時々刻々と変化する、「K album」 全曲レビュウ。

01 願う以上のこと 祈る以上のこと/02 同窓会/03 危険な関係/ 04 ラジコン/05 さよならのエトランゼ/06 Family〜ひとつになること/07 いのちの最後のひとしずく/
08 ヒマラヤ・ブルー/09 もっと もっと/10 破滅的Passion/ 11 2nd Movement/12 Time/13 きみとぼくのなかで/14 僕が生まれた日/15 Family〜ひとつになること[Unplugged]




M1 願う以上のこと 祈る以上のこと
Lyric:吉田美和 Music:中村正人 Arragement:武部聡志

 最初の印象は「C album」っぽいなというか「It's All Right」(大好き!)ぽいなと。こういうトーンの曲がアルバムのオープニングチューンを飾るのは「C album」以来なもんで。でも、いざ歌が始まるととってもメロウで。そのへんのギャップもワクワクしました。そしてBメロ以降の2人の声がすごい。特にBメロすごい。低い音域になったときの光一さんの声の包容力がハンパねえ。こんなにピッタリと合わさるもんかねえ。それでいながら、線というよりなんか「面」という感じの響きがする。そういう広がりのある歌声です。やっぱり今の歌声最強説を確信。

 「願う以上のこと 祈る以上のこと」って何だろう、って考えてたんですよ。まあ、「Just do it!」ということではあるんですが、「誓う」ことなんじゃないかな、とも思ったんですよね。「願う」も「祈る」も、自分が相手(神でも)に望むことだけどさ、「誓う」ってのは、自分がやることを約束することだから。この歌詞に出てくる人たちを男女だと考えれば、「もう一回信じてくれ、ちゃんと頑張るから」という、二度目のプロポーズのような曲だなと思って聴いてました。「ね、がんばるよ。」の人たちの後日談にもとれるな。一回完全に信用を失ってるようなのでダメな男なんだろうけど(笑)、そのダメさに気づいて、相手に何かを求めずに、ただ「見ててくれ」っていう潔さ。こういう男がいたらなという、オンナのの理想が詰まってますねえ。それに、男女じゃなくて、絶望している人に真摯に向き合う気持ちを歌った普遍的な内容にも取れるところが奥深い。

(11/11/26)




M2 同窓会
Lyric:松本隆 Music:林田健司 Arrangement:CHOKKAKU

 CHOKKAKUアレンジだけを聞いていれば、「Brand New Song」を彷彿とさせるはずなんだけど、なんだか「負けたらアカン」とか、「ずっと抱きしめたい」とか、そのへんを思い出してしまうのは何故なんだろう。林田健司の曲でもないのに。初めて聴くのに懐かしい。たぶん、林田健司のこれまでの提供曲のなかでは、最も活躍していたときの林田節に一番近い。だからそのへんの“時代”のノリを彷彿とさせるんだと思う。

 松本隆なのに、「同窓会」っていう歌詞のテーマも緩いし(ディテールは流石ですけど)、曲調だって懐かしの林田節だし……なのになんでこんなにも後ひくんだろう。やっぱKinKiの声かなあ。改めて剛さんは「J album」と比べても歌い方が大きく変わった。声をがっと張らずに抜き気味に歌ってる。一人で歌っている時は「ちょっと抜きすぎ?」とか思うけど、ユニゾンになると、それが光一さんと声とすごくいいバランスになるんだよなあ。出すぎない感じが。だから、剛さんの下ハモって、目立ち過ぎてずーっとヘンだなって思ってたんですけど、このアルバムではヘンに聞えなかった。

(11/11/26)




M3 危険な関係
Lyric&Music:吉田拓郎 Arrangement:CHOKKAKU

 他の曲とは明らかに違う。他の曲は、少なくとも「KinKi Kidsが歌う」ということを前提に作られた曲だと思うんですが。この曲は「KinKi Kids」そのものがテーマになっている。曲というかポエムというか、もはや拓郎さんからの手紙なのかなと思う(実際スタッフ宛の手紙がついていたそうですが)。だから曲がKinKiに合ってる合ってないとか、そういうことは超越しているのでは。でも曲はなんとなく「好きになってく 愛してく」を彷彿とさせますね。あの曲って、光一さん作曲にはなってますけど、LLASみんなで作ったような曲だろうとは思ってたんですよ。でもそのなかでも結構拓郎さんのエッセンスが強かったんだなと、勝手に想像した。あと、この曲だけ剛さんはあんまり抜かないで歌ってますね。

