神子様はお美しいですね、と誰もが言った。
神子様は面白い方ですね、と誰もが言った。

そして誰もが神子というモノの権力を欲した。


俺さまはいつでも人に気に入られていたかったんだ。
例え上辺だけでも。

だから、気に入られるのは当たり前。

でも、俺さまが何かを気に入ったのは、初めてだった。



―――目に付いて離れない。―――



「神子様、お気を付けて。くれぐれも奴らへの注意は怠らないよう。」
「わぁーってるって!あいつらをシルヴァラントへ帰さなきゃ良いんだろ。
 俺さまがそんなことさせねぇよ。」
「そのお言葉、お忘れなく。」


策略に満ちた教皇の不気味な笑顔。
それを見る度に俺は要らない人間なんだと再認識させられる。


教皇は俺さまを常に邪魔者扱いしていた。


今回、俺さまがシルヴァラントの神子達の監視につくと聞いて
笑顔が滲出ている辺りからも十分みてとれるほどに。
だから、俺さまもガキの頃からこいつが嫌いだ。


嫌い、というよりも寧ろ、気に入らない。


そんな奴の顔を何時までも見ていても嫌な気分にしかならないので、
俺さまは身を翻して足早にテセアラ城の外へと出た。

外へ出るとまず目につくのは華やかな衣装を身に纏った貴族達の姿。
どうを見ても動き難そうな服。

「ゼロス様、今日はどちらへ?」
「ちょーっと遠出してくるぜ。暫くハニー達にも会えにさそうで俺さま寂しいー。」
「あぁ、ゼロス様のお顔を拝見できないなんて・・・。」
「お気を付けてくださいね!私、ゼロス様に何かあったら・・・。」

いつでも集まってくる取り巻き達も、服の華やかさに顔が完璧に負けている。
その騒がしい声も耳障りでしかない。
別に彼女達が嫌いなわけではないが、やはり上辺だけの好意だ。

当然気に入るはずもなかった。


更に城下へ下れば平民や貧民の住む街道にでる。
だが、その方面に親しい者がいるはずもなく。

そこは気に入る、気に入らないにしてみても問題外だった。


俺さまは常に人に気に入られようとする。

そうしなければ俺さまの生きていける場所なんて存在しないのだから。


けれど俺さまが人を気に入ることはしない。

気に入っても裏切られると解っているから。


それ以前に俺さまが気に入るに値する奴が居なかったってだけってこともあるのだけど。


もし、俺さまが気に入る奴が居るとしたら。



きっとそいつは俺さまなんか、手に届かない所に居るのだろう。




「さーてと。シルヴァラントの可愛い天使ちゃんと
 ゴージャスお姉さまに会いに行きますか。」


そういや、オマケも付いてたな。
ゴージャスお姉さまの弟らしいがきんちょと、もう一人。


ロイドとか言う俺さまの苦手な粘着質タイプの奴。


みるからに熱血漢で人を信じて疑いませんって顔してやがった。
しかもあの天使ちゃんの大事な人って感じだったな。

まぁ、かなり馬鹿そうだったけど。







































ん?




・・・なんで俺さま、そんなどーでもいい奴のこと観察してんだよ!
観察するなら天使ちゃんかゴージャスお姉さまだろ・・・!?




・・・ま、まてよ?
なんで麗しのハニーズvの名前は覚えてなくて
野郎の名前だけ覚えてんの、俺さま・・・。



よく考えてみれば俺の脳裏に焼きついて離れないのは
シルヴァラントの神子でも銀髪の女性の姿でもなかった。


あの、真っ赤な服を着た青年が。





マーテル教会で一人そんなことを考えていたら、ゆっくりとドアの開く音がした。
どうやらあいつらが来たらしい。
まだ落ち着かない脳内を必死で押さえて笑顔を作る。

向かい合ったロイドの瞳はどこまでもまっすぐで。

「・・・えっと、ゼロスだっけ?」

俺の名前を覚えていた。

それだけで、何故か嬉しかった。


















こいつらとの旅が悪いものじゃない気がする。



















俺はただの裏切り者でしかないけど。























誰かを気に入ったのは、初めてだったから。























END


999「気に入った」 毎回物凄く微妙な終わり方でゴメンナサイ(−−; なんだか、ロイドのまっすぐな瞳っていう表現が好きらしいです、私。 というか、家のゼロスはロイドのそれに惚れてるんです。きっと。