at 奈良・薬師寺大講堂特設舞台 2009.07.11(Sat)



 ワタシはJR奈良駅の近くに宿を取っていたので、駅前からバスに乗って薬師寺に向かいました。一つ前の唐招提寺で降りて、こちらも拝観。南都六宗の律宗総本山(薬師寺は法相宗)。しかし金堂は修理中で、「天平の甍」で有名な屋根の鴟尾は新しいものに変わってるようでした。ピカピカだった。ここに限らず、奈良の寺院は来年の「平城遷都1300年祭」に向けてでしょうか、修理中のお堂が多いような。本坊のほうに鉢に入った蓮がたくさん咲いているらしいので見に行ったところ、入り口の門あたりに蜂の巣があり、ものすごい数が頭上をブンブン飛び回っていたので、チラ見しかできず。寺はやっぱり殺生はアカンということなんでしょうかね。蜘蛛の巣とかも沢山あった。時間がなくなってきたので新宝蔵などは回りませんでした。

 歩いて5分ぐらいで薬師寺北側に到着。チケットに「当日のみ拝観無料」とあったので、南側までわざわざ回ってさて拝観しようと思ったら、開場1時間前ぐらいでしたけども既に拝観締め切りとのこと。中には誰も入れないようになってて、リハの最中のようでした。ライブ前じゃなくて後の拝観だということを全然把握してなかった・・・。南門の向かいの休ヶ岡八幡宮境内で小一時間並んで入場を待ちました。

 入場の際にはカメラチェック等は特になし。これだけでテンション上がります(笑)。それから小さく畳まれた雨合羽が一人一人に渡されました。表には「御守り 堂本剛」と熨斗のように書かれた紙が入ってましたね。今回のライブに行く際、ワタシも一応雨合羽を用意してたんですが、家出る直前に荷物から出したんですよね。雨降らなそうだなと思って。ダボーカッパにならなくてよかった。

 南門を入るとさらに中門があり、正面に金堂、右手に東塔、左手に西塔。さらに金堂の奥に大講堂。まさに教科書に出てきた「薬師寺式伽藍配置」。その講堂の前にステージがあり、金堂と講堂の間、それから金堂の両サイドから塔の手前にかけて客席が設けてありました。4,000席だそうです。薬師寺では度々アーティストのコンサートを催してるんですね。渡辺美里、徳永英明、石井竜也、秋川雅史、さだまさし、平原綾香、河村隆一など。このメンツに剛さんが入るのは全然違和感無いなあ。基準はスピリチュアル度でしょ。あと藤井フミヤとかが入ると完璧だと思います。

 メンバーの皆さんが出てくる前に、山田副住職からのご挨拶がありました。昨日は安田管主だったらしいですが。そういや池上本門寺でのシティボーイズライブの時も住職からご挨拶があったなあ。お寺のイベントではお約束なのか。「これまで3,500人の前で挨拶したことはありましたが、4,000人は初めてです」とのこと。それから安田管主も自分も晴れ男で、薬師寺ではイベントの際に雨が降ることは絶対無い!という心強いコメントをくださいました。それから、「いろんな人にチケットがないかと言われたんですけども、こないだ堂本さんの家によく出前に行ったというお寿司屋さんが『チケット取れないでしょうか?』って言うもんだから、堂本さんに言ったところ、『これも何かの御縁ですからどうぞ』ということで快く引き受けてくださいました」ということでした。その後副住職ご一行は、金堂の真裏の欄干のあたり、つまり最後列ではありますが講堂ド正面に陣取り、最後までライブをご覧になってました。関係者席みたいだったので、ここにそのお寿司屋さんもいたのかもしれない。




M01  ソメイヨシノ
 ライブの始まりを知らせる鐘が鳴ります。後で剛さんが言っていたのですが、正面の講堂の鐘(鐘楼だったのかな?)を剛さんが、金堂の鐘をスティーブが7つずつ鳴らしたということです。
 ステージ奥となる講堂の扉はすべて開け放しており、客席から弥勒三尊像がしっかり見えるようになってます。剛さんはその講堂の右側(上手)から登場。仏像に向き合ってからステージに出てきました。白いシャツに黒地に花柄のベスト。「剛紫」ライブではモノトーンのお洋服のみだったので、今回もそうくるかと思いきや。そういうトコロからして、「剛紫」ではない「堂本剛」なのかなー、なんて思いました。
 一人きり、キーボードの前に座って、「ソメイヨシノ」。きっとこの曲はやるだろうな、とは思ってましたが、弾き語りで聴くのは初めてですね。





