藤岡奈穂子全日本女子新人最優秀選手受賞
        
11/19に兵庫県西宮で行われた全日本女子アマチュアボクシング大会新人戦に拳キチさんのジム所属の藤岡奈穂子が出場して2RRSC勝ちして最優秀選手賞を頂いた。試合前、ウォーミングアップでシャドー、ミット打ちを行った。この時、会場のみんなが注目して「これはプロ並み」とお世辞にも褒め称えてくれた。「あの右ストレート食らったら倒れる・・」そう言われたが私は藤岡の左フックは重いと思うが右ストレートは重いと感じたことはない・・・。藤岡の右は非常に切れるパンチだと思う。
試合に勝った彼女は嬉しそうに、こう私にいいました。「はじめてジャブがあたりました」
  さてさて今日は最優秀を獲得したこともあり藤岡奈穂子の入門して1年の軌跡でも語ろうかと思います。
藤岡は私のジムが年に一度入れている宮城県古川市のマイタウンふるかわと言うタウン誌の募集広告を見てジムに見学に来た。それは去年の春のことです。私のジムがある古川市は人口7万の小さな市でボクシングジムといってもとても練習生が少なく、少ないときで10名くらいの小さなアマチュアボクシングジムです。ジムがはじまって6年。
小人数でも後にプロの新人王決勝に進む佐藤直之や、現在プロで6戦不敗のキューピー金沢らも私のジム出身です。去年国体選手も排出し、少数精鋭ながら今年も藤岡奈穂子というホープも出た。不思議なジムです。しかもお笑い系で有名な拳キチページの管理人のジムだ(笑)
そんなジムにやってきた藤岡だったが見学しただけで半年、ジムに入門しなかった。半年後、再び見学に来た。聞けば高校時代からソフトボールの選手として慣らし5度も国体に出場しているとか。しかし、宮城はソフトボールはあまり強い県ではなくほとんど初戦敗退だったらしい。ソフトボールは団体競技で、誰が打たなかったから負けた。誰がエラーしたから負けたと言うこともある。一転して個人スポーツと格闘技を選らんだのは負けたら自分の責任だからだと言う。そしてあまり女性がやっていないスポーツをやってみたかったという。ボクシングはあまり見た事が無かったらしい。入門した藤岡はやはり運動神経がよく、普通の女性よりはうまくやれそうだなと思った。私のジムは常に女性練習者が通っていましたが特別、女性をボクサーにして試合させてみたいという意志は私自身さほど無かった。楽しくやることも歓迎しているからなのだ。しかし、毎回練習に来ては鏡の前でジャブ、そしてストレートを練習して
それがうまく打てるまで打ち続ける。冬の間はよくブロッキング(相手のパンチを止める)とかウィービング(体を左右に振ってパンチをかわす)の練習を多くやる。教えたからといって普通はなかなか身にはつかない。ディフェンスの練習の後、シャドーをさせると過去の練習生は誰もシャドーの中にディフェンスを織り交ぜて動かない。しかし、藤岡の場合はシャドーの中に体を振ったりブロッキングする真似をやっていた。それが妙に様になっていてまるで2年もジムに通っているかのようだった。私はこの頃年末、後楽園ホールに行き「良い女性練習生がいる。まだ2ヶ月だけど2年もやっているような感じがするんだぞーっ」って仲間たちに言ったらうんざりした顔していた(笑)「そんな馬鹿な・・・」
  年が明けて何気なく左フックを打たせて見る。しかし、後ろから振りかぶるような大きなパンチでさっぱりうまくやれない。ミットを持って強制しながら正規の打ち方で打たせるとさっぱし威力が無い。鏡の前で反復練習をするがまったく打ち方が変だ。ダイエットに通うお姉さんの方が奇麗に打つぞぉって言うくらい左フックがヘタだった。それが何ヶ月経ってもうまく打てない。ストレートは少しは良い音が出るようになったので、ジムの練習生の土キチ(ネット・ハンドル)とマスボクシング(寸止めスパー)をやることになった。藤岡の方は打たせる、土キチのほうは寸止めみたいなルールだ。ガードを固めるツチ土キチに藤岡は打って出るが、いまいち迫力無し、おまけに土キチが打つパンチは
