英雄と伝言
(おまけ)
ラグナに用がある
そう告げると、案内されたのはいつもの殺風景な部屋
人を案内するにはあまりに不自然なこの場所は、専用らしい
秘書官に引きずられるようにつれてこられたラグナがあからさまに肩を落とす
扉が閉まる
逃げるように足早に立ち去る足音
「………………」
唯一の家具といえるソファーへと、ラグナが腰を降ろす
「とりあえず、コーヒーでもどうだ?」
視線が微妙にずれる
スコールの返事を聞かぬまま、コーヒーが淹れられる
ゆっくりとした動作で、一口
「………それで、今日はどうしたんだ?」
ようやく視線が向けられた
聞きたい事は山のようにある
問いただせるものなら、問いただしたいことは山の様にある
今回の件に関しても、
何故ラグナがあの場所にいたのか?
どうしてスコールに遺跡が反応を示したのか?
あの場所は一体どういったものなのか?
何をするつもりなのか?
その他にも様々
問いただしたいことはいくつも在る
だが………
「なんであんたが、あそこに居たんだ?」
「気になったからさ、たまたま鍵も見つかったし、動いてただろ?」
ラグナが言うことも、納得できない訳じゃない
あの状況なら、中が気になるのは当然だって言える
「あの場所は、いったい何だ?」
「何だって言われてもな、研究施設なんだろ?」
確かにフィーニャはそう言っていた
セントラ時代以降の研究施設
モンスターを研究するための施設
研究対象の危険性から2つに分けて作られた施設
一見理に適った説明の様な気がする
だが、何故海を隔てた大陸に関連する施設を作る必要がある?
あまり近くてはモンスターに襲われる危険性があることはわかるが、同じセントラ大陸でも距離を置いた場所へと建設することができるはずだ
セントラとガルバディアでは、距離がありすぎて連携が取りにくいはずだ
ラグナが本気でそう思っている訳じゃないってことも見ていればわかる
セントラ時代の遺跡ではない
モンスターの研究施設
世界へ遺跡が発見されたことを発表したことを考えれば、それは事実なんだろう
それが全てじゃない
まだ稼動していた施設を放棄した意味はなんだ?
放棄したにも関わらず、エスタには研究施設の存在が伝わっていたのは何故だ?
伝わっていたにも関わらず研究データがそのまま残されていた訳は?
少し考えただけで、納得いかない説明がいくつも出てくる
「あの施設は、始めから動いていた訳じゃない」
「………稼動の反応が出たってんで調査にいったんだろ?」
調査に行った方はそうだ
「俺が言っているのは、そっちじゃない」
「っていうと………」
解っていて言葉を避けている
「あんたが行った方だ」
「それは気づかなかったな」
話そうとしない言葉
言おうとしない情報
聞けるものなら聞き出したい
いや、情報がラグナが個人的に隠匿していることなら幾らでも聞きだせる
だが………
すべての情報がエスタに関わるものだとしたら?
国の機密に関わることなら、部外者の自分に教えるはずがない
聞きだせるほど深く関わる決意も無い
口にすべき言葉が思いつかない
問いただすべき言葉が見当たらない
沈黙が横たわる
ラグナが置いたカップが小さな音を立てる
「………スコール」
ラグナが真正面からスコールを見つめた
『いずれ話す』
最後まで話すつもりは無かった
だが、気がつけばスコールへ向かってそんな言葉を告げていた
ラグナをじっと見つめ頷いたスコールの真剣な眼差し
真実を全て話すかどうかは解らない
ただ、言葉だけが滑り落ちた
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