俺さまは歩いていた道で小さなガラス玉を拾った。
それは日に当てると手の中でキラキラと輝いて綺麗だった。
いくらガラス玉といえどもこんな人通りの多い道の真ん中に落ちているの物なのだからきっと持ち主はまだ近くに居るはずだ。
それともこんな子供騙しな物に目を付けた俺さまが珍しいのか。
兎に角そんなことを思って軽く辺りを見回してみる。

すると、近くのベンチに座っている女の子とその母親らしき女性が困ったように何かを話していた。
困ったように、なんて俺の思い込みなのかもしれないが、やはり一度目に付いたもの。気になって仕方がない。
ならば、と、俺さまは静かにベンチの方へ近づいた。
まだ二人はこちらには気づかない。
しかし、こちらからはその話の内容がよく聞き取れた。
それはやはりこのガラス玉のことのようで、俺さまはいつもどおりの女性への接し方でまず母親に声をかけた。
当然驚いたように母親は俺さまを見たが、それは特に気にもせずに女の子にも話しかける。
そして素早くガラス玉を女の子の掌にのせてやった。

見れば彼女の目の回りは少し赤くなっている。
余程大事なものだったらしい。
彼女の浮かべた笑顔は今まで見てきたどの女性のものより美しく感じられた。
それと同時に思ったことがひとつある。

彼女達と別れて、次はそのことについて散歩しながら考え込んだ。
「ゼロス。」
ぼんやりと道を歩いていると後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには3つの買い物袋を重そうに抱えたロイドの姿。
重いから持てと言わんばかりの量だった。
流石にこの状態を見て何もしないわけにもいかないので
俺さまは袋を1つ持ってやることにする。
それがまた見た目以上に重いったらない。
「何買ってきたんだよ?」
「グミと食材と・・・あ、あと面白そうなヤツを何個か、な。」
「面白そうなヤツ?」
それが何か気になったが、ロイドはそれ以上教えてくれずに
「宿に戻ってからな。皆にも見せたいし。」
と、満面の笑顔を浮かべて俺さまの前を歩いている。
その笑顔もまたひどく美しいもので。
後でロイドに先程の親子の話をしてみようと思う。
俺さまには見つけられない答えを求めて。

二人で並んで先程来た道をゆっくりと戻る。
町並みに映える紅葉した木の紅さがすがすがしくて、眩しいくらいに思えた。
まだ日は落ちずに空に堂々と大きな穴を開けて輝いてる。
それを見上げて眼を細めながら俺さまは先程のガラス玉を照らしたときと同じように手を掲げてその間隙から太陽を覗き見る。
当然ロイドはその様子を訝り
「何やってんだ?」
と俺さまに尋ねた。
いつもならなんでもないって、それでおしまいなのだけれど。
「先刻、ここら辺を歩いててガラス玉拾ったんだよ。」
今日はこの太陽の暑さに負けて考えるのをやめたように俺さまの口は動く。
「ガラス玉?」
「そ。こーんなふうに日に当てると綺麗に光るんだ。」
俺さまはもう一度手を掲げてガラス玉を持つようにして見せた。
「ふーん?今も持ってるのか?」
「いーや。持ち主の可愛い女の子にちゃーんと返してやったぜー。」
「・・・ふーん。」
可愛い女の子、なんて言ったのがマズかったのかなんなのか。
ロイドの声がほんの少し低くなった。
そんなわかりやすい反応を示してくれるロイドが愛おしい。
今日はなんだか俺さま機嫌が良いや。
「でさ、ガラス玉をかえしたときのその子の笑顔が可愛いのなんのって!」
「・・・結局、ナンパしてたってことか?」
「いやいやいや。ほら、俺さまってば紳士だからよ。んな野暮なことはしない主義なの。」
「なーにが紳士だよっ。」
はぁ、と隣で大きな溜息がつかれた。
俺さま、今ならちゃんと、ロイドくんに愛されてるんだなって感じる。
そう感じられることが、本当に嬉しい。
「・・・その女の子笑顔がさぁ。」
「ん?」
思い出すようにして、ゆっくりと、確実に言葉を紡いでいく。
「なんていうか、すっげー綺麗で、可愛くて。今まで見てきたどんな女の子の笑顔よりも、本当に、綺麗だなって、思ったんだよ。」
コレだけ聞けばただその子が可愛かっただの一目惚れしただのといった話にしか発展しそうにない。
ロイドもそれを悟ったのかどうか、もの凄く複雑そうな表情をしていた。
それを見て、俺さまは小さく、くすり、と笑ってからまた話始める。
「その笑顔が、いつものお前の笑ってる顔と重なってさ。『あぁ、やっぱり俺さま、ロイドくんが好きなんだ。』って、改めて思いました。・・・なーんてな。」
「・・・ゼロス・・・。」
ロイドが驚いたように俺さまの方を振り返って、凄く嬉しそうにした。
そしてまた、俺さまの大好きな、あの笑顔を浮かべる。
「俺も、ゼロスのこと、好きだぜ?」
「うん。ありがと。」
前は言うのが嫌で、恥ずかしくて堪らなかった『ありがとう』って言葉も、ロイドになら、言えるようになった。
それはきっとそのお前の笑顔が俺の過去を溶かしていってくれてる証拠なんだろう。
「笑顔って、不思議だよな。」
「何がだ?」
「いや、なんか、笑顔一つで名前も知らないような奴と仲良くなれたりするだろ?」
「・・・そう、だな。ま、それが『笑顔』ってもんだろ?」
そういってロイドがまた笑う。
何か答えになってないような気もするんだけど、
ロイドがそういうならそれでいいことにしようとも思える。
それもまた不思議だけれど。

やがて宿が見えてきて、ロイドが重い二つの袋を抱えながら歩調を速めた。
「なぁ、そういえば面白そうなのって何なんだ?」
思い出したように呟くと振り向きもせずにロイドが答えた。
「綺麗な、ガラス玉。」
「へ?」
意外過ぎる答えに呆気にとられていると、今度はちゃんとこちらを向く。
そしてロイドは俺さまにだけ聞こえるような小さな声で。
「笑顔っていうのはきっと、世界を繋げてるんだよ。
 ガラス玉みたいに輝いてる綺麗な笑顔がさ。
 俺はそう思うから笑うんだ。
 だからお前も、嬉しかったり、楽しかったりしたらちゃんと、笑えよな。」
らしくない台詞を言うと直ぐに宿に駆け込んで。
ちらりと見えたその顔が朱に染まっていたことを俺さまは忘れることができないだろう。











日の光に照らされてキラキラ輝くガラス玉。
それだって、光があるから輝けるんだ。

俺達が輝くための幸せの法則。
笑顔はきっと、その始まり。





ほら、今も君に幸せが注がれている。















END






519「幸せの法則」
とって付けたようなお題の使い方ですね(痛
笑顔についてなんとなく思ったことをつらつらと。