英雄とパンドラ
(おまけ)


 
ソファー以外の家具が取り払われ、窓もガラスでは無い特殊な物質がはめ込まれたいつもの部屋
相変わらずどこか不機嫌な顔をして、目の前にスコールが座っている
スコールが言いたいことは解ってる
“ルナティックパンドラ”の件
あの場所で生き残っていた機械の事
オダインが話したって言う“月”の事
オダインの話と実際に目にした物から推測する事は、スコールにとって難しい事じゃない
既に、真実の幾つかには気が付いているだろう
セントラ崩壊の原因
セントラ時代の幾つかの遺跡
セントラ大陸に生息するモノ
そして、ルナティックパンドラの役割
どれもこれも関連するのは“モンスター”だ
そして、“月”
“月の石”というこの地上には存在しない鉱物
そして、モンスターは“月の涙”によって“月”から訪れる
それが意味するところ
それに気が付かない程鈍くは無いだろう
だが………
無言のまま時間が過ぎる
ラグナには、自分から話を振るつもりはない
スコールが話をするなら、出来る範囲で答えるだけだ
解らないこと
そして話せないこと
何よりも、話したくないことが多いんだ
窓の外の日が陰ってきた
スコールが来てから1時間以上時間は経過している
手の中のコーヒーは既に冷たくなっている
冷えたコーヒーを口にする気になれず、ラグナは作りつけのカウンターの上にコーヒーを置いた
「………ルナティックパンドラはどうなった?」
微かな物音に背を押されたとでも言うようにスコールが言葉を放つ
「ん?………ああ、あれなら見事に破壊済み、元々半分こわれてたみたいなものだしな」
ルナティックパンドラは今度こそ破壊された
何一つ稼働していないことは“彼女”が確認した
あの場所にはもう何もない、何一つ残っては居ない
「そう、なのか?」
スコールが躊躇う様に幾度か口を開き、そして閉じる
聞きたいことは解っている、が………
「例のヤツなら、現在解析中だけどな、何が書いてあるのか調べるのはちっと難しいみたいだぜ」
ラグナの言葉にスコールは再び黙り込む
聞きたいことがソレじゃないって事は解ってるけどな
………って、もしかして字の事には責任を感じてるのか?
破壊された跡は新しく、残された文字の部分は綺麗に残されていた
“G.F.”があの場所へとつっこんだ事を考えれば、あの瞬間に破壊されたってのが事実だろう
「いや、別に壊れたものはそれで仕方ないんじないか?」
アレはスコールがやったって訳じゃないんだし
「それに、あの文面はそんなに重要じゃないんじゃないかって思うんだよな」
それに“月”を示す手がかりは密かに研究所に運び込んでいる
今はオダインを初めとした研究者達が調べている最中だろう
そして、アレも含めた文字の解読は………
フォローのつもりで並べた言葉に、次第にスコールが不機嫌に成っていく
………いや、だから他にどう言えって言うんだよ?
的確な言葉が思い浮かばず、ラグナは不自然に黙り込む
さっきと同じ無言の時間
ただし、今はスコールからピリピリとした空気が伝わってくる
ラグナはそっと、腰掛けていたソファーから腰を浮かせる
「終わった事は後悔しても仕方ないし、な」
言い終わると同時に、ソファーの背を飛び越す
一瞬遅れてスコールの足が払われる
スコールの目がより一層鋭くなる
「………だからさ、暴力に訴えるのは止めろ………」
言葉の途中で動いたスコールに合わせラグナは背を向け、扉の外へと逃げ出す
「危ないからよけてろよ」
勢いをつけて走る通路ですれ違う人へと声をかける
「………外に出ないでください!!被害が広がります」
背後から悲鳴のような声が聞こえた

疲れたような足取りで通り過ぎる人の姿が見える
「………鍵をかけるべきですね」
「それはさすがにシャレになんねーからさ」
「ですが、迷惑です」
淡々とした“彼女”の言葉にラグナはがっくりと肩を落としてみせる
芝居がかったその様子に、通り過ぎた職員が恨めしそうな視線を向けた