出会い
実はアーロンに初めて会ったときの事って覚えていないんだ
今になっては、親父がいなくなってそれからしばらくして………
親父と一緒に旅をしてシンを倒して、その後いろいろあったみたいだから、少なくとも1年は月日が経ってるんじゃないかって思うんだけどさ
だから、多分、母さんが死んで………
その辺りの頃なのかもしれない
そうやって一つずつ考えていくと、たぶん初めての出会いだったんだろうって日にたどり着くんだけど、それって俺の記憶の中じゃ初めて会った日じゃないんだ
その時にはもうアーロンは親父の友人でさっ
すっごい昔からの知り合い!
みたいなそんな記憶あるんだ
あのジェクトの友人ってことで誰でも知ってるみたいな存在
アーロンみたいなのがジェクトと気が合うのが不思議だ、なんて言われててさっ
―――この記憶なんなんだろうな
そういえば、よくよく考えたらアーロンが親父と一緒に居たの見たこと無いや
これってやっぱりあの時以前のアーロンの記憶、全部偽物って事だよな
―――母さんが死んで、しばらくしてアーロンに会ったとき、あの時の様子がなんか変だって感じたの気のせいじゃなかったんだな
本当はあのとき初めて会ったんだ
俺、誰の仕業か知らないけど、アーロンは昔からの知り合いだって思ってたからさ
―――それも、親父の友人の癖にまともな奴だって思ってた
だから、あの時いきなり泣きついたんだよな
ようやく泣きつける相手が来たってそう感じたんだっけ………
『あいつは泣き虫だからよ』
ジェクトが必ず口にしていた言葉
話を聞いていた時には比喩のの様な、口癖の様なものだと思っていた
だが………
出会い、声を掛けると同時に泣きついてきた子供
突然の事に驚いたのも確かだが、声を掛けても掛けても泣きやまないのは正直参った
どうやらジェクトの言葉は正しかったらしい
さんざん泣いて、泣き疲れたのか眠っている子供の姿に妙な感慨が生まれる
誰も居ない冷えた空間
ジェクトがスピラへと消えた後共にこの家に住んでいたはずの母親は、つい先日亡くなったらしい
スピラでは両親を亡くした子供はそう珍しくは無いが、この場所では違うということは知識として既に知ってはいる
だが、これ程成長した子供が大声で泣くとは思っても見なかった
確かにこれでは、ジェクトが先行きを心配するのもわかる気がする
何かあればすぐに泣くという子供
ジェクトの言った言葉は誇張では無いと覚悟しなければならないな
眠っていてもなお、服の端を握りしめて話さないティーダの様子に、困惑と同時に不思議な感情を抱いた
いろいろと改めて思い出してみれば
小さいことだけどおかしな事ってのに気がつく
プリッツの事、ジェクト以外の選手の事なんてあんま知らなかったし
歩き慣れてる筈の道で迷子になってみたり
昔の事は絶対に話さなかったり
話をしていて、話してる内容にずれが生じたり………
たいして気にもとめなかったけれど、今になって考えてみればおかしな事
あれはさ、つまりアーロンは知らなかったって事なんだよな?
で、そうやって考えるとおっきな疑問にぶつかるんだけどさ
あの俺の………
っていうか、ザナルカンドのみんなが信じていたアーロンの過去って、いったいどうやって捏造したんだ?
―――君の存在が違和感なく受け入れられるように、ちょっとだけ僕たちが力を貸したよ
ジェクトの手によってザナルカンドへと運ばれる道すがら聞いた声
―――もう一つ、君が向こうに行っても困らないように、基本的な事は教えておくから………
その言葉を聞いたすぐ後に流れ込んできた知識の数々
見たこともない巨大な都
世界を埋め尽くして機械の数々
そして、その世界へ暮らす人々―――
―――あの子の事、頼んだよ
不可思議な感覚と光景の先へと抜け出す瞬間
祈り子様の姿を見た
いろんな事をようやく知ったのはずいぶん時間がたってからの事
アーロンの存在、記憶
それが俺たちザナルカンドの人間に簡単に受け入れられたのは
それは………
―――――すべては“夢”の中の出来事
END
|