「ハニーv」 「あー、もう。離せ!」 ゼロスはいつも人目を憚らずに俺に抱きついてくる。 別に二人きりのときは構わないし、寧ろ嬉しい気がしないではない。 せめて街中では止めて欲しい。 その、ハニーって呼ぶのを。 ―――お前にそう呼ばれて、こんなに悲しいのは何故?――― 「・・・ゼロス。」 「・・・。」 「聞いてるか?」 「・・・。」 つい先刻、街中で抱きついてきたゼロス。 俺はそれを嫌な顔して引き剥がした。 そこまでは何時も通りのことだ。 ただ、その後に少し面倒なことが起きた。 「ぜーろーすー?」 「・・・。」 先程からずっとこの調子だ。 いくら俺が話し掛けても返事をしないでそっぽ向いてる。 「言いたいことがあるなら黙ってないで言えよ。」 「・・・。」 全く、何がしたいのかわからない。 いつもならゼロスがすねたときには俺にぎゃあぎゃあとわめいてくるのに。 それが今回はない。 それどころか口すらきかない。 「・・・俺、なんか悪いことしたか?」 「・・・。」 「言ってくれなきゃわかんないだろ?」 「・・・。」 これは重症だと大きく溜め息をつく。 ・・・俺のせいなのか? だとしたら原因は先程のやりとりしか考えられない。 でも、あんなのいつものことだろ? ・・・あぁ、もう! 「何がしたいんだかはっきり言え!」 「・・・。」 強い口調で言ってみたらゼロスの肩が少し揺れた。 そして差し出されたのは一枚の紙。 そこには大きく乱雑な字で一言。 『バカロイド』 プツリ。 俺の中で何かが切れる音がした。 「・・・・わかったよ・・・。」 そっちがその気ならこっちだって! 「絶交だ。」 そのまま俺はゼロスに背を向けて歩き出した。 俺がここまで言ってるのにあいつは動く気配すら見せない。 もう、知るかよ。 「・・・・絶交って言ってもなぁ・・。」 ゼロスに絶交宣言して外へ飛び出して来てから約1時間。 なんだって俺がこんなことで悩まされなければならないんだろう。 元はといえばあいつが黙ってるから・・・・。 まぁ、兎に角。 現時点で問題なのはどうやって宿屋に戻るか、だ。 困ったことに今日はゼロスと同室。しかも二人部屋。 嫌でも顔はあわせることになるだろう。 別にその時点でゼロスが謝るっていうなら許してやるけど。 俺のほうから謝るなんてことは絶対しない。 ・・・・自分から絶交って言い出したのに謝れるはずないし。 「ぁ。」 ポツリ、と肌に冷たい感触が伝わった。 「雪・・・・。」 すぐにそれは大降りになる。 このまま濡鼠になるのも嫌だ。 「・・・・宿屋に戻るか。」 どうせ戻ることになるのだから。 ゼロスが居たって無視してやればいい。 そう思って俺はすぐに、歩いてきた道を戻り始めた。 「あー・・・すぶ濡れ。」 宿屋につくと、そこにゼロスの姿は無かった。 一応リフィル先生に聞いてみたが、何処に行ったかは知らないらしい。 部屋に戻っても真っ暗なままで。 「・・・どこ、行ったんだよ。」 窓の外は、吹雪。 こんなこと俺が気にすることじゃない。 そんなのわかってた。 どうせあいつはまた女の子でもナンパしに行ったんだ。 いざとなれば寝床を確保することもゼロスであれば容易なのだろうし。 そんなこと、わかってるのに。 なんで俺はこんなに不安なんだろう。 わけもわからずに痛む胸を押さえながら、傍にあるベッドに腰掛ける。 カサリ。 何かが手に触れた。 「・・・紙?」 そこには小さな紙切れが一枚。 先程ゼロスが俺に渡したあの紙を同じものだ。 それは丁寧に小さく折りたたまれていて。 『愛してるぜ、ハニー。』 先刻の乱雑な字とは全く違う丁寧で小さな字。 「・・・・・ゼロス?」 ポタリと紙の上に水滴が落ちた。 いつの間にか俺の目には、涙。 何故泣いてるか理解できない。 でも、それを止めることもできなくて、顔をあげる。 窓の外は、吹雪。 紅い雪が降っている気がした。END
149「ハニーv」 そのままクラトスルート直行ですか。 題名明るいのになんでシリアスになるんだ・・・。 というかそもそもこれも甘々な話になるハズだったんですよ。 ロイドが宿屋戻ってゼロス居ないから探しに行って・・・。 探しに行きなさいよ、ロイド。(・・・ でもロイドが泣いたので鳩羽的にはOKです(蹴