時々刻々と変化する、「F album」 全曲レビュウ。

01 ルーレットタウンの夏/02 solitude〜真実のサヨナラ〜/03 ライバル/04 冬のペンギン/05 WINTER KILL/06 ハルカナウタ
07 ひらひら/08 月夜ノ物語/09 愛のかたまり/10 Hey!みんな元気かい?/11 テノヒラ/12 カナシミ ブルー


01* ルーレットタウンの夏
lyrics:谷中敦 music&arragement:清水昭男
今アルバムで最もインパクトの強い曲。まず「ルーレットタウンの夏」というタイトル自体がストーリーを孕んでいるなあ。歌詞自体は抽象的なんですが、言葉の断片とどことなくフォークロアな曲調が様々なイメージを喚起しますね。ワタシの場合は、「見知らぬ街に迷い込んだら、そこにはどこかで見たことのある懐かしい風景が広がっていた…」という、ゲームとか小説の導入部分のようなイメージが浮かんできます。オープニングでもありエンディングでもあるような…おおっ、まさにルーレットタウン。しかし歌詞の理解を試みようとしてみると、全然都会的なテーマのようですが。

作詞は東京スカパラダイスオーケストラの谷中さん。言葉の乗せ方が大変ドクトクですね。♪くらしのふ〜あん(暮らしの不安)、て。ふ〜あん、とはフツウ譜割りできない。あと、♪あの夏の計算のように、という歌詞がありますが、ワタシは勝手に「計算」ってのは「策略」とかそういう意味の言い替えだと思って、「ああ、なんて難解な詞なんだ」と思ってたんですが。…これってホンマに字の通り「計算」のことみたいですね。夏休みの宿題の計算問題の「計算」。そのように「数え切れない答えがいっぱい」だと。なーんか素朴でかえって味わい深いものがあります。

ソロコンで剛が言ってた「谷中さんが携帯に何十件も入れてきた詩」が、この曲に結実したりしてたら面白いのになー。それをもとに詩集は昨年出されたみたいですけどね。

(03/1/29)




02* solitude〜真実のサヨナラ〜 (New Edit)
lyrics&music:K.Dino arrangement:ha-j
K.Dinoこと堂本光一さん作詞作曲初シングル曲にして主演ドラマ主題歌。こう書くとものすごいエポックメイキングな曲なんだなあ、ということが再認識されます。光一さん曰く、「まさに”キンキキッズ”な、どマイナー曲」だそうです。変則的ですが一応サビアタマという構成で、かつ、剛のソロから始まるというものニクいですな。

なーんてことを今書いておりますが。この曲がリリースされた当初は、正直「ぱっとしない曲だなあ」と思っていたんですよねえ。しかし、テレビの歌番組で、サビ前の剛の高音に「おおっ」と思ったのを皮切りに、聞く毎に評価が上がっていった曲であります。キンキの歌の良さの引き出し方をよく心得て曲作りをしているから、聞く毎にそれがよく理解できるようになってるんでしょうね。音域とかさ。

いつの間にか住みついていた リアルな気持ちがこわかった
繰り返し出てくるこのフレーズ。「リモート」っていうドラマ、光三郎とくるみというキャラクターを強く意識して作られた曲だとは思いますけど、やっぱり光一さんの恋愛観みたいなものは反映されてるではないでしょうか。光一さんってのは突然恋愛することはないんだろうなあ。日常の生活の中で、その連続の中でなだらかに芽生えていくもの、という感じがします。ああ、なんかこのフレーズ自体がリアルでコワイ。

知らず知らずに見下したり わざとケンカしたり
後者はありがちですけど、「見下す」っていう態度を許容する関係ってのはちょっとスゴイですね。でも確かにそうした側面もあるよなあ、なんて妙に感心してしまったりしました。なんだかんだ言って人と人との関係は、それがどんな形であれ「切れない」ってこと自体が奇跡的だと思いますので。

(03/1/29)




03* ライバル
lyrics&music&arrangement:オオヤギヒロオ
キンキに「ライバル」という歌詞を歌わせるというあざとさが気になりますが、いくら聴いても他人事にしか聞こえないのがこのコンビの不思議なところです(笑)。2人のユニゾンは、言葉の最後の音のフェードアウトの仕方までピッタリ合ってるところがあったりして、なかなかスゴイ。

裏旋律を弾いてるストリングスとか、ガイジンコーラスとかアレンジがとってもカッコイイ。冬コンでもライブ映えしてました。このアルバムの中では一番従来のキンキっぽい曲なのかも。しかしこのアルバム、メジャーコードの曲がほとんどないのにバラードも少ない。最早「キンキっぽい」ってのが一体何を指すのかよくわからなくなってきましたね。それは多分いいことだと思うけど。

(03/2/1)