 「危険」の意味はいろいろ取れますけどね…。「危険」というか「謎」なんだと思う、拓郎さんにとっては。いつまでたっても。恋愛や思想や趣味“じゃない”ところでつながっている関係。関係の維持に全く努めない関係。互いに互いが必要だと言わない関係。「仕事の関係」といえば身も蓋もないんですけども、だけどどうもそれだけ“じゃない”。拓郎さんにとっては初めて目にする関係だったと思うんですよね。KinKiの2人は。その思いがストレートに表現されていると思います。

 でもさあ、良く考えたら、「一緒にいること」について何かしらの理由をつけなきゃいけない関係の方が不自然なのかもしれないよね。だって家族と一緒にいるのも別に好きだからってわけじゃない。勿論、血がつながってるからとかそんなんでもない。「趣味が同じだから」「○○なところが好きだから」とかっていうのは、その理由がなくなったら一緒にいる必要はなくなっちゃう。きっと何かしらのきっかけがあって一緒にいることになったんだろう。でも、一緒にい続ける理由はない。なのに、一緒にいる。そんな謎な2人でい続けて欲しいなと、オレも思う。

(11/11/26)




M4 ラジコン
Lyric:松本隆 Music:筒美京平 Arrangement:船山基紀

 大好きすぎるーーーーーーー!なんという透明感。「薄荷キャンディー」の空気感に近いかしら。そう考えると松本隆の詞に支配されてる曲な感じがするけど、中川翔子の「綺麗ア・ラ・モード」みたいな、筒美センセイのアイドル節も十二分に発揮されてて。なんて贅沢。この陶酔感というか、甘〜い雰囲気はほんと得難い。綺麗なものだけを蒸留したような曲だ。こういう空気感を歌える女性歌手はいると思いますけど、男子はなかなかいねえよ? 船山さんの編曲も素敵。

 「筒美さんは僕らにとって重要」みたいなことを剛さんが雑誌でコメントしてましたけど、今までの提供曲って、「やめないで、PURE」だけだったんですよね。しかもアレは個人的にはイマイチだと思ってました。だから今回のこの曲はほんと嬉しい。あー、大好きな曲ってコメントしづらいわっ。なんだかんだでタイトル「ラジコン」ってのもすごい。

(11/11/26)




M5 さよならのエトランゼ
Lyric:Satomi Music:馬飼野康二 Arrangement:岩田雅之

 馬飼野さんといえば、現在のジャニーズ曲のどまんなか。とにかくメロディ自体が「若さ!愛!正義!勇気!」みたいな輝きを放ってると思うんですけど、この曲はなんでこんな風になってしまってるんだろう……。やっぱ「若さ!」が抜けるとキツイのかしら。馬飼野さんはきっと「今のKinKi」を意識してアダルティに作ってくださったんだろうけど。なんか良さが出てない感じがする。歌詞がつまんないせいもあると思うけどね。あとハモが多くてユニゾンが少ないのもあると思うけどね。ちょっとテンション上がんないッス。ぐっとくるのはBメロのハモリぐらいか。

 別に普通のアルバムだったら気にならないんだろうだけど、他の収録曲があまりにスーパークオリティなので、妙に聴劣りしてしまう。

(11/11/26)




M6 Family〜ひとつになること
Lyric:堂本剛 Music:堂本光一 Arrangement:吉田建

 今更語ることもない。よくぞ生まれてくれたと思わずにはいられない名曲。アルバムのどまんなかに入ってて、全く他の曲に引けをとらない。

 …と言いつつちょっとだけ語れば。「世界にはどれだけの数の家族がいるんだろう」。光一さんがそんなことをコンサートMCで言ってたことがありました。「ここにいる人全員にお父さんとお母さんがいて、おじいちゃんとおばあちゃんがいて…すごいと思わない!?」(光一)「そうですよ、すごいことですよ」(剛)、みたいなやりとりを聞いた覚えがある。作詞は剛さんですけど、ここに歌われている気持ちが2人のものだということは、こんな些細な例を出すことも無く、疑いようがないっす。それを感じられる(信じられる)ことがなによりの喜び。

