つい先日、ロイドくん達は世界を統合することに成功した。
いや、俺さまもその「達」の中のひとりに含まれてるんだろうけど、いまいち実感がわかないんだよな。
ほら、俺さまってば裏切り者だったわけだしさ。
本当は今この世界に居るのが不思議で堪らないくらいなんだぜ?
皆は俺さまを『仲間』だって今でも言ってくれるんだ。
正確に言えば、今だからこそ思ってくれてるんだろうけど。
今更あいつらのこと疑えなんて言われたってもう無理だから、それは本心だと信じてる。
でも、それが嬉しい反面、申し訳なさ一杯で。
裏切って、また戻って来たとき、皆、何もなかったようにあっさりと受け入れてくれてさ。
まだちゃんと謝ってすらないんだよ。
それはあいつも例外じゃない。
この旅で一番変わったのは多分俺さまなんだろう。
昔なら、他人のこと気にして真剣に悩むことなんてなかったし。
だからこそ、わかんねぇんだよ。
今、俺さまがしなきゃなんないことが。
そんな途方もないことを考えながら向かってるんだ。
イセリアの森にある、ロイドの家へ。

俺さまとロイドくんはヘイムダールで約束をした。
何をと言えば一緒に旅するってことに他ならない。
まぁ、俺が一方的についてくって言っただけなんだけどな。
それでもあいつはそれでいいって思ってくれてて。
何だかんだ言っても、結局あいつが一番俺を見ててくれたんだ。
それはちゃんと解ってる。
解ってるけど、改めて二人旅っていうと、やっぱりどうやって顔合わせりゃいいのやら。
だって、俺さまあいつのために何もできないし。
そう、いつだって、俺ばっかり救われてるんだよ。そうとしか、思えない。
これ以上、足手まといになるなんて、嫌だ。

イセリアの森を抜けると、ひっそりと木々に囲まれた小さな一軒家が見えた。
ちゃんと顔を合わせる覚悟もできていないうちに、ロイドの家に到着してしまったのだ。
前にも何度か来たことのあるこの家を見上げながらも今立っている場所から足を踏み出す勇気もなくただそこに立ち尽くす。
気づけば身体は震えていて、泣きたくもないのに今にも涙が溢れてきそうだ。

怖い。怖くて、仕方ない。

二人きりの旅。
今更断る理由なんて無い。
けれど、俺が際限なく考え続けてるのはなんとも情けないことで。
嫌われたらどうしよう、とか。
迷惑がられるんじゃないんだろうか、とか。
目下片思い中の女の子ですか俺さま。
笑うなら笑ってくれ。
それでもどうしようもない、その想い。

今まで一直線に地面を見続けていた顔をあげると家の奥のほうに居るノイシュと目が合った。
そういやあいつも居たんだっけ、なんて思ってるうちに近づいてきて。
「クゥーン。」
「・・・よぉ。元気か?」
頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を閉じる。
それでも俺さまの沈んだ気分を察したのか、心配そうな声を出して見つめられた。
飼い主ににて勘の良いことで。
「ところで、ロイドくん何処だ?」
今ではすっかり苦手になってしまった気がする作り笑いを浮かべ、ノイシュに主人の居場所を尋ねる。
するとすぐに後ろを向いて尻尾を振ってみせた。
ノイシュの示すその先にはロイドの母親の墓。
その前にロイドとドワーフの親父さんが立って居る。
なんだか近付き難い雰囲気が漂ってて、先刻にも増して行き辛い。
いろいろ、あるんだろうな。
クラトスの野郎はデリスカーラーンに行っちまったし。
こんな時、俺はどんなふうにお前と話せばいい?
悩んでるお前を励ますなんて器用な真似、俺にはできない。
きっと、コレットちゃんだったら上手く、それこそ自然にロイドを立ち直らせるんだろう。
彼女はその術を知っているから。
それがあまりにも悔しくて。

