時々刻々と変化する、「[si:]」 全曲レビュウ。

01 pencil/02 恋のカマイタチ/03 誰かさん/04 リュウグウノツカイ/05 海を渡って/06 ココロノブラインド/07 ナイトドライブ/08 very sleepy!!/
09 くるくる/10 ORIGINAL COLOR/11 Saturday/12 See You In My Dream/13 PINK/14 DEVIL/15 ビーフシチュー/16 50 past 12(AM)


track01 pencil
music:堂本剛 arrangement:usTsn
* あのファーストアルバムを聴いた後では、「今度はどんな尖った音が聞こえて来るのか?」と、どうしても身構えてしまう第一音目。…ポロンポロンという穏やかなギターの音色から始まりました。インスト曲、ということ自体も意外でしたけど、鍵盤を前面に出してることとか、曲調とか、そういう面でも意外でした。意外で嬉しい感じがした。

* 一番上に乗っかるピアノの音色は、可愛らしいけどやや神経質。でも、やがてベースとビブラフォンの、海をたゆたうような緩やかなフレーズに同調していきます。なんか暗示的。でも、ただ穏やかってんじゃなくて、やや幻惑されるような、どこか海の不気味さを残してるのが剛さんらしい。

* それにしても何で「pencil」だったんでしょうか?鉛筆一つから広がる世界、みたいな感じかな?

(07/04/28)




track02 恋のカマイタチ
lyrics&music:堂本剛 arrangement:十川知司
* タイトルのつけ方は1stをひきずってる感がありますが。サウンドは一転して大人びた落ち着きを感じますね。やっぱこのレコーディングメンバー(十川さん、上ケンさん、西川先生あたり)との出会いが剛さんを大きく変えた、ってことが音からも感じられる。変えたというか、自分の音楽を臆することなく出していいんだって、ようやく自分で自分に許可が出せるようになったんじゃないかな。そういう意味での変化。囁くような歌声もツボです。

* 始まったばかりの恋の陶酔感の中にありながらも、いつか恋に終わりが来ることが頭から離れない。それが、剛さんの心の中にいる妖怪「カマイタチ」の正体ということになるんでしょうか。妖怪て(笑)。それにしても「僕は君の物でなく」っていうコトバには引っかかりまくりですよね。誰かを自分のものにする、なんてマッチョなことは考えられないんでしょうね。あくまで誰かに所有されたいというのがなんとも。

(07/04/28)




track03 誰かさん
lyrics:佐藤アツヒロ&堂本剛 music:堂本剛 arrangement:西川進
* 女性視点の曲。このアルバムでは1曲だけですね。「溶いて…」以降は多分過去の話だと思うんで、時制が錯綜してるんですよね。まず別れのシーンがあって、その後、あなた好みの女になるなんて、らしくないことまでやった恋だったのに…と回想してる感じ。強がって別れた女の姿が浮かんできます。

* それにしても1回しか出てこないAメロがわっかんないんだよなー。ここだけ浮いてる。「誰かさん」って一体誰なんだ。誰かさん=愛しい人=あなた、なのか。最初ぼーっと聞いてた時は、直観的に、誰かさん=オーディエンスだと感じたんですけど。もしかしてあっくんが書いたのはココ2行だけなんじゃないの?そんであとは全部剛さんが作ったんじゃないの?!…ま、基本的には西川先生の演奏を楽しむ曲だと思いますのでノープロブレムですが。

(07/04/28)




track04 リュウグウノツカイ
lyrics&music:堂本剛 arrangement:西川進
* なんてかわいいんでしょう〜。発売当時はなんとも思ってなかったんですけど、今ならよくわかる。この若さ(失礼)。ほんと歌声がかわいいんだよなあ。アレンジも含め、曲としてはそれほど好きな曲でもなかったんですが。こないだ突然かわいさに気付いてしまいました。

* リュウグウノツカイは、ダイレクトにドラゴンへとイメージが連鎖する生き物。縦横無尽なトランペットがリュウグウノツカイを表している感じですね。思い切りよく天まで昇って龍になるわけでもなく、本来の棲家である深海に潜むわけでもなく、餌に釣られて日の差す海の表面までノコノコとやってきてしまった。おバカだったかつての自分のことを、自戒と愛しさを込めて歌っているカンジですね。「もう逢えない」のが残念なような。

* 「神様の引き算に 哀しんで足し算ね」ってフレーズがイイです。望んでもいない過剰な名声とか栄光は、神様なりに僕に気を遣ってくれてる証なのかもしれないけど…っていう。ただの元気なギターロックかと思ってたけど、なんかペーソスのある曲なんですねえ。

