「ロイド、ちょっとお散歩しに行こうよ。」

えへへ、と女の子らしくて可愛い笑顔。
その愛らしさを存分に活かして彼女はロイドを誘う。

元から彼女の気持ちは知っていた。


だからこそ、俺さまは今物凄く、焦ってる。


―――負けず嫌いの神子様ふたり―――


最近、ロイドくんは宿屋に着いてすぐ出かけることが多い。
別に出かけるだけなら俺さまだって何も言わない。

問題なのは、出かける理由がコレットちゃんに誘われて散歩に行く、ってこと。

「何難しい顔してんだよ、ゼロス。」
「・・・べーっにぃ。」
「あのなぁ・・・俺、何かしたかよ?」
「してない。」
「じゃあ何で・・・。」
「ロイド、お散歩行こ?」


俺さまとロイドくんがちょっとした話をしてるとき、
コレットちゃんが割り込んでくる。




ロイドを、俺さまから奪いに。





「あぁ、コレット。また散歩か?」
「うん、だって外の風が気持ちいいし。・・・忙しい?」




コレットは知ってる。




ロイドが、彼女の誘いを断れないことを。
ロイドが、彼女に対して罪悪感を持っていることを。


世界再生の旅でコレットちゃんを天使化させて、
今でも苦しい思いをさせていることをいつでもロイドくんは悔やんでいる。

それにやっと人間としての感覚が戻ったコレットちゃんに
好きなことをさせてやりたいって気持ちもあるんだろう。



だからロイドは断れないし、断らない。



「わかった、行こう。・・・ゼロスも行くか?」
「お二人さんの邪魔なんて出来るわけないでしょうよー。」
「邪魔って・・・なに変なこと考えてんだよ。」
「ロイド、早く行かないとお日様沈んじゃうよー!」
「あぁ、今行くよ!」

ロイドくんは俺さまを見て、ちょっとイラついたような顔して
すぐ二人で出ていってしまった。










ヤバい。















かなり悔しい。














大体、コレットがロイドを誘うのが顕著になり出したのは最近だ。

少なくとも、医者をさがしてフラノールに来るまではこんなことは無かった。
と、すれば考えられることは1つ。
あの日の夜、聖堂の前で話してる俺さまとロイドくんを見た、ってことだ。

きっと彼女もあの夜にロイドくんの部屋に行ったはずだ。


その後で俺達を見たのであれば、それは悔しかったことだろう。






今の、俺の様に。















「ゼロス?」
「・・・あれ?ロイドくん。おかえり、早かったね。」

気が付いたらロイドが傍にいた。
どうやら一人で帰ってきたらしい。

「早かった?2時間近く出かけてたけど。」
「・・・マジ?」

驚いて近くにあった時計をみる。



確か二人が出ていったのは3時前。
今は・・・5時に近い。



外の景色も赤く染まっていた。



「まさかお前ずっとココで立ってたのかよ!?」
「ん、んなわけ無いっしょ!先刻出てきたばっかりだって!」




二人のこと考えて2時間も宿屋の前につったってたなんて・・・恥ずかしい。




俺さまの反応があからさまにおかしかったからか、
ロイドくんは煮えきらない表情で俺さまを見ている。





そしてそっと俺の顔に触れた。






「やっぱり。体、冷たくなってるぞ?」
「・・・」
「こんなところで何してたんだよ?」





敵わない。敵うわけない。









俺さま、ロイドくんに嘘つけないよ。









「・・・コレットちゃんに嫉妬。」
「はぁ!?」

嘘つけないから、本音を言ってみる。
そしたら盛大に呆れられた。


「・・・俺、コレットのこと何とも思って無いぞ?」
「今は思って無くても、その内好きになるかもしれないでしょ。
 コレットちゃん可愛いし。」
「あのなぁ!」
「ロイドくんだって、俺みたいな男より
 コレットちゃんみたいな女の子らしくて可愛い子の方がいいだろ!」
「ゼロス!!」







俺さま、きっと兎とおんなじだ。






寂しいと、死んじゃう。







「お前、俺のことそんなに信じられないのかよ?」





信じてる。


信じてるけど、









怖い。



「・・・気づいてるだろ?俺が、コレットの誘いを断れないこと。」
「・・・うん。」

下を向いた俺の頭をロイドくんがそっと撫でた。
ロイドはいつでもそうだ。

誰にでも、優しい。

「確かにコレットは大事な幼なじみだよ。」

知ってる。

コレットちゃんと俺との決定的な、差。
どうあっても埋めることのできない、大きな差。

「でも、俺が好きなのはゼロスだけだぞ?」
「・・・俺さまだって、ロイドくんだけだ。」

いつまでも下を向いたままの俺をみてロイドくんは大きな溜息をついた。
そして無理矢理俺の顔を上げさせる。

すぐ傍には、ロイドの顔。

「・・・なんで泣いてんだよ、ゼロス。」
「・・・なんだっていいだろ。」

何で泣いてるかなんて知るかよ。
涙なんて勝手に溢れてくるんだから。




俺をまっすぐに見つめてくる、この瞳が好きだ。



じゃぁ、ロイドは俺なんかの何処が好き?



そんなことを考えながら睨みつけていたら、不意にロイドの顔が近づいてきた。

瞼に優しいキスを落とされて。



俺の頬に流れた涙を










・・・・・舐め・・・・!?












「俺、ゼロスが俺のためにそんなに悩んでくれて嬉しいぜ?
 でも、もっと俺のこと信じてくれよ。
 俺はゼロスのこと信じてるし。・・・な?」
「・・・うん。」



反則だ。




これじゃ俺さま、もうロイドくんの顔、睨みつけるなんて無理だ。


「俺はお前を誰かに渡すつもりなんてないからな。」
「・・・俺さまだって、ロイドくんを誰にも渡さない。
 コレットちゃんにも、しいなにも。」




恋敵は多い。






でも、負けるつもりもない。









俺さま、きっと兎とおんなじだ。






ロイドくんを取られたら、寂しくて、死んじゃう。






















でも今は、嬉しくて。





















END


293「恋敵」 ・・・・甘!!(吐血 いつもより糖度20%割増しです。 よく考えてみたら、このコ達外でイチャついてるよ・・・。 というか、家のコレットは普通に黒いです。 いつも影からゼロスの命狙ってるかもしれません。