見据えた先は、どんなときでも真っ暗だった。


「お前さぁ、最近夜に居ないけど何処に行ってるんだよ?」
「んー?お散歩よ、オ・サ・ン・ポ。」
「毎日?」
「そ、夜なんて暇で暇で仕方ないからなー。」
最近、野宿をするときに限ってゼロスが居なくなる。
街で宿に泊まる時に居ないっていうならどうせ女の子のトコなんだろうとか思えるんだけど、そういうわけでもなくて。
寧ろ街に居るときなんて不気味なくらい大人しくしてることも多くなった。
それが気がかりでしょうがないなんて今更言っても誤魔化されるに決まってる。
だからといって無理に干渉しようとすればきっとまたあの目で俺をみるんだろう。
フラノールの宿であいつとすれ違ったときのような、あの凍った瞳で。
「眠れなくて暇だっていうなら言ってくれればいくらでも付き合ってやるぜ?」
「あはは。そりゃどーも。」
「・・・本気で言ってるんだぞ。」
「・・・わーってるよ。でも、睡眠不足で次の日へろへろだっただなんてシャレになんねーしな。俺さま健気だからそこまでメイワクかけられませんv」
「健気っていう柄かよ。」
「えー、ま、頼るより頼られるほうが好きだけどなー。」
話をそらすな、と言ってやりたかった。
けれどここで無理に話を引き戻しても無駄なのはわかっていたから。
俺はいつでも、こいつの話に誤魔化されてはがりだったと思う。
なんだか、誤魔化されてやらなければこいつが壊れてしまうんじゃないかと心底ハラハラしていたんだ。
何でこんなにおちゃらけてる軽薄な奴に壊れそうだなんて単語が思い浮かぶのかは俺にすら理解できないでいるんだけど。
でも、その単語は今この場に居るこいつにもあてはまるような気がする。

普段よりも危ういゼロスの瞳が俺に向かって何かを叫んでいるような気がして。

「なぁ、俺も一緒に散歩しに行って良いか?」
その日の夜、俺は断られるの覚悟でそんなことを言い出してみた。
何かしなきゃもうこいつが一生このままな気がして仕方ない。
そんなの、嫌だ。
「はぁ?なんで?」
「う・・・いや、なんか夜の散歩って楽しそうだなって思ったからさ。」
「・・・俺さまのコト心配してくれてんのー?」
そう呟いたゼロスの声は普段よりも低く、冷ややかで。
整った顔に浮かべられる笑みに恐ろしさを感じてしまった時にはなにかが俺の中から転がり落ちていくような錯覚を覚えた。
「べ、別にそんなわけじゃないっての!・・・ほら、夜だと星が見えたりして綺麗だろ?」
「・・・そう、かもな。」
「だろ!だからさ、一緒に行って良いだろ?っていうか行くぞ!ほら!」
無理矢理にでもその重く沈んだ雰囲気を打ち消してしまいたくて。
俺は何を焦ってるんだ?
自分に問いかけた言葉も勢いとともに忘れ去ることにした。

動物たちも寝静まった夜というのは昼に歩いていたとは思えないほどの幻想的な雰囲気と不気味さと兼ね備えているものだと思う。
半ば強制的に散歩し始めた俺たちをとりまくのは、輝いている星までも覆い隠そうと吹きつける冷たい風。
「やっぱ綺麗だよな、星ってさ!」
「まぁな。」
「・・・まぁ、ってなんだよ。綺麗だと思わないのか?」
振り返ると星を掴むような仕草を見せるゼロスの存在感に圧倒された。
夜にこそ輝いて見えるゼロスの紅い髪。
不気味なほどに闇に映える。
それが今の俺にとっては、ゼロスがここに居ると訴えかけている寂しげなものに見えて仕方が無かった。
「・・・あんまり空が広くて星が多すぎるから、どーやっても自分のちっぽけさが際立ってきて嫌なんだよ。嫌いじゃないけどさ。」
目の前で叫ぶように強烈な印象と共に佇んでいるお前はそれでもまだ自分がちっぽけだと嘆いている。
「・・・ちっぽけだって、いいじゃないか。お前はお前として生きてるんだろ?今、ここで。」
ゼロスに必要なのは俺みたいな奴のそれこそちっぽけな言葉なんかじゃないのはわかってる。
でも俺が持ってるのはそれだけだった。
「・・・・俺さまもー寝るわ。お前も早いトコ寝ちまえよ?・・・・おやすみ。」
一度だけしっかり俺と目を合わせてから後ろを向いて歩き出す。
最後に小さく呟かれた言葉は永遠というものを漂わせて。
なんでなのかはわからないけれど俺は凄く戸惑って、その言葉を発するのがためらわれた。
「・・・・おやすみ、ゼロス。」
聞こえたのかどうなのかはわからない。
けれど、何事も無かったかのように紅く輝く炎のようなその色は、闇に消されるようにして段々小さくなっていった。

















「おやすみ。」
俺がお前に言った最後の言葉も、これだった。
その時、あの夜のことを思い出したのは何だったんだろうな。

昔も、今も、お前は俺に言葉を返してくれることはなく。



























ありふれた言葉は凶器へと変わってしまったんだ。






















END








04「夜がキライ」
そもそもこのお題はどっからどーやって出たのか自分ですらわからないですが(汗
ゼロスが死ぬときにロイドがおやすみって言って目を閉じた、とかいうのだったらいいなとか思いつつ。