* あと気になるのは、「強がり」な彼女が「恋のカマイタチ」に続いて登場していることですね。そういう素直じゃないコに親近感を覚えてしまうっていうのは、なんだかよくわかる気がする。

(07/04/28)




track05 海を渡って
lyrics&music:堂本剛 arrangement:吉田建
* 大好きです。今となっては全員が両手を掲げてた、さいたまのライブの印象があまりにも強いですが、その前から。このアルバムの中と言わず、剛さんの作った曲の中では未だに一番好きですね。

* 短いフレーズの一つ一つに、剛さんの日常が目に浮かぶようです。「云われたまま」の日常。「仲間」や「海」なんかに力をもらいながら、適度にやり過ごしてるけど、譲れない場所(=音楽)では「戦う」。…リアルだなあ。なのに、剛さんの詞にしては珍しくナルシスティックな視点が不在。「キミと並んで」、という距離感も素敵。面と向かってじゃなく、傍に立って同じ方向を向いて、言葉じゃなく励ましてくれる人がいる。その得がたさが伝わってきます。だから私もこの曲にとてもエンパワメントされます。勿論ラストのセクシーボイスも好きですが(笑)。建さんのアレンジも愛に溢れてるなあ。

* 「あれ」の謎は謎のままに。

(07/04/28)




track06 ココロノブラインド
lyrics&music:堂本剛 arrangement:亀田誠司
* イントロの粘っこい感じは、1stアルバムの「心の恋人」とかそのへんを彷彿させて、ちょっと「うわー」とか思うんですけど、見事に圧倒的なメジャー感に彩られていきますね。これが流石の亀田アレンジ。師匠、面倒見てくれてありがとうございます。

* 「ORIGINAL COLOR」とこの曲は明らかにシングルを意識して作られた曲だと思うんで、元からメジャー感はあるんでしょうけど。「少女」って言葉づかいとからしくないし。でもこの華やかさはやっぱアレンジに因る部分が大きいよな。椎名林檎好きとしては亀田アレンジというのは念願だったんでしょうね。そのわりに、「WAVER」こっきりのお付き合いとなってしまったようで…。剛さんのその割り切りは正解だと思いますが。

* この曲で気になるのはやはり「僕の機嫌をそっとうかがうみたく 覗く君と」ってトコロ。女に機嫌を取らせるかこの男は!なんてヤツだ!くーっ、でもそれで許されるんだろうなあ。かわいいと何でも許されるんだなあ(笑)。

(07/04/28)




track07 ナイトドライブ
lyrics&music:堂本剛 arrangement:上田ケンジ
* 「車」というアイテムのせいもあるんでしょうか。大人びた印象の曲。「シアワセ過ぎると恐くなる」という詞や、ふわんとしたボーカルも含めて、「恋のカマイタチ」と同一線上にある感じ。でも、ちょっとカッコ良すぎるかなあ〜。上り坂で、エンブレをきかせるだけでなくさらにローギアに入れながら(すぐ止まっちゃうって)、黄色信号でゆっくりと止まり、赤信号の時間をフルに使って、「キスしない?」って…どんなちょいワルオヤジだっ。

* 剛さんは「恋のカマイタチ」と「ナイトドライブ」と「PINK」がこのアルバムのコアになってるという言い方をしていたようですね。でも私の中ではあくまで「海を渡って」と「DEVIL」が中心。

(07/04/28)




track08 very sleepy!!
music:堂本剛 arrangement:usTsn
* ゴリゴリしたギターサウンド。大いに即興的。タイトルもテキトー。全体的に大人しいというか、内省的な感じのするアルバム(剛さんのアルバムなんですから当然)の中では異色かなあ。ラフさ加減がE☆Eにつながっていくようにも感じられます。

(07/04/28)




track09 くるくる
lyrics&music:堂本剛 arrangement:亀田誠司
* このアルバムの中では最もロマンチックな歌詞ですね。アレンジも可愛らしい。サビを一部ファルセットで「抜いて」歌ってるのもニクいです。剛さんこのへん楽勝で地声出るはずなんですけどね。

* しかし「しゃくりあげる現象」って、泣きすぎて「ヒーック」ってなるアレか?そこまで泣く女って…12歳以下?もしくは計算?…なんて思ってしまうのは、多分ワタシの心が汚れているからなんだろう(笑)。えー、そんなトコロにきゅんときちゃうのかあ。男の前では強がるコが好き、みたいな曲が続いた後では大いに違和感。恋しちゃえばあとは魔法のチカラでなんでもかわいく見えちゃう、ということなのか。

(07/04/28)




track10 ORIGINAL COLOR -version[si:]-
lyrics&music:堂本剛 arrangement:亀田誠司
* ギターとベースとドラム(と口笛)だけとは思えない華やかさだなあ。どっか林檎の「ギプス」なんかも彷彿とさせるギターフレーズもあったりして。言い過ぎ?

