「うるせぇ!!」
「うわっ!?」
目を閉じればザワザワと聞こえてくる木の葉の擦れる音。
普段であれば心地の良いその音が今は煩わしい雑音にしか思えなくて。
「・・・どうしたんだよ?ゼロス。」
突然誰に向かうでもなく罵声を飛ばした俺さまを不安げに覗き込んでくるロイド。
あぁ、頼むから今は俺に触れないでくれ。
心配されるだけでも無性に腹立たしくて、きっと話をしてもお前を怒らせることしかできないから。
「・・・ゼロス?」
「・・・なんでもねぇよ。」
「なんでもないって・・・顔色悪いぞ、お前。」
「・・・っ、なんでもないって言ってるだろ!!」
不意に大声を出して近づいてきたロイドを思いっきり突き飛ばす。
心の中ではごめんなさいと謝りたいと思っているのに。
それでもイライラして仕方が無いんだよ。
「・・・うるさい。うるさいんだよ!俺の事なんかほっとけ!」
「ゼロス・・・?・・・何がうるさいんだ?俺、何も言ってないだろ?」

何が?知るかよ、そんなもん。
うるさいんだ、何もかもがな。
耳に届く全ての音が。
俺に訴えかけてくるお前の瞳が。

いっそ消えてしまいたい。
聞こえるんだよ、存在する全ての音が愚かな俺を責めたてているように。

「・・・あぁ、お前にゃ関係ねーよ。」
明らかに不機嫌な調子で言ってから俺はすぐに下を向いてロイドに背を向けた。
後ろで何か言いたそうにこちらを見ている視線を真直ぐに感じながら。
だが、やがて諦めたようにその視線を外して。
「・・・わかった。もう、何も言わないし、聞かない。」
その言葉を聞いて、俺は馬鹿みたいに安心しちまった。
でも、次の瞬間、後ろからロイドに抱き寄せられて。
「・・・何、だよ・・?」
それからロイドは黙ったまま動かなかった。
何故だかわからないけれど、その沈黙に久しぶりに笑いが込み上げてくる。
クスクスと腕のなかで突然小さく笑い出したのはきっと聞こえていただろう。
けれどやはりロイドは口を開かずに。
いつでも周囲からは雑音がする。それは今も変わらない。
でも、今このときだけは何も気にしないで居られた。
何も耳に入らない。これは今の俺さまにとっては最大の幸福で。
それでも尚ただひとつ聞こえ続ける規則正しい音にはやっぱり、うるさい、と呟いていた。
ただひとつの音はとでも穏やかで、焦り過ぎでいるらしい俺を落ち着かせるには十分みたいだ。

そして追い詰められた俺は救われた。
いつまでもあの心音が俺の隣で響いているとわかったから。




要するに、崖っぷちの奴に必要なのは言葉じゃない。
そういうこと。







END





958「騒音が僕の心を掻き乱す 」
雪見数日前の情緒不安定なゼロスくん。

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