「俺さまがお前に死んでくれって言ったらどうする?」
いくつか残ってしまった血の痕が気味の悪いくらいに服の上に際立つ。
無駄に付きまとってくる雑魚といえば雑魚な魔物を次々と薙払うのにも飽きて来ていたとき、ポツリと俺さまは呟いた。
それは隣に居たロイドに向けての言葉であったのだが何せ戦闘中の雑音があるので、体して大きくもない声が聞こえていなくてもそれはそれで良いとは思いつ つ。
大体、そう思ったからこそ先程のような台詞を抜け抜けと吐き出せたのだ。
知られてはならない秘密を知って欲しいというおかしな願望をちらつかせて。
だが、今まで隣で防御の体勢をとっていたロイドは振り向きもせずに敵へと突っ込んでいく。
それを見て、どうやら聞こえていなかったらしいと勝手に納得した俺さまもロイドの背に続いて大きく腕を振り上げた。

「あーぁ。疲れた疲れた!何だって今日は魔物が多いんだよ〜。」
「ホントにな。お疲れさん、ゼロス。」
「おぅ。ロイドくんもお疲れー。」
襲ってくる魔物も粗方片付くと俺さま達はしばらく休息をとろう満場一致で決定。
その際、前衛として戦っていたロイドと俺さまは返り血がべっとりと付着した服を洗おうと一緒に近くの河まで行くことにした。
しかし、目的地までの短い距離を歩いている俺さま達の体にポツリポツリ、と少量の水滴が降り注ぐ。
雨かと思い、二人で空を見上げれば既にお日様は怒った雲の陰に逃げてしまっている。
「うわ・・・降るぞこりゃ!」
「別にいーんでない?服洗い流せて丁度良いじゃん。」
「良くない!風邪ひくだろ。」
ロイドはもう一度空を仰ぎ見てから俺さまの腕を引っ張ると遠目にもわかる程大きな木の下へと駆け出した。
その間にも雨が強さを増すのを感じると雨宿りなど今更のような気もするのだが、掴まれれている腕を離したくはなかったので敢えてなにも言わないでおく。

ぴちゃぴちゃと足元にできた水溜まりの泥水が幾度となく跳ねる。
木の下で雨宿りする俺さま達の姿はきっと捨て犬のようなのだろうと雨を眺めながら何気無く思った。
この鬱陶しい天気のせいなのかは定かではないけれど、話も弾まず、ロイドの顔も陰って見えてしまう。
それは以前どこかで見たことのある表情だと感じたのだが、同時に酷く嫌な予感が胸によぎって。
「・・・ロイドくん。」
「ん?・・・どうした?」
いつになく沈んだ声だったのに気が付いたのか、ロイドはいくらか顔をしかめて俺さまの顔を覗く。
あぁ、どうしようか。
今、その歪んだ表情が好きだと思ってしまった。
それを告げれば狂っているとでも言われそうだが。
「・・・れ・・が。俺、が・・・お前に死んでくれって言ったら・・・お前はどうする?」
「・・・ゼロス?」
こんなことを面と向かって言う俺を愚かと言わずになんと言うのか。
途切れがちになる声が雨音に消されていてくれればなどという願いは恐らく叶わない。
例え叶ったとしても俺は何度も繰り返す。
その問いが今となっては悔恨の証にしかならないとわかっていても。
「・・・お前、先刻も同じこと聞いただろ。」
「・・・聞こえてたのかよ。」
「まぁ、な。」
「じゃ、なんで答えてくれなかったんだ?」
そんなの聞くほうが間違ってるってのは百も承知だよ。
俺さまが真剣だってのがわかったのか、ロイドの表情も一段と引き締まる。
「そんなの、急に聞かれたって困るに決まってるだろ。」
「ま、そりゃそーだわな。・・・でも、お前の答えは決まってるだろ?」
瞬間、ロイドが驚いたように目を見開いた。
思い当たることがあるのだろうが、戸惑った様子で口を噤む。
しかし、やがて俺の目を食い入るように見つめながら、重く口を開く。
「・・・俺。俺は、死なない。まだ、死ねない。・・・例え、それがお前の望みだったとしても。」
そう、それが最初から決まっていた、変わる筈もないロイドの答え。
解っていたのだから大してショックも無いのだけれど、決定的、だった。
「ま、わかってたけどねー。・・・生きるっていったからにはお前はちゃんと生きろよ?」
「・・・お前は、ってなんだよ。ゼロスもずっと生きててくれなきゃ、嫌だぜ?俺。」
「あはは。」
俺さまはその言葉に答えることを拒んで、軽く笑いながら顔を反らした。

もう後戻りは出来ないんだ。
お前が俺のために死ぬことは有り得ないのだから、俺は、お前のために死ぬしかない。
それ以外の打開策なんて、見つからないから。

俺が死ぬことでお前の心に残ることができるなら、どんなに腐った人生だって最後にゃ俺さま限定ハッピーエンド。

お前が笑う、その顔が好きだった。
けれど狂ってしまった俺さまは、お前の歪んだ顔が大好きなんだ。

雨に流された血の痕がまた鮮やかに蘇る。
なぁ、ロイドくん。

俺さまのために、泣いて?


























END







06「お前を知った」
お題からもの凄く反れて行ってるのは気のせいです。・・・多分。