* 歌詞も基本的にはリアルなんですけど、サビは大嘘という(笑)。ウソというか、「やっぱ愛はいい」って取りあえず言っとかないとダメでしょう、って剛さんがどっかで言ってたので。確かに「繊細な仕草が多くいるんだけど 愛はやっぱいい」って…なんでなんだか全然わかんないッスよね。「愛はめんどくさい」ならとってもヨクワカル。めんどくさいけど、一人はちょっとだけ淋しいし、ちょっとだけ苦しい。その気持ちは無視できない、って感じかな。

* 「いつかもうちょっと 無鉄砲な僕に逢えたらな」という歌詞を今読んで、ああ、これはE☆Eのことかなと思いました。このアルバムでは、1stよりもさらに「事務所とか、ファンとか、何にも気を遣わずに曲を作る」ということを意識したそうですが、それでもやっぱりどこか自分の中でバランスを取ってたと思うんですよね。だってそれが剛さんなんだもん。それが自然なんだもん。イイコでいなきゃいけない、っていうとても強い刷り込みが深いところにあるんだろうからね。

* そういう人だから、「周りに気を遣うまい」ってことを突き詰めて考えていった時に、E☆Eが生まれたんじゃないのかなと。なんで名義が「堂本剛」ではなく、「ENDLICHERI☆ENDLICHERI」なのか。やりたいことをやるのが当然の衝動、という人が多いと思いますが、剛さんにとってはやりたいことを好きなようにやる、ってことが逆に不自然だったわけです。その不自然さに名づけた名前が「ENDLICHERI☆ENDLICHERI」ということなんだろう。そこでやっと「無鉄砲な僕」に出会えたんだろうな。

(07/04/29)




track11 Saturday
lyrics&music:堂本剛 arrangement:上田ケンジ
* ここからアップテンポな曲が2曲続きます。♪ベベベンベンベンベン、というまるで三味線のようなギターのリフがとっても印象的ですね。でもどうもに音がスカスカした感じ。スローテンポの曲ではいやんなるほど濃密なのに。剛さんにしてみれば「つかスカだし」ってことになるんでしょうけど、なーんかシロート臭い仕上がりで、2曲ともそれほど好きになれずにいたんですが。

* それがライブを見て180度評価が変わったんですよね。タノシーじゃん!って。ライブの音のほうが何倍も良かったわけです。どうもこのスカスカ加減は、Funkに傾倒しきれない迷い(そこまでいっちゃっていいのかな、という)、みたいなところが出ていたのかもしれないですね。歌詞の端々に「Sly & The Family Stone」とか「The FUNK BROTHERS」なんかを匂わせていることからもそう思う。こんなところにもE☆Eへの踏み台があったんだな。

* 歌詞としては「街」「土曜の午後」「夕陽」「失くした恋の記憶」という、剛さんの定番モチーフで埋め尽くされてますね。原宿でゲリラライブやった時、この曲を歌ってたのは必然なんだな。しかし、恋人がいなくなると「土曜の午後」ってそんなに淋しく感じられるもんなんですかね。いや、芸能人って曜日感覚が普通の人と違うんじゃないかと思ったもんで。

(07/04/29)




track12 See You In My Dream
lyrics&music:堂本剛 arrangement:吉田建
* コメントはほぼtrack11と同じ。今となっては大好きです。ただ歌詞はちょっとシニカルですね。

* この曲がエポックメイキングなのは、やっぱり「歌詞に英語のフレーズが登場した」ということですよね。単語じゃなくて。曲を作る人にとってやっぱりそこに大きな関門があるという気がしますので。関門をクリアしたからどうってことはないんですけど。光一さんは多分まだその関門をクリアしてないハズ。

(07/04/29)




track13 PINK
lyrics&music:堂本剛 arrangement:十川知司
* 剛さんの中ではとても重要な曲。テレビ出演でも歌われたし、E☆Eライブなんかでも歌われたことからもよくわかる。ノイジーな電子音の中に、十川アレンジ真骨頂の美しいストリングスアレンジが共存する、アンバランスなバランスもカッコイイです。

