消失


 
存在することのない記憶がささやきかける
懐かしいと思う感情
思い出さなければいけないことがある
そんな風にささやく声がする
思い出してはいけない事がある
同時にささやく声がする
なぜ、思い出さなければならないのか、なぜ思い出してはいけないのか…………
深く考える間もなく、考えることを、思い出すことを放棄した

 何を思い出さなければならないのか、何を思い出してはいけないのか
 何かをやらなければいけないはずで、ここにいてはいけないように感じる
 同時にここを動いてはいけない気がする

幼い頃に感じていた感情
時がたつにつれ忘れてしまった想い

 長い夢を見ていた
 長い夢を見ている
 目覚めた時には内容は覚えていない
 どれほど望んでも思い出すことができない
  思い出したくなかった

遠く声が聞こえる
懐かしいという感情
不安を抱かせる声

 いつからここにいたのだろう
 いつまでここにいるのだろう

幼い頃に感じていた疑問
誰かを待ち続けていた記憶

 ここにいるべきではない
 遠く誘いかける声が聞こえる
 ここにいるべきだ
 耳元でささやかれた声
 1人だけ取り残されている様な不安
 身動きが取れなくなってしまう

だから、その焦燥も不安もすべて忘れ去ろうとした
そして、すべて忘れ去っていた

やがて、その報いはやってきた
知るはずの無かった世界
知っているはずが無かったはずの光景
遠い記憶の中にある青

遅すぎた記憶
長すぎた想い
こうなったことを後悔はしていない
 心のどこかで後悔している
自分が生きる世界は……………

風が吹き抜ける……星が、砕け散った

 
END