ここでバンドメンバーの紹介をします。ギター:名越由貴夫。ドラム:屋敷豪太。キーボード:十川知司。パーカッション:スティーブ・エトウ。そしてベース:吉田建。「ザ・テンプルズ」です(笑)。昨日のライブもかなりイイ感じで、終わった後の飲み会では、皆でDVD見て「おおっ・・・」とか言ってました。それ以外のコメントは特に出なかったんですけど(笑)。でもね、ホントに、音楽と距離がないというか、音楽とピッタリ一体となれた感じがしました。


M02 美 我 空 (inst.)
 これも初めて聴く生演奏の「美我空」。このメンバーでこれをやられた日には大変ですよ。すごいグルーヴ。CDで聴くより何倍もカッコ良かったですね。名越さんのギターもすげかった。剛さんと建さんのダボーベースも違和感なく。





皆さん、「御守り」は受取りましたか?僕がライブをやるとザンザン降りになることが多いと言われて・・・(笑)。雨に濡れると皆さんの身体も心配ですから、ほんの気持ちですけど、レインコートをご用意しました。そこになんかメッセージ的なものもつけたいね、といろいろ考えたんですが、結局「御守り」になりました。でも、昨日も今日も雨も降らず。昨日は心配でステージ上に透明なビニールテントをつけてたんですけど、今日はとっちゃいました。薬師寺さんが「薬師寺の周りに雨が降っても、薬師寺には絶対降りません」っていってらっしゃって、その通りになりました。すごいですね。薬師寺の力で天気図だって変えられるんですよ(笑)。

 空を見上げると、雲が沢山かかってて、風に吹かれて速い流れになってました。この風がいつ雨雲を運んでくるかと思ってヒヤヒヤしてましたけども、不思議と分厚い雲は現れず、薄くたなびく雲ばかりでした。時折何の鳥かはわかりませんが、鳥が2羽、3羽と連れ立って講堂の屋根の周りを飛び回るのも風情があった。




M03 Let's Get FUNKASY!!!
 ここまで客は皆座って聴いてたわけですが。この曲のイントロが始まってしまっては・・・立つでしょう普通!っていうか立って良いの?って感じで、戸惑いながらP-FUNKサインを掲げてすぐ総立ちに。結局ここから最後まで立ちっぱになりましたね。勝手に、お寺だし最初から最後まで座って見るのかなと思ってたんですが。これだったら「美我空」でもう立ちたかったなー。
 ステージ上だけでなく、講堂の中にも照明が仕込まれておりまして、この曲のときには講堂内が紫色に。紫色に照らされた弥勒三尊像を見て、みうら(じゅん)さんが「見仏記」で展開してた、「仏像は極楽浄土から来日したミュージシャンで、お堂でライブをやってる」論をそのまま体現したような絵面だなと思って、テンション上がりました。


M04 Love is the key
 剛さんはエレキを持って。かなり気分良さげに弾いてたなあ。♪Love,Love・・・と繰り返すシャウトも情熱的でした。





 近鉄電車が薬師寺のすぐ脇を「ゴォォォォォ…」と度々通り過ぎましたが、そんなに気になるほどではありません。しかし折り悪く、翌日が奈良市長選挙および奈良市議会議員選挙の投票日で、選挙カーが奈良中を走り回ってまして。MC中はかなり名前を連呼する声が気になってしまいました。いくらそういうハプニングも野外の醍醐味とはいえ、アレはちょっと配慮が欲しかったですねえ。剛さんは不快感をみせることもなく、その音に気をそがれないよう、粘り強く話し続けてましたが。

(選挙カーの音のする方を見ながら)…大変ですねえ(苦笑)。昨日も、奈良のカフェに行って、ファンの方に声をかけられて普通に喋ったりしてたんですけど。その後タクシーに乗ったら、選挙カーにバックをとられまして。座席に座ってチラッと後ろを振り向いたら、目が合って、「…ありがとうございます!」って言われました。別にバックとられたなあと思って振り向いただけなんですけど(笑)。近鉄電車さんは、ライブだから踏切の音控えめにしてくれたりしてくださってるんですけどね。




