静かに、確実に、悪魔の瞳に呑み込まれていく。












グランコクマ宮殿の資料室。
常に本が机の上に山積みになっているその場所。
「・・・ジェイド、いるか?」
久々に、足を踏み入れたような気がする。
父の後を継いで皇帝になって以来、よくジェイドで遊ぶために足を踏み入れていた覚えはあるのだが。
いつの間にかそんな日々も過ぎ去って。
「・・・お。」
本に隠れて茶色い髪が見えた。
もう少し近づいて行けば青い軍服も目に入る。
それと同時に、規則正しい寝息も。
「おお。めずらしいじゃねぇか。」
完全に視界に入ったジェイドは机に突っ伏して眠っている。しかも律儀に眼鏡は外して。
それが俺にとってはかなり懐かしい顔だった。
普段、ジェイドが眼鏡を外すことは滅多に無い。
視力が悪いからだと言ってしまえばそれまでかもしれないが。
俺は知っている。こいつが自分の瞳の色を嫌っていることを。
「・・・悪魔のような、か。」
まるで酷く充血しているかのような真っ赤な色の瞳。
それは炎のようであり、血のようでもあった。
当然、人々はそれを不気味に思う。
昔からこいつは天才として生きてきた。それには周囲から疎まれることが数多く。
その際には必ず瞳の色をさしてジェイドは悪魔と呼ばれた。
昔なら、昔のこいつなら、それを気にすることもなかったのだろう。

だが。

「・・・陛下?」
「よぉ。やっとお目覚めか、ジェイド。」
「何か御用ですか。」
「いいや、別に。」
用がなきゃ来ちゃいけないのかと言いたくもなるがこいつの反応には慣れている。
だから、用が無いなら無いで無理に押し返そうとしたりはしないこともわかる。
ただ、少し嫌な顔をして構ってくれないことはよくあるのだが。
「お前、仕事は終わったのか?」
「ひと段落着いたから眠っていたのですよ。・・・しかし、陛下に寝顔を見られるとは、とんだ失態だ。」
「俺は得したからいいんだよ。」
「得、ですか。」
少し訝しげな顔をしながら、ジェイドは傍に置いてある眼鏡を手にとった。

あぁ、だめだ。勿体無い。

どこかでそんな想いが浮上した。
気が付いた時には眼鏡をかけようとしていたジェイドの右手を掴んでいて。
「・・・なんですか?」
「掛けるな。」
「掛けるなってこのままじゃ見えな―――」
「だめだ。」
ただ、思うが侭に行動する。
掴んだ手をそのまま引っ張って、ジェイドの顔を間近に覗き込む体制をとった。
血のように紅い瞳が俺の目に映る。

勿体無い。

「っ・・・陛下。いい加減にして下さい。」
「綺麗だな。」
「は?」
「お前の紅は白い肌によく映える。」
思わず目を奪われるように美しい瞳。
誰がこれを悪魔の瞳だと言い出したのだろうか。
もしこいつが悪魔だとしたら。

「俺は悪魔に魅入られた屍なのだろうな。」

ただ美しく在るその瞳に。
コレは俺の物だ。こいつに出会った時からずっと。

「・・・あなたは、相変わらず変わり者のままのようですね。」
「あぁ、愛してるぜ、俺のジェイド。」
「ふふ。私は独占欲の強い貴方は嫌いじゃありませんよ、ピオニー。」
そのまま静かに口付けを交わして。




暗闇は一層深く広がっていった。





END






「悪魔を好む者の誘惑」
ついにやっちゃったピオジェイ。
この二人だと歯止めがきかなくなりそうで怖い・・・!
嫌がるジェイドも好きですが、いっそ狂ったような相思相愛の方が萌える(危


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