「ハニーv俺さまとお茶でもしなーい?」

久しぶりに立ち寄った王都メルトキオ。
仲間達がそれぞれ自由気ままな時間を過ごすことになったのは
ほんの30分程前だっただろうか。

買い物でもしようかと、既に姿を消していたゼロスを気にしつつ俺は町に出てきた。
そうしたら、何処からともなく女性達の騒ぐ声と
よく聞き慣れた俺よりも少し低い軽々しい男の声。
それを聞いた途端、先刻まで随分と爽やかだった俺の心は一転。
天変地異まで起こりそうな勢いで思考が雷雲に飲み込まれていった。

あの、馬鹿。

そう、馬鹿だ。
アホ神子じゃなくて、馬鹿神子!決定!

「こんなトコで何やってんのかなー?ハニー。」
「!・・・げ。」

噂をすれば、だ。見つかった。
って、何で俺が引け目感じなきゃいけないんだよ。
そりゃ、まぁ、ちょっと路地裏に入り込んで見てたような感じも無くは無いけど。
それだって、もとはといえばお前のせいだろ、お前の!
とか思って思いっきり紅い髪のその男を睨みつけてやる。

「覗き見なんて趣味悪いぜー?」
「・・・色魔よりマシだろ。」
えー?とか言いながら馬鹿にしたように笑うなよ。
なんかスッゲーむかつく。
お前がこの前俺に言ったことは嘘か?冗談か?
・・・今更そんな事言われても困るから。責任とれよ、責任。

「ロイドくんてば、俺さまのハニー達に嫉妬でもしてたわけ?
 うわー、俺さまってば愛されてるー。」
「・・・。」
なんか、ホントに自分が馬鹿だと思った。
なんでこんな奴、好きになったんだろう、俺。
なんだか無性に腹が立って仕方がなかった。
あいつのいつもの冗談を受け流す気力も無く、俺はゼロスに背を向けて走り出す。
後ろから俺を呼び止める声もなく。

大体、あいつが俺のこと好きだって・・・言ったんだ。
俺も、ゼロスのことそんな風に見たことも無かったけど、
やっぱり、他の皆とは違う「好き」って感情がそこに確かに有って。
だから、その、一応さ「恋人同士」なんだよ、俺達。
そんな風になったのにもかかわらず、あいつはいつも通り。
本当に、いつも通りで。
だから先刻もああやって。
なんかさ、腹立つのも通り過ぎて、虚しいんだよ。
俺ばっかりひとりで気にしてるだけみたいで。
まぁ、皆の前でそんな態度なのは仕方ないけどさ。

でも、先刻とか。
二人きりだったんだぜ?
少しぐらい何か無いのかよ。
・・・気まずそうにするとか。

あぁ、もう。こんちくしょー!
・・・なんで俺ばっかり。
あーぁ。宿に戻りたくない。

へらへらしたあいつの顔なんか、見たくない。



















・・・・あ。そう、か。

そう、初めて気がついた。
なんで俺がこんなに腹立ててんのかも、自分でやっと理解した。

そしたら自然と足は宿屋の方へ。
あいつにまず、一発拳を入れてやりたい。
そのあと、いろんなこと含めて、ごめんなって。

今、いつもの倍以上はたらいているだろう勘からすると。
・・・あいつ泣いてるかも。
いや、そこまでいくかどうかはわかんないけど、落ち込んでるとは思う。
これは断言できる。




だから、ごめん。




なんでそんなに不器用なんだよ。
俺、細工は得意だけどさ。
恋、とかそういうのは自分でもわかるくらい不器用っていうか、鈍い。
けど、それ以上にあいつのほうがもっと。

軽口たたいて気を紛らわせようとして。
どこまで素直になれないんだろうな。
・・・俺が気づかなかったどうするつもりだったんだよ。




「ゼロス。」

宿に向かう途中、町のはずれに犬みたいに丸くなってるゼロスを見つけた。
おそらく声は届いたんだろうけど、こっちを向く気配は無い。
膝に顔を埋めたままふわふわとした髪を揺らして。

ほら、思ったとおりだ。


「ゼロス・・・ごめんな。」

これじゃ殴るに殴れないじゃん。
反則だぜ、その泣き顔。

「・・・ろい・ど・・く・・っ。」
「うん、ごめん、ゼロス。」

とりあえずゼロスは泣くので精一杯だろうから。
俺はちゃんと顔を上げさせて、ゼロスの身体を抱きしめた。

今の俺達に必要なのはきっと真剣な恋じゃない。
真剣ってものは不器用過ぎる俺達には難しすぎるしな。



















戯れと冗談。
そんな中でお前が俺だけのために笑ってくれればそれでいい。
流れて心に留まろうとしないその曲のように、陽気で滑稽な。

それがお前と俺の恋で、愛で、友情だ。















END







771「正体を暴け」
「スケルツォ」ってピアノやってる人ならわかると思う。
ロイドくん、私が書くとどうしようもなくお馬鹿です・・OTL

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