04* 冬のペンギン
lyrics&music&arrangement:樋口了一
もう戸惑う心で生きるのは 君と別れてからやめたけど
なんて歌詞を、いまだに戸惑う心で生きてる剛に歌わせるってのがスバラシイ。別に皮肉でもなんでもなく。だってそうじゃん。だから素直にきゅんとする。最初、ありがちでファンシーなタイトル込みで嫌いな曲だったんですが、このフレーズだけで今とてもスキになりました。

剛の歌う1コーラスと光一さんの2コーラス目では随分味わいが違いますね。1粒で2回オイシイ。いわば「ペンギンバージョン」と「シロクマバージョン」といったところでしょうか。2人で一緒に歌うところは全編で5小節しかないんですねえ。

(03/2/1)




05* WINTER KILL
lyrics&music:堂本剛 arrangement:林部直樹,石塚知生
別のCDの音が入ってきたかと思って、思わずプレイヤーを確かめたワタシ。剛のソロ曲だということを確認し、最後まで聴いて泣きましたよ。剛の自信作だけあります。今までの剛の自作曲では「あなた」に次いで好きかも。

…っていうか、剛、ちゃんと普通に歌えるんじゃない(泣)。わざと声をつぶしたようなミス○ル風歌唱が定着してしまってたもので、以前の剛のあの素直な歌い方ってもう聴けないのかなあ、と諦めていたのですが。ああ、やっぱりこの歌い方のほうが全然いいよう。しかしこの曲の中でも、後半になるとだんだんツブレきて、今の歌い方に近くなってきちゃうんだよなあ。冒頭の「君から僕へ愛」が頂点で、そっからどんどん歌声が劣化する感じ。よっぽど意識しないともう素直ーな感じには歌えないのかしら。冬コンとかMステでこの曲を歌ったときは、もう全くCDのような歌い方じゃなかったもんなあ…。

すき 忘れたくない
「すき」。っていう歌詞がカワイイ〜。剛の「すき」はひらがなだよなあ。

誰もいない 今日 誰もいない
平易な言葉ですけど、剛の持ってる嘘じゃない孤独感が伝わってきます。日常のなかに当たり前のようにある、もう慣れてしまった「孤独」。その何気なさが切ないなあ。

歌詞には一言も「雪」をはじめとして寒さを感じさせる言葉は出てきません。でも聴いてるとハッキリと雪の世界が広がってくる。これは全編を貫いている八分音符の間断ないリズムが雪を感じさせるんではないかと思います。「Last Christmas」とかもそうですよねえ。冬の歌としてはよく使われる手法なのかなあ。編曲はシンプルですけど、アタマの方でベースがブゥゥーンってインしてくるところとか、なんとも雰囲気がよくてたまんないです。あと最後のほうに出てくるシンセとかタムとかピアノとかも、抑制的だけど内にある熱いものを感じさせて素敵。

(03/2/1)




06* ハルカナウタ
lyrics:伊勢華子 music:谷中たかし(canna) arrangement:吉岡たく
このアルバムの中ではあまり印象に残らない曲だったんですが、冬コンでは大活躍してましたねえ。

とにかく音域が広い!光一さんも剛もよく高い声が出るなあ。一番高いのは♪弱さ愛や〜、の「よ」だと思いますが、剛さん、ラクラク出してません?10代の時より高い声がよく出せるようになってるのかもなあ、なんて思いました。それもあの歌い方のおかげなのかなあ…だとしたら一長一短だが。

(03/2/2)




07* ひらひら
lyrics&music:堂本剛 arrangement:ha-j,吉岡たく
剛さんが作詞作曲した曲としては、これまでで最も「よくできてるなあ」という印象を持ちました。オトナっぽいジャズアレンジも不相応になってない。光一さんの曲に対しては「うまいなあ」ってよく思うんですけど。剛の曲って、「うまくつくろう」っていう動機で作られてるものじゃないので、「いい」とは思っても、「うまい」とはさほど思うことがさほどなかったんですよ。この曲については、インタビューで「キンキ仕様の堂本剛作」みたいなことを言ってたように、出来上がりを考慮して作られたものだけあって、珍しく「うまい」という感じがしました。でも歌詞は剛っぽいとこがちゃんと味わえるという。

この坂でキスしたっけな 春の終わりに
ってところの光一さんの声がとてもセクシーですねえ。聞く度に「ギャー」とか言ってしまう(笑)。なんか温度とか匂いとかまで思い出して浸ってる感じがする。

保証のないもの全て 壊してしまいたい
っていう歌詞はとっても剛な感じですね。流石「好きな言葉は永遠」(いやいや)。裏切られることに耐えられない。それだったら初めから信じたくない。みたいな臆病さがよく出てる。

(03/2/2)




08* 月夜ノ物語
lyrics&music:堂本光一 arrangement:ha-j,吉岡たく
作ってる段階でもうステージでやる時のことを考えて作ってるんだろうなあ。光一さんは常に逆算して曲を作ってるように感じますけど、この曲は特にそんな感じ。