* 剛さんが大事にしている曲だけあって、歌詞は勿論リアルです。PINK=夕陽=終わった日=(美化された)過去、みたいな連想が成り立つかな。「くたびれた靴捨てた つい美化してしまう過去恋物語を道連れに」ってくだりに特にひっかかりました。なんだ、自分のことよくわかってんじゃん、とか偉そうにも思ったりして。だって剛さんの曲ってあまりに過去に囚われている感満載じゃないですか。確かにこの頃、収集してた靴とか、服とかを盛んに捨てたり、あげたりしてんじゃなかったんでしょうか。いろいろ身軽になって新しく始めたい、という気持ちが歌詞によく出てると思います。まあ、人はそんなに簡単には変われないんですけどね…。とにかく変わりたい、という強い気持ちがあったことは確かで、この曲はその証左なわけです。

* でも個人的には、剛さんの思い入れが強すぎて、何か自分が入っていけない感じがします。「美しく在る為に」も同じ理由からちょっと苦手。

(07/04/29)




track14 DEVIL
lyrics&music:堂本剛 arrangement:十川知司
* とても哀しい歌です。「DEVIL」ってのは、通俗的な言い方をすれば世間とか、とにかくそういう自分を取り巻く世界に対して、(悪意を持って)名づけた名前でしょうね。ワタシはその点に哀しさを感じているわけではありません。そのDEVILから大事な人や自分を守るために、自分の気持ちに嘘をつくことがなんでもなくなってしまった、何も感じなくなってしまった、という渇いた絶望に胸を打たれます。

* でも、その絶望の淵、そこに辿り着いたからこそふつふつと湧き上がる、ある感情がある。それが「愛をしたい」という感情です。7分以上にもわたる大作ですが、そのほとんどが、「愛をしてる 愛をしたい」という言葉の繰り返しに費やされている。それがそのままその思いの強さを表してるんだと思います。

(07/04/29)




track15 ビーフシチュー
lyrics&music:堂本剛 arrangement:十川知司
* ミス○ルじゃねーかというツッコミはありますが、ここまでしみじみとした穏やかな曲を剛さんが作ったってことが、やっぱり感慨深い。肩肘張らずに作った感じが好きです。その分、歌詞も一番リアルなんじゃないかなと思うし。ちなみに、「リアル」という言葉は、うーんと、日常における剛さんの実感がよく表れてるって意味で使っているつもりです。ただ、この曲は、今考えていること、というような観念的なリアルさではなくて、私小説的な描写という意味でリアルな感じがします。…なーんて、まんまと剛さんに騙されてんのかなあ。でも、「嵐に飲まれた 恐かった」なんて、フィクショナルな描写だったらかえって説明不足すぎて使えないフレーズだと思うんですよ。

* 「本当は 本当は 本当に好きだったんだ」ってトコなんて泣かせるよねえ。若すぎた恋を、「あれは恋愛ごっこだった」なんて言ってしまう人がいるけど、そして自分でもそう思うことにしてたけど、本当は、本当に一生一度の恋だったんだ。…なんて自分に素直なんだろう。「DEVIL」からの流れで聴くと、そういう境地に至ったことに感動を覚えずにはいられない。

* で、剛さんの曲だと普通、ここにその…ナルシスティックな視点というか、(大げさに言えば)世界への呪詛に近いものが含まれることが多いんだけど。そんでそういう部分に「世界も自分だから!」とか言ってやりたくなったりすることが多いんだけど。この曲では、全てを受け入れようっていう、その潔い素直さの方が強く感じられて、ポジティブにあっさり聴けるのがいいです。曲調に救われてる部分もあるのかな。だからこそ泣けます。

(07/04/29)




track16 50 past 12(AM)
music:堂本剛 arrangement:usTsn
* コレがラスト?って思うような、いかにもさらに続きますという感じのインストでシメ。16曲中3曲がインストの小品で、実質13曲ということになるんですね。

* やっぱりこのアルバム、大好きだなあ。あらゆる意味で、剛さんの美しき少年期の終わりを体現している気がします。なんか、アルバムごと抱きしめたい(痛)。でも、ここが終わりで、ここが大いなる始まりでもある。「堂本剛」の音楽は、ここから「ENDLICHERI☆ENDLICHERI」へと大きくメタモルフォーゼしていくことになるんですね。

(07/04/29)




以  上