(11/11/26)




M7 いのちの最後のひとしずく
Lyric&Music:山下達郎 Arrangement:船山基紀

 この曲は達郎さんのカバーということで、KinKiが歌うことを前提として作られた曲ではないんですね。構成としてはAメロとサビしかない。流石にオシャレ。でも、今回唯一の女性詞だったりと、やっぱりKinKiに合ってる雰囲気はありますね。しかし歌うのは難しそう。なんでああいう音階になるんだろう。「♪横顔の〜」と「♪あなただけを〜」のあたりの音の飛び方がすごい。

 しかし、こんな難曲でもKinKiさんの歌声はやっぱりいい。ユニゾンの時の光一さんの声がちょっと引っ込み気味で、剛さんの方が前に出て聞こえるんだけど、光一さんのその声の気配がタマラナイ。一瞬現れる2人ピッタリのファルセットも鳥肌モノ。

(11/11/26)




M8 ヒマラヤ・ブルー
Lyrics:松本隆 Music:織田哲郎 Arrangement:吉田建

 最初聴いたときは「へー」って感じで、「また織田哲郎外したな…」とか思ってたんですけど(「また」って言うな)、聴くたびに「アレ?いいんじゃない?」って思うようになった曲。ビーイング全盛期の楽曲なんかも彷彿したりした。ブルーっていうイメージもあいまって、ポカリスエットのCMソングみたい!糸井重里呼んできて!

 でも、だんだんハマってきたのは詞によるところが大きいかもなあ。オレ、松本隆の詞、好きすぎるよ…。アルバムに3曲なんて贅沢すぎるよ…。1番から2番への展開が「そうきたか!」という感じで。これはアレだ、史上初のロハスソングだ。勝手に「裕福な幸せロハス夫婦」を想像して聴いてます。ヒマラヤに旅行できるんだからそこそこ裕福だよ(笑)。まあ、そういう思想だけじゃなくって、「君に見せたかった、ふいにさらうように」あたりのロマンチックさも素敵です。ウットリ。

(11/11/26)




M9 もっともっと
Lyric&Music:YO-KING Arrangement:堂島孝平

 これはYO-KINGが考える「いい曲」をストレートにぶつけてきたなあ。しかし、このアルバムで一番浮いてることは否めない。だってKinKiとかほぼ関係ねー。たぶんYO-KINGが歌うのが一番カッコいい曲だ。それだけに堂島くんの苦肉のアレンジがなんか泣ける(笑える)。ちょっと「ベビースター」のCMソング(トート編)を思い出したりした。アレが元ネタ?←いやいや。

 でも、ライブでフツーにアコギ弾き語りとかで歌われたら、たぶんぐっとくる曲なんだろうと思う。きっとそんな風にはやらないだろうけども。シンプルな楽曲は解釈の幅が大きいだけに表現が難しい。

(11/11/26)




M10 破滅的Passion
Lyric:秋元康 Music:伊秩弘将 Arrangement:ha-j

 伊秩さんの曲は流石に華やかさがあるなあ。でもやっぱり秋元康の詞が全然好きじゃない。つまんないとかじゃない。好きじゃない。ダメ男がぐちぐち言ってるのが嫌なんじゃない。ダメさ加減に何かと理由をつけてみせようとするのが嫌いなのよっ。←何故オカマ口調。あとBメロの「♪ウォ〜」ってのがすごい気になるわあ。なんで「♪あ〜」じゃだめなんだろう。でも、「棘が刺さろうとも薔薇を摘む」の言葉の載せ方はめっちゃ気持ちイイっすね。♪とげがさっさろ〜おとぉも〜ば〜らをつぅむ〜。うん。気持ちイイ。「さっさ」のあたり。このラテンなテイストはてっきり吉田建アレンジかと思いきや、違いました。