聞き込むほどにいろんな音が聞こえてきて楽しい。ケレン味の強いジャパネスクアレンジも勿論そうですが、ファルセットのコーラスが入ってたかと思えば、極低コーラスが入ってたり。どっちも光一さんが自分でやっているのでしょうかね。

確か歌入れのとき、この曲のリズムが間違って1拍遅れて入ってたのを、「面白いから」っていうことで、ところどころ遅れた感じを残してできあがったんですよね。つくづくアイデアマンだ。

(03/2/2)




09* 愛のかたまり (Acoustic Version)
lyrics:堂本剛 music:堂本光一 arrangement:白井良明
出たー。やっぱりこの曲は、シングルのカップリングなんてだけじゃなくてアルバムにちゃんと入れたかったんだろうなあ。なんてったって「お二人の初の共同作業でーす!」みたいなものだから。

キンキの共同作といえば「好きになってく愛してく」が最初だろうとお思いの方も多いと思いますが、アレはLLASみんなで作ったようなものですからねえ。キンキさん(特に光一さん)のこの曲に対する思い入れの強さを感じるにつけ、やっぱりこの曲がなんつーか記念碑的なものになってるんだなあ、と思います。くれぐれもこれが最初で最後になんてことにはならないで欲しいなあ…。…はっ、どうもこの曲を聴くと「失うこと思ってしまうの」。へへへ。

ちょっぴり明るめ、なんかキャンプファイヤーで炎を囲んでみんなで歌っても違和感ない(あるよ)みたいなこのアルバムアレンジも好きです。

(03/2/2)




10* Hey!みんな元気かい?
lyrics&music:YO-KING arrangement:F.L.P
YO-KING曲ということで、聴く前はどーなるやらと期待と不安でいっぱいでしたが。そして聴いてみて「…キンキには合わないよなあ」って思ったけど。でもある日突然大好きになった曲。剛さんもこの曲が好きみたいですねえ。光一さんは「どう歌っていいかわからない」なんて言ってましたが。

歌詞、曲ともに「へっ?」と思うぐらいの単純さなんですけど、1コーラス、2コーラスと進むうちに、聞いてるほうに蓄積してくるものがあって、3コーラスで「ああ、そうだったのか!」というカタルシスがある。歌詞の意味でも、ブラスやイントロのリフがみんな一緒になっていくところとかでも。なんか走り出したくなるような思いがこみ上げてくる。最後まで聴いて初めて、「聴いた」ということのできる曲だと思います。

それにしても水草久はどこへいったのか。

(03/2/2)




11* テノヒラ
lyrics:浅田信一 music:オオヤギヒロオ arrangement:CHOKKAKU
ああ、なんていい歌詞なんだ。それなのになんて平凡な旋律なんだろう。アレンジは生のストリングスとか綺麗なのに。ちょっと残念。

それからタイトルもなあ。数年前から、ビジュアル系バンドを中心に曲名に対する思わせぶりなカタカナ使用が多くみられますが、アレが大嫌いなんですよねえ。「ハルカナウタ」もどうかと思ったんですが。でもこの曲の場合は、「ひらひら」との兼ね合いでカタカナにせざるを得なかったのかな。「ひらひら」と「てのひら」では紛らわしい。かといって「掌」でもねえ。

同じ空気を 感じることや
 ぎこちないオヤスミや 重なる手のひらが
 心に染みわたるように 二人に残りますように

もうこのフレーズだけでご飯10杯は食べられますねワタシ。「ますように」って、祈りなんですよ。今ここに君がいるのに、2人でいるのに、もう祈ってるんですよ。「残りますように」って。ああ、愛って切ないなあ。

キンキってズルイよなあ、と思うのが、歌の歌詞に出てくる「2人」という数が、歌い手の「2人」自身に強くシンクロしてくるからなんですよね。やっぱ2人組ってズルイ。なかでも浅田詞はキンキの「2人」に同調しやすい。やっぱり好きですね。

(03/2/2)




12* カナシミ ブルー(New Mix)
lyrics&music:堂島孝平 arrangement:CHOKKAKU
CHOKKAKUアレンジがまー心地よい。久々に「売れ線狙いました!」ってキアイが感じられるシングル曲だったなあ。UCカードのCMに歌がちゃんと入ってれば、もうちょっとセールスも上がった気がするんですけど(なんでインストなんだあのCMは)。…ってそんな甘いものでもないか。とにかくもうちょっと売れてもいいのではー、と思ったもので。

結局冬コンではこの曲のダンスがみられなかったのが残念。またの機会を期待したいですね。

しかし数えてみると全12曲中5曲がキンキの作詞・作曲。「Produced by KinKi Kids」の文字も伊達じゃない。全曲自作アルバムまでの道のりはそう遠くないのかも。しかし、そう近くもない。剛は既に全曲自作アルバムをソロで出してるわけですが、「KinKi Kids」という名に見合うクオリティの曲を10曲から揃えるってのは、やっぱり至難の業です。妥協しないで挑戦して欲しいなあ。

(03/2/2)





以  上