強く握り締めた拳。
痛い、と感じて意識を引き戻したときは既にロイド達を取り巻いていたあの雰囲気が消えていた。
「話、終わったみてぇだな。」
呟いて、手をぐーぱーと何度かやっていると突然こちらを振り向いたロイドとそりゃもう誤魔化せませんってくらいにばっちり目が合った。
俺さまを見つけた途端あいつの目はこっちが恥ずかしくなるくらい輝いて。
目を反らすにも反らせないのでなるべく作り笑いにならないように笑ってみせる。
ちゃんと笑えてるかは不安だったけど、嫌な顔されなかったってだけ幾分ほっとした。
「ゼロス!」
満点の笑顔こちらに走り寄るロイドを誰が世界を救った英雄だなどと思うのか。
「よぉ、ロイドくんひっさしぶりー!」
「ははっ、久し振りって言ったってまだ1週間くらいしか経ってないだろ。」
「だって今まで四六時中一緒だったから寂しくってよー。」
「確かにな。俺もゼロスが居なくて寂しかったよ。」
その言葉は決して嘘などではなく。
今思えば、本当に俺さまはいつもロイドくんの隣に居たと思う。
いつの間にかそれが自然なことになってて、ロイドくんの隣が俺の居場所に定着していた。
「ロイドくんの天然タラシっぷりは相変わらずだねー。俺さま惚れちゃいそうv」
「なんだよ天然タラシって・・。大体、惚れちゃいそう、じゃなくて惚れた、の間違いじゃないのか?」
「そうとも言うね。でも、ロイドくんってば意外と自意識過剰ー。そんなに自信たっぷりに宣言しちゃってよ。」
「じ・・?」
「・・・ごめん、俺さまが悪かった。」
寂しくて不安で仕方なかった1週間なんてどこへやら。
ロイドくんも俺さまも本当にいつも通り。
いつも通り過ぎてさ、俺さままだここに居ていいんじゃないかって錯覚しちまうよ?
「兎に角!すぐに出発するんだろ?まず何処に行くか決めようぜ。」
「・・・・あのさ。」
「ん?どうしたんだ?」
「ほんとに、俺さまで・・・いいのか?」
「・・・・は?」
いっそ聞かない方が幸せだったのかも知れない。
相思相愛だって馬鹿みたいに勘違いして嫌われたってついていける。
そんな度胸が欲しいと今になってから切に思うよ。
「だって、旅するんなら他にも居ただろ?それこそコレットちゃんとかさ。俺なんかより良い奴なんてどこにでも・・・。」
「あー!もう!またソレかよっ!」
バシッっと良い音がロイドの声と共に大きく響いた。
何かと思えば両頬が痛い。じんじん言ってる。
「俺はお前が、ゼロスが良いんだって!ゼロスと一緒に旅がしたいんだって、わかんないのかよ!?」
「・・・は、ハニー?」
真直ぐ睨むように見つめてくるロイドの瞳に偽りなど微塵も無く。
今まで俺の中にあった蟠りの一切が今の言葉で葬り去られた気がした。
「・・・お前は、俺と旅するの、嫌か?」
「そ、そんなわけないでしょうよ!・・・で、でも俺さま全然役に立たないと思うぜ?」
「あのなぁ!・・・役に立つ、とかそういう問題じゃないだろ。俺は、お前がずっと一緒にいてくれればそれで良いんだよ。」
「ロイド・・・。」
「ほら、行くぞ!」
俺さま今泣きそうな顔してるんだと思う。実際泣きたくて堪らない。
でも、その涙は先程までのような恐れによるものではなくて。
俺の手を無理矢理引っ張って歩き出したロイドの背中が大きくて、頼もしくて、何より愛おしい。

俺で良いって言ったのはお前だぞ?
今更後悔したって遅いからな。
こうなったら地の果てまでお供して、死ぬまでお前の傍に居る。そう決めた。

お前は俺の居場所そのものなんだ。
そこに俺が居て何が悪い。



掛け替えの無い居場所。
それこそ俺の手に入れた幸福。




























振り向くつもりが無いのなら、俺さま泣いてもいいですか?
















END







861 「安住」
一万打記念フリー小説。

ロイドとゼロスが二人で旅に出る直前の話です。
二人旅っていってもノイシュは居るんだよなぁとか思いつつ。
ロイドくん大声で口説いちゃってます。

一万打有難うございますー!
再設より早2ヶ月と22日。なんか数字がよくて尚更嬉しいです(笑
このような辺鄙なサイトに来て下さって本当にありがとうございます・・!
これからもロイゼロ愛で突っ走って行きますのでどうぞよろしくお願い致します。


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報告は不要ですがして下さればこっそり遊びに伺います(笑