初めて手作りの誕生日プレゼントを貰った。
それはとても綺麗で、今も俺さまの指に嵌ってキラキラと光っている。

あれ程の心地良さを味わったことなど無かった。
只あいつが傍にいればいい。
そんなことすら思えてしまう心地良さを。


―――心繋ぎ止めるのは何?―――


つい最近、シルヴァラントの神子達がテセアラに現れた。
そいつらのことは大体クルシスやらレネゲードやらに話を聞いていた。
その両者からの命令であったからこそ
自ら監視役になることを名乗り出たわけなんだが。

あいつらに会ってから、俺さま、絶対おかしい。

特に一行のリーダーらしいロイドとかいう奴。
初めて会ったときから、無意識に気にしていた。


そして2度目に会った時にはもう、気がついていた。






そいつに、一目惚れしたこと。






「・・・あぁぁぁ!俺さま!おかしい!絶対っ!!」

宿屋の一室で俺さまは一人、叫んでいた。
ロイド達と旅を始めてから俺さまはロイドのことばかり考えている。



いつでも視線はロイドのほうに向かってしまうし、
ロイドに話しかけられると妙に緊張してしまう。



それに、今回のことだってそうだ。

明日は俺さまの誕生日。
あいつらには言う必要も無いと思ってた。
というか、言いたくなかった。

誕生日に、いい思い出なんて無いから。

それなのに、あいつは人の話を盗み聞きしてたわけだ。
おかげで今、俺さまはもの凄く悩むはめになってしまった。

ただ、ロイドが俺の欲しい物を聞いてきただけなのに。

ロイドにしてみれば、誕生日だから、プレゼントは当たり前。
そう思っているのだろう。

だから、俺さまの喜ぶものを・・・って。

でも、俺には欲しいものなんてない。
望んだって、手に入らないとわかっているから。

だから、俺さまは無茶なことしか言わない。







無茶だと思った。





思ったから、ホントに欲しい物を言った。






























今、この二人部屋にはロイドの姿が無い。

俺さまへのプレゼントを作るといって飛び出したきり、戻ってこない。
昨日だって、夕飯抜きで出て行ったんだぜ?
・・・もしかしたら、今日の朝飯も食ってないとかないよな。


それ以前に、徹夜とか、してない・・・よな?


今更だけど、俺さま後悔してると思う。
あの、単純一途な馬鹿にあんな頼みごとしたらこうなるなんて、
よく考えればわかることだったのかもしれない。

だったら、なんであんなこと言ったんだろう。


自分の考えが、今の俺さまには理解できなかった。






・・・兎に角。
ホントに徹夜とかされててもこっちが困る。

探しに行こう。


そう思って俺さまはドアノブに手を掛けた。

そうしたら。




「ゼロス!!」
「うわっ!」

ドアが外側から勢いよく開け放たれた。
おかげで俺さまの体は前方に倒れこむ。

その時、眼前に飛び込んできた赤い服の色。
これは、間違いなく俺が今探しに行こうとした奴のもので。

「ロイド、お前・・・」

見上げたロイドの目は少し赤くなっていた。
・・・ホントに徹夜した、とか・・・?

「ちゃんと作ったぞ。誕生日プレゼント。」
「・・・マジかよ・・・。」

色んな意味でびっくりだよ、お前。
俺なんかのために、苦労する必要なんてないのに。

ロイドが上着から出したものは、小さな箱のようなもの。





待てよ。

あの位の箱に入ってるものと言ったら・・・。






「誕生日、おめでとう。ゼロス。」

優しくて、力強いロイドの、声。
今までずっと好きになれなかった言葉。

それなのに、今は。



「・・・あ、ありが・・・とう。」

俺、今どんな顔してるんだろ。

多分、今までにないくらい、可笑しい顔なんだろうけど。


「で、コレ。プレゼントな。」

そういって渡された小さな箱。
俺の考えが正しければ、これは。

「・・・・ロイドくん。これって・・・・。」

予感的中だった。

やばい。
急に体温が上昇していくのがわかる。









「俺が作った、指輪だよ。」



























「え・・・ええ!?ちょ、ちょっとロイドくんっ!なんで、指輪!?」



これは、俺がもらってもいいものなのか・・・?



込み上げてきたのは嬉しさではなくて、そんな疑問。

「なんで、って。お前、俺が作ったものが欲しいって言ったろ?」
「そ、それは・・・言ったけど。」

指輪、だぞ?
そんな簡単に人にやっていいものじゃないだろ。

ましてや、俺みたいな男に。
しかも、手作り・・・。



「・・・・嫌か?」

嫌なわけ、ない。

気づいたら俺は首をぶんぶんと横に振っていた。
落ち着け、俺さま。

折角ロイドくんが作ってくれたんだから。

そう思い直して深呼吸してからその指輪を、嵌めた。

指輪は俺さまの指にぴったりで。
改めて、ロイドくんが俺の為に作ってくれたんだなって思った。







俺の、為に。







「・・・・なんで泣いてるんだよ、お前。」

キラキラと輝いている指輪を見ていたら、涙が止まらなくなっていた。
俺さま、初めてかもしんない。

嬉し泣きなんて。

「・・・・俺さま、カッコ悪い・・。」

いつもの笑顔を作ろうとしたけど、うまくいかなかった。
でも、ロイドくんは凄く、穏やかで、嬉しそうな顔してた。

その表情が、俺の中に染み込んでいって。























つい最近、俺はロイドくん達と旅にでることになった。

今じゃ、監視役ってのもちょっと忘れ気味になって困ってる。
あいつらと居るのが楽しいと思えるなんて。

多分それはロイドくんが指輪をくれたおかげだ。

あの時から、俺は少し変わった気がする。
たまに、自然に笑みが零れたりして。

俺さま、あの指輪だけは外したくない。



だから今でも左手の、薬指に。























俺さまの手に指輪が嵌ったとき、もう俺は























お前を殺せないとわかってしまった。






















END


935「僕はもう貴方を殺せない」 「カッコ悪い」のゼロス視点です。 故に会話なんかはそのまんま。 最初ゼロスの心の中でロイドは「ロイド」。 でも最後には「ロイドくん」になってます。 ここらで完全に惚れちゃったらしいです。ゼロス。(・・・