英雄と墓標
(鐘)
鐘の音が聞こえる
祈りを乗せた鐘の音
遙か昔から続く鎮魂の音
村の外れに在る墓地
村の規模に見合わない大きさのソレは、長い歴史を語るものじゃない
あの場所に飲まれた命の数々
この村は、死から始まった
この村に最初に出来たものは、この墓地だった
村中に流れる静寂
辺りを覆う悲しみの気配
墓地の中心に在る二つの墓標
遠い昔に刻まれたはずの名前は薄れ読むことが出来ない
「ようやく全部終わった」
語りかける言葉が途切れる
スコールが見守る中で、ラグナはやけに長い祈りを捧げている
ラグナは迷うことなく二つの墓に花を手向けた
この場所は墓地の中央
きっと何か―――
「スコール」
考えに沈みかけたスコールをラグナが呼ぶ
「お前も祈っておけよ」
墓標の前で手招く姿に、仕方なく近寄っていく
知らない相手に祈るも何も無いんだが………
ラグナの手が、スコールを墓標の前へと押しやる
「守るべきだった方々だ」
真剣な色をした声が耳の近くで聞こえた
肩に触れているラグナの手に力が籠もっている
声に出さないラグナの囁きがスコールの髪を揺らした
「結局ここにくるのか?」
墓地を巡り、辿り着いたのは崩壊したセントラの施設
「眠ってる場所はあっちでも、亡くなった場所はこっちだからな」
どこか楽しげにラグナが答える
ラグナは両手に抱えた花の数々を辺りへとばらまく
施設は崩れ落ち、中へと足を踏み入れることは出来ない
かろうじて残っているのは入り口からほんの2、3歩の狭い空間
「―――心配することは何も無い、後はゆっくり眠ってくれ」
吹き抜ける風がラグナの声を運んできた
そういえば………
遠く聞こえてくる鐘の音にスコールはラグナへと視線を向ける
エスタでも使われていた鐘の音
鎮魂の音というアレには何か意味があるんだろうか?
聞こえてくる音になぜか心がざわめく
―――祈りの言葉を紡ぎたくなる
崩壊した施設から離れ、スコールは空を見上げる
青い空に、薄く見える白い帯、柔らかな風が吹き抜ける
今度聞いてみるか
スコールの思いに重なるように、鐘の音が長く響いた
風が鐘を鳴らす
ここにあるのは静寂
聞こえてくるのは祈りの言葉
ここに在るのは滅びの気配
ここに残るモノは何もない
いつの時もここには滅びの気配が存在していた
………はじめから、どこか物悲しい気配に満ちていた
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