M05 TALK TO MYSELF
 「美我空」ツアーではベースを弾いてたこの曲ですが、今回はアコギ。この剛さんのアコギがすごくイイ音が出てて、奈良の澄み切った空気を響かせてました。思わず空を見上げました。


M06 ORIGINAL COLOR
 リハの音漏れで、「街」はやるんだなあと予想してましたけど、まさか「ORIGINAL COLOR」をやってくれるとは。剛さんが歌うのをライブで聴いたのはホント久しぶりだったので、最初は懐かしいなあと思って聴いてたんですけども。・・・目の前にいる剛さんは明らかにあの頃とは違うんだなあ、ああ、もう青春は終わってしまったんだなあ、とか、そんな考えがだんだん沸いてきてしまって。でもそれは決して悲しいことではなく。そういう季節を過ぎて、今の剛さんがいる。そして今、当時の剛さんでは絶対できなかった歌い方で、この曲を歌ってくれてる。まるで当時の剛さんを抱きしめるように、歌ってくれている。そのことにものすごい感動してしまいました。思わず涙腺決壊した。





奈良には新幹線が通っていません。そういう選択をしなかったんですね。だからこそ守られているものがいろいろあります。奈良の空はとても不思議な雲がかかってて…まるでその雲に守られているような気がすることもあります。僕はよくクリエイションに紫色を使うんですが、その紫という色も、奈良にいるときに目に焼きついた色なんじゃないかと思います。


M07 空が泣くから
 史上初の”雨乞いソング“なので(笑)、これ歌ってる時に雨が降ってきたらどうしようと思いましたけど(何の心配だ)、薬師寺の御威光で全然平気でしたね。ここぐらいになると日が暮れてきます。サビでは雷鳴(SE)とともに一気にレーザー光線が波状に放たれて、とても幻想的でした。舞台両脇からスモークも焚かれてましたね。
 原曲の凝ったアレンジは大分薄まっており、シンプルになってましたね。でも良さは損なわれてなかった。十川さんの美しいストリングスアレンジを久々に堪能しました。


M08 春涙
 この曲って、剛さんはかなり感情を抑えて淡々と歌い進むんですが、いつも歌終わりのシャウトでドキッとさせられます。剛さんの思い入れがとても強い曲。この曲歌ったあとって、必ず「泣いてる人もいますけども・・・」って言いますよねえ。でもワタシはこの曲では泣きませんよ!





次の曲は、僕がシンガーソングライターを志した頃の曲です。生と死について悩んでいた時の、さまざまな想いが詰まってます。でも、今の僕は、その時の想いを100%受け止めて、消化してここに立っています。だからこの曲を歌うことができるんだと思います。


M09 街
 「ORIGINAL COLOR」の時も思いましたけど、なんか昔の(昔の、と敢えて言いましょう)曲を歌ってる剛さんに透けて、当時の剛さんが見えてきてしょうがなかったんですよね。♪この身体 まだいけるさ ゲームはまだ 終わっちゃいないさ・・・とギリギリの状態で歌ってた当時の剛さんが。それは今の剛さんと、当時の剛さんの間に開きがあるからこそ見えてきたものだと思います。そしてその開きを世間では多分「成長」というのだろうな。でもそんな簡単な言葉では言い表せないもののような気がする。なんとも言えない不思議な感覚でした。
 剛さんもこの曲を歌った後、「当時の自分の考えていたことが、無意識に歌詞に入り込んでいるような気がする」と言ってました。その頃の自分にまったく同化するのではなくて、当時以上に理解してあげることができた。歌いながらそんな感覚を持ったからなんじゃないかなあ。





次の曲は、ある日突然降ってきた曲です。東京に出てきてからもう15年ぐらいになりますが、やはり未だに慣れないところがあります。どうしても、本当の自分を出せてないように感じてしまって…奈良にたびたび帰ってきては、平城宮跡の上に広がる空に辛い想いを放って、また東京に戻るということをしていました。今は、そうやって奈良の空に放した思いを、もう一度自分の胸に戻したりしています。そうすると、とても心がざわついて、眠れなくなったりもするんですけど…そんな時にピアノに向かったら自然と最後までこの曲が出来上がってしまって。翌日は全然違う曲をレコーディングする予定だったんですけども、これは自分にとってとても大事な曲だと思ったので、急遽予定を変更して、その日にアレンジも考えてレコーディングしました。


