情報を慎重に入力する
そして、もしもの時の―――
愛おしむように打ち込まれる数値
解除できる者が存在しなくなった時の為の情報
触れていた手が離れると同時に、機械が姿を消す
棺が扉を開く
そして棺の中へと現れる新たな機械
大丈夫、きっと大丈夫よ
開いた扉へと視線を向け
部屋の片隅と入り口へと視線を流す
何の物音も聞こえない
自分呼ぶ声も聞こえない
「眠りから目覚めた時には何もかもが終わっているわ」
棺の中へと足を踏み入れる
中へ収まると同時に扉が閉じる
最後の機械へと触れた手が微かに震える
装置が作動したことを示すランプが灯る
深い眠りへと誘うガスが流れ込んで来る
ゆっくりと霞んでいく視界
機械が消え、触れていたはずの手が滑り落ちる
―――なんの心配もいらない、その時が来るまで………
深い眠りへと落ちるのとほぼ同時に、棺の外側へカモフラージュの施された機械が現れた
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