最近、ゼロスの奴がよく後ろから抱き付いてくる。
もともとそういう奴だったけど、最近は特に。
それ以外に特に変わった様子は見られないけど。
何かあるならちゃんと言えばいいのに。


あいつ、意外と口下手だからなぁ・・・。



―――触れていないと。―――



「ろーいーどーくんっ!」
「うわっ!」

理由もなくロイドの背中に跳びつく。
最近、それが楽しくて楽しくてしょうがない。
跳びつくたびにロイドくんは煩わしそうな顔をするけど。

「・・・お前、何がしたいんだよ。」
「別にぃ?ハニーの頼もしい背中見るとつい飛びつきたくなるってだけ。」
「頼もしいっていうならリーガルの背中でもいいだろ。」
「・・・そりゃ頼もしいけど。むさいおっさんに跳びつく趣味はないぜ、俺さま。」

あ、今一瞬おっさんの足が止まった。
聞こえたか。まぁ、いいや。事実だし。

無理やり俺さまの腕を振り払ってロイドくんは歩いていった。
振り払われた腕にはまだ温もりが残っている。

今まで、知らなかった温かさ。
他の誰かに触れたってそんなの感じない。


ロイドくんだけの。


「・・・ゼロスっ!」

もうずっと先を歩いていたはずのロイドくんが駆け足で戻ってきた。
先刻と同じような表情で。

「どーしたの、ロイドくん。」

へらっといつものように笑いかければその顔は更に険しくなる。
俺さま、なんか悪いことした?

「どうしたの、じゃないだろ。急に立ち止まって何やってんだよ?」
「え・・・。」

急に立ち止まって。
そのことに自分で今まで気づかなかった。

ロイドくんとの距離がどんどん離れていくのは感じていたけど。

何で俺は立ち止まってた?

「・・・具合でも悪いのか?」
「へ?いや?そんなことないって。
 んー?もしかしてロイドくんてば俺さまのこと心配して戻ってきてくれたのー?」

俺さま愛されてるー?
動揺を隠すような軽口をたたく。
そうすればロイドくんの機嫌が余計に悪くなるのはわかってるのに。

「当たり前だろ?お前、悩みごとあったって何にも言わねぇし・・・。」

あぁ・・・、お前って罪な男だよなぁ。
そんな殺し文句さらりと言ってくれちゃって。

「兎に角、なんでもないならさっさと行くぞ!」

そう言ってロイドは俺の腕をつかんだ。







「・・・ゼロス?」




腕をつかまれた瞬間、俺はロイドの手を振り払っていた。
当然ロイドは不思議そうな顔している。


今、やっとわかった。
なんで俺が先刻立ち止まっていたのか。

「・・・悪ぃ、先行っててくれ、ロイド。」
「・・・お前、やっぱ変だぞ?」

あぁ、変だ。
ホントに、自分でもわからないくらいに変だよ、俺さま。

「・・・大丈夫だから、先行ってろって。」
「行けるわけないだろ!お前・・・。」
「行けよ!・・・一人にしてくれ。」

今は、お前と居たくない。
こんな俺はお前の知ってるゼロスじゃない。



こんな俺は、俺さまも知らない。



だから、見られたくない。
ロイドに背を向けて歩き出した。

今、ロイドはどんな顔してるんだろう。
怒ってるのは確かだろうが。

「・・・ごめん」

小さく呟いてみたら、背中に何かがのしかかってきた。
温かくて、動けなくなった。

「これなら振り払えないだろ?」

耳元でそっと囁かれて。
後ろから延びてきたロイドの手に力がこもる。

「・・・ロイドくん・・・意地悪だ。」
「だったら一人で悩もうとするなよ。」

悩みの原因はお前なんだ。
そんなこと、言えるはずない。

「言いたくないなら、別にいいけど。この腕は放してやらないぞ?」
「・・・じゃぁ、言わない。」
「じゃぁ、ってなんだよ・・・。」

お前がずっと抱きしめてくれてるなら、それでいい。
お前がずっと抱きしめてくれてるなら、もう悩みなんてないから。





差し出した手を振り払われたら、きっと俺は俺で居られなくなる。
寂しくて寂しくて、お前の傍に居られなくなる。





だから俺を捕まえて。









お前の愛を、俺にください。












END


993「愛が足りない」 今度はロイ←ゼロ? ゼロスは余裕の無い時は「俺」。 ロイドのことも「ロイドくん」から「ロイド」に。 なんか、私の書くゼロスって乙女?しかも弱い?(痛