M10 空 〜美しい我の空〜
 鹿角のオブジェと一体となったお馴染みのマイクスタンドが登場し、剛さんはマイクに手をかけながら歌います。講堂の左右の白い布(壁代?門帳?)をスクリーンがわりに映像も投影されました。でも「空」のPVではなかったようですね。モノクロの空のイメージではありましたが。
 昨日は東儀秀樹さんが参加したということで、ナマ篳篥が聴けなかったのは残念ですが。本編ラストとなったこの曲は物凄かったですね。特に最後の一音を出し切る際、剛さんが今まで見せたことのないような動きを一瞬見せました。なんというか・・・世良公則みたいな・・・・・・いやいや非常に語弊があるな。なんかすごい動物っぽい、本能的な動きだったんです。そうやろうと思ってやったわけじゃなくて、全然意図していなかった衝動に動かされてる感じがしました。心を空(から)にして歌ってた証拠に違いない。




M11 FUNK SESSION
 「これまでお寺でロックをした人はいるけど、ファンクをした人はいないだろうと」。ということで、どうしてもお寺でファンクがやりたかった剛さん。薬師寺さんに相談したところ、「どうぞ悔いのないようにおやりください」と言ってもらったということで、最後にエレキギターをもって思う存分ファンク・セッション。照明もレーザーもレインボーで派手派手。映像も派手派手。剛さんは講堂の中の弥勒像の前まで行ってガンガンにアピール。確かにこれまで仏像に向かってファンクギターを鳴らしまくった人はいないだろうな。
 バンドさんの演奏が段々スピードを速めていき、照明や映像のボルテージもどんどん上がっていくと、剛さんもテンションが上がったのか、ワタシからは剛さんの姿が見えなくなってしまいました。・・・どうやら胡坐をかいて、仏像スタイルでギターを弾いてたらしい。しかし今回の客席はすべてフラットで、ステージだってとりわけ高い所にあるわけではないもんですから、そうすると全然見えないんだよねー。後半は「見えないなあ」と思いながら音だけ聴いてました。剛さんはハケ際、再び弥勒三尊像に礼をしていきました。





 今回のライブは、「これまでの集大成」というのは簡単ですが。堂本剛、ENDLICHERI☆ENDLICHERI、244 ENDLI-x、剛紫。「堂本剛」という一人の人間から生まれてきた音楽が、必然性をもってそれぞれの時間と空間を生き、再び「堂本剛」に還っていく。そんなストーリーを感じさせるライブでした。そしてその還っていくさま、また、今の剛さんがそれぞれの音楽を迎え入れるさまが、とても感動的だったんだよねえ。

 終演後は夜間特別拝観ということで、金堂と玄奘三蔵院伽藍を見ることができました。あと塔のライトアップも普段よりかなり明るくしてあるということでした。薬師寺は若い坊さんが多くて、しかも皆さん話し上手で明るかったな。金堂の薬師三尊像は教科書でお馴染みの優美な仏像ですが、1000年前に作られたとは思えない完成度。あとデカい。飛鳥時代からたいして時間が経ってるわけでもないのにこの進歩はすごい。金堂内の通路では「堂本さんもお求めになった御守り」を1個500円で販売しており、飛ぶように売れてましたね。色が何種類かあって、「堂本さんが買われたのは黄色と紫・・・これ以上は言えません」とのことでした。

 玄奘三蔵院伽藍は、玄奘さんのお参りもそこそこに、大唐西域壁画殿の平山郁夫の壁画をガン見。絵として素晴らしいとかそういうことはよくわからないけども、今の時代に生きている人が書いたこの画は、確実に1000年、2000年と残るんだろうなあと思って。芸術家って時間を超えた存在なんだな。アートっていうのは、「時空を超えたい」という、人間の、それこそ人間にしかない、究極的な欲望の発露なのかもしれない。そんなことにも思いを馳せたライブでした。
以 上