果たして狂っているのは何だろう。

人間?世界?国?クルシス?天使?魔物?
俺さまからすればそれら全ては狂っている。
この世界が。
この世界を構築する全てのものが。
それは俺さまという天使の血を引いてるだかなんだか言われてる中途半端者も例外じゃない。
誰かひとりでも何かを狂ってると思えば、その何かは既に狂い切ってるということだ。
だから今更俺さまは狂ってなんかいませんよ、なんて愚かなことは言いません。
男が好きだなんて、オカシイのは百も承知だからな。
普通に腐ってんのより尚タチ悪ぃし。
だってそうだろ?そんなもん、自分がキチガイですって大声で主張してるようなもんなんだから。
けれどそれでも俺さまはまだマシなんじゃないかと救いを求めるみたいにして思うときがある。
どうして思えるかっていったら、俺さまのお相手が。
つまり、ハニー又はロイドくんっていうお馬鹿さんは、どうも世間ズレしてるっていうか、純粋っていうか。
兎に角俺さまとのお付き合いってのにもなーんにも疑問を抱かないらしい。
ドワーフに一般常識は通じないってか?別にいいけどね。
それ以前に常識なんて狂った頭で作り出した人間の唯一の共通思考みたいなもんですし?
そんなもんに捕われるほど腐るよりは自分の信じる道を行くって単純な考え方のほうが余程爽やかで何より幸せだ。オメデタイとも言えるけれど。
でも流石に性別無視ってのはどこかに居そうにもない神様に失礼だろうよ。
必死で作り上げただろう男と女という創造物の決定的な差。
男同士じゃ埋まるもんも埋まんねぇって。
あぁ、もしかしてこういうのって危険思考だったりする?
だって、目の前にはこれまた幸せそうに飯食ってるロイドくんが居るってのに変なコト考えちゃってまぁ。

「どうしたんだ?ゼロス。食わないのか?」
「・・・お腹減ってませーん。」
「そうなのか?美味いぜ?」
進められた料理を見ても食べる気にはならなかった。
だって胸がいっぱいだし。
ロイドくんの笑顔をごちそうさまってね。どこからか失笑が聞こえてきそうだけど。
「なぁ、本当に食わないのかよ?」
「いらねぇって。なんならロイドくんにあげるけど。」
「いや、俺も腹いっぱいだし。」
「あっそ。」
だったらそろそろ宿に戻りますかって立ち上がろうとする前に、あ、と思いついたようなロイドの声。
顔を見れば恥ずかしそうにしてやがる。
何、何なの。俺さま何か変なことしたか?
「ゼロス。」
「ん?」
名前を呼ばれて仕方なくもう一度椅子に座りなおす。
すると、俺さまの目の前にある皿をロイドは手に取り何やら恥ずかしそうに笑った。

「ほら。」

そう俺に向かって差し出したのはデザートにあったような気がする一切れのメロン。
「・・・えーと、ロイドくん。俺さまにどうしろと。」
戸惑うというか呆れる俺さまを見るロイドの顔は先程以上に赤い。
これにどうしろと聞く俺さまも酷い奴だろうが流石に此処でそれはマズイだろ!
「だから、俺が食わせてやるって。」
「・・・それ、言ってて恥ずかしくないか?」
「は、恥ずかしいけどさ!・・・こうすればお前、食べてくれるだろ?」
だろ、ってなんだよその自信満々な笑顔は!
ここ食堂だぜ?となれば当然飯時のこの時間、客も多い。
そもそもそういうのは女が男にしてやるもんだろ。
まぁ、男同士ならどっちでもいいと言えばどっちでもいいだろうけどさ。
って、そういう問題じゃない!
「・・・ゼロス、俺じゃ嫌か?」
「へ!?い、いやいやそんなこと無いって!」
「だったら、ほら。」
ずい、っと熟れたメロンが一層顔に近付いた。
もしかして俺さまってば試されちゃってる?
考え過ぎかもしれないけど、何故かこの状況を受け入れないとこの先ロイドくんとやって行くのは無理なんじゃないかと思った。
だとしたら。

「・・・っ!わーったよ!食べりゃ良いんだろ・・・!!」
もう、ヤケクソだ。
周りの視線が痛い気がするのは錯覚だと思わせてくれ。

噛みつくように口に入れたメロンいつもの倍以上に甘かった。
なんでかっていったら、そのとき目の前に現れたロイドくんの顔があまりに幸せそうだったから。

これほどまでに狂った世界なら、今更何を躊躇うのだろう。
幸せそうなこいつと俺さまは、きっと狂わずには生きていけないのに。
そう、狂った世界だからこそ俺達は幸せになれるんだよな。

果たして普通とは、なんだろう。

























END







709「狂気を抉る 」
下手すればゼロロイになりかねないようなOTL

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