(11/11/26)




M11 2nd Movement
Lyric&Music:井手コウジ Arrangement:鈴木雅之

 イントロだけ聴くと懐かしのユーロビートナンバーみたいですが、歌が始まると一気に今っぽい。「K album」がこういうコンセプトじゃなくて、普通に製作されてたとしても、この曲は入ったんじゃないかなと思いましたね。というか、他の収録曲がいい意味で時間軸を無視しているということが逆によくわかる曲。「今のKinKi」みたいな観点でチョイスしてたら、アルバムに入ってない曲ばっかりなんじゃないか、ということにここで気づく。

 「Get it on」ぽいというツッコミは光一さん自身がもうしてたんで言いません。ただちょっとだけm.c.ATみたいだなと。嫌いじゃないっす。

(11/11/26)




M12 Time
Lyric:U-Key zone/mikula Music&Arrangement:U-Key zonej

 ハイきた今一番エッジなKinKiどーーーーん!!この曲順に大納得するとともに、改めてこの曲の良さを認識しますね。すげー地力のある曲だ。ただ、周りが理解するには2年ぐらい早かったんだと思う(笑)。雑誌でマッキーがこの曲をやってるKinKiさんのことを「いまだに前傾姿勢を崩さないところがすごい」と評してくれてて、なんかすごく嬉しくなったことを思い出した。

(11/11/26)




M13 きみとぼくのなかで
Lyric&Music&Arrangement:堂島孝平

 さーっと聞ける曲なのですけど、だんだんクセになってくる感じがあるなあ。キー高いよねえ?そのへんもポイントなのかも。歌声の切なさ倍増。しかしなんでこんなポップなアレンジなんだろう。イントロは嫌いじゃないけど、そのあとのリフとか間奏とかはどうなんだとか思った。

 この曲のテーマも、もしかしたら、「危険な関係」と同じく、「KinKi Kids」なのかもしれないですね。脆いような強いような、目に見えない、胸の中に響く“音”のような絆。でもはっきりとは答えを出さない。堂島君の詞は答えをいつも心の中にしまっておくところが好きです。べ、別に意気地無しだなんて思ってないんだからね!

(11/11/26)



M14 僕が生まれた日
Lyric:canna Music:Steve Mac,Shusui Arrangement:石塚知生

 cannnaというかビバ周水なオレ。周水ならばこれぐらいの作曲クオリティは当然。しかし、風景画を描くように心象風景を描く歌詞の感じ、これはcannna名義ならではなのかもしれないな。cannnaは今年から8年ぶりぐらいに活動再開してたんですね。それもなんか巡り合わせだなあ。

 「これぐらい当然」と思って聴いてても、転調後の「明日には新しく 零に還るその時を 何度でも何度でも 生まれ変わり生きている」あたりの歌詞の美しさにやられます。あとここのファルセットは涙腺にくる。

(11/11/26)



M15 Family〜ひとつになること [Unplugged]
Lyric:堂本剛 Music:堂本光一 Arrangement:武部聡志

 せーので一発録りしたというこのトラック。あの「Marching J」の動画とかと同じ頃に録ったんだろうか。ところどころ、2人の声が本当に混ざってしまっている部分があります。それにしてもシングル発売から1年近く経ってるというのに、相変わらず「Family」推しなのはとっても嬉しいことだ。

 「K album」。改めて聴いてみると、それぞれの作り手が、それぞれのやり方でKinKi Kidsにアプローチしてくれていることがわかります。そういうアプローチそのものを味わうのもこのアルバムの楽しみ方の一つ。ある人は今のKinKi Kidsというものを思い浮かべながら。ある人はその人にとって一番記憶に鮮明な頃のKinKi Kidsというものを思い浮かべながら。ある人は自分の考える最良のクオリティを、KinKi Kidsというブランドに託して。その結果、今の流行りとかとは全然関係ない仕上がりになったということは、KinKi Kidsというものの本質が、時代を超越した普遍性にあるということの証明に他ならないと思う。

(11/11/26)






以  上