目を閉じ顔を背ける。恐怖の姿勢。ちょっとくらいシャドーがうまく出来るからといってボクサーとしてやれるかというと違う。ボクシングはパンチを交換する競技だ。シャドーは多少運動神経がよければカッコよくやれる。しかし、打ち合いとなって恐くなって何も出来ないのならボクサーとしてはやっていけない。「まあ、そのうち慣れるさ」と私は言い、心の中では初の女性ボクサーが遠のいていた。おまけに土キチが「やはり女だからパンチねえなぁ」ってパンチの軽さを指摘。それでも藤岡はくる日もくる日もディフェンスの練習とシャドーに明け暮れた。サンドバック30秒連打5回、とか1分連打、時には3分連打のせいかいつのまにかスタミナが少し付いてきたかなと思うがマスさせると顔が逃げる。男なら一度は殴り合いの喧嘩ぐらいはしたことがあると思うが女は拳で殴り合うなんて経験が無い。殺傷能力の差か?やはり女性ボクサーは無理か?と思った。しかし、半分、遊び感覚でマスを続けるといつのまにかパンチを見るようになった。慣れれば出来るものだなってその時思った。しかし、相変わらず左フックは手打ちで軌道がおかしく大きなフックだ。練習しても出来ない。フルフェイスのヘッドギアを付けさせて軽く打つという感じのスパーをやってみた。相手は前年の国体選手、木村。パンチは浴びるが相手をよく見ている。もしかしたら行けるかもと思いました。女性ボクサーってどんなレベルだろう?そんな疑問が湧いてきたのは試合が出来るのでは無いかという素朴な思いがしたからです。そこで宮城県内のジムを駆け巡り相手を探したが何処もスパーの相手は受けてくれない。受けるといわれてもシャドーはうまいのでジム行ったら即お断り。もう相手は木村だけか・・・。仕方なくそのままマスやスパーを毎日繰り返す。夏が来て女子ボクシング大会の申し込みがはじまった。一応、選手登録と試合の申し込みをやってみた。練習は日に日に激しくなった。毎日、スパー、マス、シャドーを繰り返した。試合2ヶ月前のことだった。木村が試合に出るためロードワークをしていると何と車にひかれる事故。実は私のジムは試合直前に交通事故は3度目。一度目は6年前に友達の車の助手席に乗せられてスピードだし過ぎでカーブを曲がり損ねて堤防から転落。2度目は対向車線を走っていた乗用車に乗っていた運転手が携帯電話を落とした為、拾おうとして中央ラインをはみ出しての衝突。木村の事故が3度目だ。しかも去年はジムの練習生である木村の弟が交通事故で死亡。拳キチジム交通事故のたたりが今年も襲った。幸い軽い打撲ですんだが試合は断念。とうとう20世紀最後の試合は藤岡の全日本女子新人戦しか残っていなかった。私のジムには藤岡とスパーリング出来るのは木村だけなので相手がいなくなった。私は他のジムに相手を探し、藤岡は相手がいなくなったため練習をさらにハードにさせた。ロードワークも早いピッチで10キロを駆け抜けとうとう腰痛のため満足な練習が出来なくなった。それでも藤岡はジムに通った。ゴムひもを取り付けて毛細筋肉まで鍛えた。練習できないと不安なので細かい技術を教えながら日々を送った。その光景に、ジムの練習生の、のりっぺ(ネットハンドル)が不安で毎晩藤岡の夢に魘されたという。
  ジム選手が長年利用している健康医院に通い、腰の痛みは引いてきた。そして打撲の痛みを押さえて木村もまたジムに戻ってきた。普通のヘッドギアを着用して再び、激しいスパーリングが再開された。しかもシャドー15〜20R、スパー、5〜7R。ミット5〜7R。サンドバック3R、サーキットトレーニング。もう訳が分からないほど練習した。そしていつのまにか、4.5発打って最後の左フックが木村に命中するなど打ち合いにはまったら一歩もひかず、互角の打ち合いに終始した。木村はスパーの後、「パンチ当たんなくなったー」って藤岡のディフェンスを誉めた。打ち終わったら頭を動かすという鍛練されたトレーニングが実を結んできた。いよいよ試合だ!
  試合の前日、大阪に向かうため、雨の中、朝早く車で家を出た。藤岡、のりっぺ、土キチとともに空港を目指すと私の頭の中は試合の前のジンクス交通事故。これだけは避けたいと思いながら走ると雨が止んで虹が見えた。「虹だからレインボーパンチでKOだ!」って試合直前、盛り上がった(笑)大阪にたどり着き翌日、ついに試合を迎えた。しかし、抽選で当たった相手が強そうだ。しかも地元大阪。花束をもらったりしていた選手だったので藤岡は急に不安になった。試合のゴングが打ち鳴らされ向かい合ったと同時に藤岡の左ジャブがヒットする。スパーでいくら打っても木村にはジャブはヒットしない。ボディへ、顔面へ藤岡の左が炸裂する。右はちょっと力んだ感じで的中率が悪かったが2Rにはワンツウーで圧倒的優勢となる。相手のパンチはことごとく空を切る。そしてコーナーにつめてアッパー、その後、連打で相手をキャンバスに倒した。この大会、リングに倒したのは藤岡の試合のみである。立ち上がった後、連打で相手の動きは止まった。レフリーが試合をストップして試合終了。私は友達に最優秀選手もとってくると話していた。その言葉どおり最優秀は藤岡のものとなったのだ。今世紀最後の試合は女性でしかも見事なレフリーストップ。藤岡の歩んできた1年は見事なものでした。

拳キチさん気分サイコー(笑)

2000.11.22作成

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