英雄とパンドラ
(エスタにて)
「もう少し、セントラ文明時のデータが欲しいですね」
「知ったところで応用は出来ないぞ」
「わかっています、ですがデータが揃っていれば、少なくとも既に行ったものが使えないかは解るかもしれないでしょう?」
「………そうだな………」
「ずっと昔は、そういった情報も残っていたはずなんですけれどね」
不自然に会話が途切れる。
「残ってはいないものに期待しても仕方がない事だ」
「確かに、昔の人々はソレが必要無いと切り捨てたんでしょうしね」
2、3会話を交わし、彼等はそれぞれの仕事に戻る
どこの国でも見る科学者達の実験
大概同じに見える研究者達の研究
彼等は何年も、何十年もの時間を掛けて、同じ事を繰り返す
新しい技術の確立
新しい理論の証明
どこの国の誰でも、大概目的は同じだ
けれど、その先に目標があるとしたら?
再び研究へと戻った彼等の邪魔をしない様にラグナは静かにその場を離れる
ルナティックパンドラに組み込まれていた装置の分析が急ピッチで進められている
あんなもん、増殖されたらと思うとぞっとするもんな
モンスターを呼び寄せる装置
ラグナは、通り道にある研究室を覗きながら、一番奥にあるオダインの研究室を目指す
フィーニャとオダインがルナティックパンドラの解析を行っている
どういう訳か、オダインはフィーニャが相手なら暴走はしない
最強なのか、最悪なのか解らない組み合わせ
オダインの周辺に居る研究員が漏らした言葉だ
まぁ、“研究”に関しては間違いなく最強だろうと思うけどな
あの2人は仕事が速い
そろそろ結果が出てる頃だろうな
あんまり聞きたいとは思わない報告
出来るなら知りたくは無い結論
やっぱり覚悟決めないといけねーんだろうな
ため息を吐いたラグナの目が、所在なさげに廊下を歩く青年の姿を捕らえた
独特のエスタの空気
人を緩やかに拒む空気がエスタには漂っている
この国に暮らすようになってまだ数日、もう数日
人に馴染むのが上手いと言われた私はまだエスタには馴染む事が出来ない
「どうかしたのか?」
不意に掛けられた声に私は驚いて振り返る
「………あ、大統領」
ルナティックパンドラから戻り、エスタへと帰化する手続きを行ってから彼がエスタの大統領であること知った
「んで、どうかしたのか?」
私の挨拶の言葉に、簡単な返答が返り、そして再び同じ言葉が繰り返される
「え、いえ………」
私は“エスタに馴染めない”という言葉を言うことは出来ず、結局あやふやな言葉を返してしまう
「そういや、担当部署って決まったのか?」
「え?………いいえ、まだ………」
エスタの公的機関
エスタに属する研究員の9割はここに所属しているという事も、先日始めて知った事
私も同様にこの場所に所属はしたけれど、まだこの場所に慣れる事で手一杯で担当部署なんて考えてもいない
「なら、丁度いいかもな」
大統領が一つ頷き、私を手招きする
「まぁ、おかしなヤツだが実力は確かだからな、真面目に相手をすると大変だから、適当にあしらえばいいからな………」
私に向けて幾つもの言葉が向けられる
………いったい何の話ですか?
問いかけようとした言葉は、扉が開いた音に消される
部屋の中から幾つかの視線が大統領と私へと向けられる
「今日から、オダインの助手としてがんばってくれ」
気が付けば私は、人々に同情の視線を向けられていた
「それで結論は?」
ラグナの言葉に、双方が同時に口を開く
一瞬口をつぐみ、改めてオダインが話を始める
「………………簡潔に話してくれるとうれしいんだけどな」
ときどき軌道修正を行いながら話を聞く
ルナティックパンドラが担っていた役割
ルナティックパンドラの中に居たモンスターの正体
そして、発信された信号の行方
最後の1つ、外部に向けた信号は無かったということが救いだ
「残念ながら、書き記された文字の解読はまだ終わっていません」
「あれだけひどい状態ですぐに出来るとは思ってないけどな、なんとなくでも解読出来たら教えてくれ」
「解りました」
「それでどうするつもりでおじゃる?」
滅多にない事に、オダインが静かに問いかけてくる
「そうだな………」
自分を見つめる2つの視線
ラグナは遠く窓の外へと視線を向ける
暴かれていく“セントラ”の存在
「“月”の様子次第だろうな」
それでもいずれは………
「月と言えばでおじゃる………」
まるで重苦しい雰囲気を振り払おうとするかの様に、オダインがいつもの調子で話を始めた
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