俺さまはクラトスのことが嫌いだ。

何故と言われれば具体的な要素はすぐには思い浮かばないのだけれど。
兎に角、いけすかない。
俺さまとは全く馬が合わないしな。
ロイドみたいなのも嫌いと言えば嫌い。
それもまた何故なのかはわからないんだけどな。
でもあの親子は性格とかさっぱり似てないし。
それでも稀に面影は感じとれる。
だからなのかどうかは知らないが、
やっぱり俺さまはあの親子が嫌いだ。
嫌い、というよりは苦手と言うほうが近い気もするけど。
それは見なかったことにする。
「・・・俺さまアンタのこと嫌いなんだけど。」
「そうか。」
会いたくもない奴に会わなければならない今日みたいな日は
どうしても作り笑いというものも上手くいかない。
いつも通りにクルシスへロイド達の動向を知らせるために俺さまはここにいる。
だからといって、何で毎回四大天使サマが
わざわざいらっしゃるのかがわかんないんだけど。
良い迷惑だしさ。ここんとこの悩みと言えばそれが一番なわけ。
だから無駄なのはわかってるんだけど
ちょっとくらい反抗したくて今みたいなことを言ってみた。
ちょっとと言ってもこれで通算352回目。
それだけでも結構な付き合いの長さだってわかるよな。
ホント嫌になるっての。
言う度にさらりと流されるのもまたいけすかない。
「そうか、ってそれだけかよ。つまんねぇの。」
「だったら毎回毎回同じような事を言うな。流石に聞き飽きる。」
「んなこと言うならなんでアンタは毎回毎回
 こーんなくだらない報告聞きに来るワケ?暇なのかよ。」
「・・・まぁ、そういうことにしておこう。」
しておこう、ってなんだよ。しておこうって!
俺さまの話なんて聞く価値もないですかっ。
なんだか自分で自分の気を悪くしてる気がして仕方ない。
このどうしようもなくくすぐったい心中をまぎらわす方法など知る良しもなく。
「・・・俺さまもう戻るわ。」
「まだ報告の途中だろう。」
「これ以上アンタと居ると俺さま腐っちゃいそうだから。
 報告なら他の奴にでもするからよ。」
「・・・仕方ないな。」
諦めが早いとは思いつつ俺さまはそのまま
ロイド達が居るだろう宿へと向かおうとした。
が、次の瞬間には目の前に真っ青に晴れ渡った空が広がっていて。
何が起こったかもわからずとりあえず
視界を元に戻そうと立ち上がろうとしたが、動けない。
「・・・何なんだよ。アンタ、邪魔。」
「私が毎回お前の報告を聞きに来る理由を知りたいのではなかったのか?」
「・・・知らなくていいから、どけ。」
「断る。」
なんなんだこの野郎。
そう、動けない理由は俺さまの肩を
そりゃもう力いっぱいクラトスが押さえつけてやがるから。
なんだこの体制。
馬乗り?つーか組敷かれてるってやつ?
俺さまってばもしかしてすっごくピンチー?
そんな馬鹿みたいな考えを廻らせつつも
俺さまの機嫌は当然悪くなっていってる。
「・・・理由。」
「何だ?」
「理由聞いてやるから頼むからさっさとどいてくれ。
 ほんと嫌。俺さまアンタのことキライだっていってんだろ!?」
自分でもわかるくらいに頭に血が上っている。
とりあえずこの状態をなんとかできれば俺さま満足だから。
お願いだから、今すぐ消えて下さい天使サマ。
「・・・フ。」
そこで笑うなー!
笑ってる暇があるなら話してくれ。寧ろ放してくれ。
もう段々と体がわなわなと震え出しそうだ。泣きたい。
「ゼロス。」
「・・・・なんだよ。」

「私はお前を愛している。」

・・・・・・・・・・・は?

「それが、私が毎回報告を聞きに来る、理由だ。」
「・・・・」
俺さま、今夢でも見てる?つーか幻聴?幻聴ですよね?
頭の中が絵を描く前のキャンパスみたいに真っ白になる。
何も考えられなかった。
「・・・ゼロス?」
クラトスは心配そうにというかなんかムカツク表情でこちらを見ていて。
この状態で言葉なんか発せられると思うか馬鹿野郎。
それを察してかどうかは知らないが、
クラトスが俺さまを押さえつけていた手の力を弱めた。
今なら逃げられるとは思うのだが、
脱力感で一杯な体はまだ動いてくれない。

ふと、俺さまの顔に覆いかぶさっていた奴の影が消えた。

「・・・ひゃっ!」

驚いて無意識に間抜けた声を出してしまった。
一瞬、首筋に痺れるような痛みを感じたから。

「・・・これで、お前は私のものだな。」





わけのわからない言葉を残すと、
クラトスは羽を出して視界から消えていった。
それを確認すると急激に俺さまの頭は冴えていって。
先程の状況を思い出し、痛みを感じた部分に手を当てる。


「・・・・まて、おい。もしかして、今のって・・!!」


冷えた筈の頭の熱がまた急上昇。
抗議の声は空しく風に掻き消されるのみだった。





俺さまはクラトスのことが嫌いだ。
何故と言われれば一瞬で俺さまの心を掻っ攫っていきやがったから。
あんないけすかない奴、嫌いに決まってるだろ?






















END







01「いけすかない奴」
久し振りにクラゼロ。
どうせなら襲っちゃえばいいのにねー(ヲイ
なんだかクラトスさん積極的です。直球です。

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