あいつが消えた、なんて認めたくなかった。












どこか、止まったような時が流れている気がする。
あいつと、皆と、エルドラントに乗り込んでってから2年が過ぎようとしていた。
多分、周りの人たちからみれば、「もう」と言えるほどあっという間な時間だっただろう。
魔界で暮らさなければならないという事実。
大量生産されたレプリカを受け入れるため環境。
まだまだそんな課題が山積みだった。
その忙しさを考えれば、人々に休息など与えられないのだから。
けれど、俺の中で流れる時間だけ。

「早いものですね。もうあれから2年ですか。」
水に囲まれたグランコクマの公園で、珍しい人物に出会った。
同じ街に暮らしている筈なのに、互いに忙しいせいか殆ど顔を合わせることのない人に。
「・・・久しぶり、だな。まさかこんなに爽やかな場所で旦那に会うことになるとは。」
「心外ですねぇ。私はいつでもさっぱりと生きてますから。この景色も似合っているでしょう。」
死霊使いと呼ばれる奴が何を言うかと思うが、この人は確かにこういう人だった。
そんなことすら懐かしく感じるってことで、俺は時間というものを思い知らされる。
「それにしても、どうしてここに?」
「おやおや。晴れ晴れとした空の下に暗い雰囲気で佇んでいる人を見かければ誰だって気になります。増してや、それが友人であるとしたら、声を掛けずにはい られないものです。」
友人、とジェイドが口にすること自体珍しいことなのは知っている。そして、それが彼の信頼の証だということも。
それは素直に嬉しく思う。だが、だとしたら俺はそんなに沈んだ雰囲気を放っていたのだろうか。
「そ、そんなに変だったか?俺。」
「変、というよりは面白いです。基本的にあなたは前向きだという私の見解は間違っていないと思うのですがね。今の貴方は・・・そうですね。しいて言えば、 いつかのルークみたいですよ。」

『ルーク』

一瞬にして、慌てふためいていた俺の表情は色を失っていたことだろう。
この2年間、気にしないようにしても考えてしまうあいつの名を聞いて。
脳裏に焼きついて離れないあいつの顔が、今も。

「・・・今のあなたに、彼の名は禁句でしたか。」
「俺、そんなに、酷い顔、してる、か?」
聞かなくともわかりそうなものだけれど。自分の顔は鏡でもなきゃ見れないからさ。
『鏡』といえば、思い出すのはルークと、アッシュ。
あぁ、俺はオリジナルでも、レプリカでも、ホドという故郷でどれだけ大切なものを失くしただろうか。
敵、だったが、ヴァンだって幼なじみだったんだ。
「ですから、変でも酷くもなく、面白いです。あの一件で一番傷ついているのはティアだと思っていたんですがね。どうやら違ったようだ。ルークが消えて ―――」

「消えてない!!」

認めたくない。認められない。
ジェイドの言葉を聴いて全身の血が沸きあがった。
「・・・っ。悪い、やっぱりどうかしてるな。」
「全く。本当にあなたらしくない。―――しかし、失言でした。彼は帰ってきます、と私も信じたい。」
ジェイドは個人としての感情を外に出すことを滅多にしない。軍人だから、という所もあるかもしれないが。
それ故にか、時々心に直接突き刺さってくるような発言をする。
まるで、相手を試すかのように。
けれど、今の彼の言葉は真剣だった。
非合理的な事柄など全て否定してしまうだろう彼にも、あいつの存在は大きかったんだと改めて知る。
「俺が、俺らしくないって言うなら、ジェイドだって、ジェイドらしくないと思うぞ。」
辛いのは皆同じだっていうのが、よくわかるくらいに。
「約束、なんて当てにはならないと思っているのですが、色々と掟破りな彼ならこのまま終わるとは思えませんので。」
相変わらずひねくれてるのも変わらないとは思う。
でも、変わらないのは俺たち皆、同じなのだろう。
ティアも、アニスも、ナタリアも、取り巻く環境はめまぐるしく変わっているかもしれない。
その中で、街の人たちだって段々と変わり始めてる。


変わらないのは―――、


「いつまでもこのままじゃいけないとは思うんだけどな。」
「良いじゃないですか。誰も、私たちに変化など求めていない。」
俺たちは変われないでいる。
いや、正確に言えば、変わることを望んでいないんだ。
あいつがいつか戻って来たときのために。
卑屈なのは直ったかもしれない。
けど、もしまたあいつが9年前みたいになにも知らない世界に突然放り出されたら。
たとえどんなに成長したってそんなの、辛すぎるだろ。

俺たちはずっとお前の帰りを待つって決めたから。
変わらなくちゃいけない、なんてことは無くても良い筈だ。

「例え何が起こっても、俺は変われない。俺が変わるとしたらそれは、あいつが、ルークが帰ってきてからだ。」
「・・・私もそのつもりですよ。フォミクリーの発案者としても、ルークのことに無責任にはなれませんからね。」
「ルーク以上に素直じゃないな、この人は・・・。」
俺の言葉にジェイドはそれ以上何も言わなかった。



約束したんだ。帰ってくるって。
そんなものはただの口約束で。
信憑性も何もあったものじゃないけどさ。
認めたくないだけかもしれない。
それでも『約束』したんだ。












俺はその言葉に縋ることしか出来ないから。







END







「変化を拒む者の祈り」
初アビス。
まだカプは決めかねてます。
それでも一応ガイルクガイの方向で。

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