「俺さま、生まれ変わるなら、ロイドくんみたいになりたい。」
ゼロスが不意にそう呟いたのがなんだか俺にとっては悲しいことだった。

精霊と契約する旅も終わりに近づき、仲間たちがシルヴァラントに残るかテセアラに残るかという選択を迫られている。
そこで、今は各々の故郷を訪ねて最後にミズホの里へと足を運んでいる。
しいなは一人タイガの下へと向かい、残された俺たちもそれぞれ自由行動をとっていた。
丁度俺は村の位置口付近にある畑を眺めて居たのだが、気がつけばいつからか痛いくらいの視線を感じて。
何かと思って振り向けば、罰当たりにも地蔵に背を持たれて座っているゼロスが居たわけで。
すぐに傍に寄って隣に腰掛ければ、突然ポツリと先刻の言葉を呟かれた。
「・・・俺は神子には生まれたくないな。」
別に、返答が欲しくて言ったわけじゃないんだろうけど、それじゃ俺の気は済まなかった。
確かに神子とは嫌なことばかりなのだろう。
コレットも、そのおかげで散々辛い目に合ってきたのだ。
例えテセアラが繁栄しているとしても、神子に何ら変わりは無い気がする。
事実、普段おちゃらけているこいつにひどく暗い影が降りるのを幾度と無く目にしてきた。
「でも、俺みたいになったって、良いこと無いと思うけど。」
「ま、熱血馬鹿になるのも確かに嫌だけどよー。」
「どういう意味だよ!」
「ははっ。」
馬鹿という単語に反応はするものの、それが事実故に下手に突っ込むことができない。
でも、それよりもほんの少し不機嫌になりかけた俺を笑った、ゼロスその笑みがどこか辛そうなのが気になって。
聞かなきゃ駄目なんだって、何故か思い立った。
「・・・なんで、俺なんだ?」
「なんでだろーね。」
「・・・教えてくれないのかよ。」
教えてくれなきゃ、俺がどうしても今お前に伝えたいこと、言えないだろ。
そう思って真剣な目でゼロスを思い切り睨みつけてやる。
いつもならそうすると、やれやれと手を挙げて逃げ出そうとするけれど、今日は全くその様子を見せない。
つまり、これは俺が聞いても良いことだってことだ。
「・・・聞いても馬鹿馬鹿しくなるだけだぜ?」
「ならないから、教えろ。」
「・・・まったく。」
溜息をついたゼロスの表情は寂しそうだったかもしれないし、嬉しそうだったかもしれない。
やがて、ゼロスは静かに口を開く。
「・・・・ロイドくんてさ。いつも楽しそうで、前向きで。何より、色んな奴から本当に好かれてるだろ?・・・だからだよ。」
「・・・はぁ?」
思わず俺は間抜けた声を上げてしまった。
馬鹿馬鹿しいとまでは思わなくとも、呆れてしまったから。
「ムカつく反応だな!だから言ったろ、馬鹿馬鹿しくなる、って。」
「いや、別に馬鹿馬鹿しくなんかないけどさ。・・・でも、そんなの生まれ変わらなくたって、できるだろ。」
楽しそうに、とか、前向き、とか。
どう考えたってそれは自分の気持ちしだいな筈だ。
大体、俺からしてみれば「人に好かれている」のはゼロスの方で。
「無理無理。俺さまにゃお前みてーな生き方はできねぇよ。」
「・・・お前さぁ。実は俺より馬鹿だろ。」
「何ィ!?」
俺の一言に反応し出したゼロスの顔に憂いは既に無く。
それこそ馬鹿馬鹿しいくらいに騒いでいるゼロスを見るのは何より幸せで。
「・・・俺はお前のままのお前が好きだよ。」
そう、それは俺がどうしてもお前に伝えたかったこと。
「・・・そりゃどーも。俺さまも、ロイドくんらしいロイドくんが好きだぜー?」

笑い合った心の中で、俺たちは同じことを願っていただろう。
いつまでも、お前はお前のままで居て欲しい、と。






代わりなんて、要らない。







END





981「此の侭が良い」
ロイドみたいになれればロイドに好きになってもらえるんじゃないかと思う自分嫌いなゼロスくん。

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