幼い頃に戻りたい、と思うのはどんな時だろうか。












「陛下。用も無く、人の仕事の邪魔をしに来ないで下さい。迷惑です。」
俺がいつものようにジェイドの執務室を訪れたとき。
ドアを開いた瞬間に飛んできた言葉もいつも通りのものだった。
毎回俺が来る度に丁度良く吐かれる言葉。
そう、まるでドアを開く前から来るとわかっていたかのように。
「いいじゃねぇか。暇じゃあないが、暇なんだ。付き合え。」
「わけがわかりません。」
ジェイドはこちらに目も向けずに書類と睨み合っている。
その肌は相変わらず、白い。

しばらくその横顔を眺め続ければやがて溜息が広がる。
「人の顔を見ていて何が楽しいのですか?」
どうやらそれは諦めを含んだもののようで。
ようやくジェイドはこちらを向くと、至極嫌そうに問いかけてきた。
何が楽しい?楽しいさ、そりゃあもう。
「美人の顔を見てんのは好きだからな。」
大真面目に答えてやれば、もう一度溜息が聞えてきた。
そんな呆れた表情ですら俺には美しいと思えるんだから困ったもんだ。
どこまで俺はこいつに惚れ込んでるのか。
自分ですらわからない問いに答えてくれる者は居ない。

「・・・陛下。ご自分の立場を自覚して下さい。いくら幼なじみといえども、たかだか軍人風情と親しくされては臣下の者が良く思わないでしょう。」
「そんなことは俺にとっちゃどうでもいい。それに死霊使い殿と一緒となればだれも文句なんて言えやしねぇよ。」
俺が会いたいと思って来てるのを止められてたまるか。
こいつに会うなら尚更、止められたって逃げ切ってみせる。
立場だとかそんなもんは大嫌いだった。
幼い頃から皇帝になるのだからとしつこく言われてきたからというのもある。

だが、それ以上に。

「昔に、戻りてぇ。」
「・・・珍しいですね。案外、貴方は現状を楽しんでらっしゃると思っていたのですが。」
驚いたふうにジェイドが言う。
意外だった、というよりはこいつもきっと似たようなことを考えていたに違いない。
そんな素振りも見せない辺り、昔と何も変わらないとは思うのだが。
「昔も今も楽しんでるさ。お前が居れば俺には十分だ。」
「それは恐縮ですが嬉しくはありませんね。」
ここでようやくジェイドはほんの少し微笑んでみせた。
この顔を見るために、昔の俺がどれだけ苦労したことか。

ふわり、と何かいい香りがした。
あぁ、これは確かジェイドが愛用してる香水の匂い。
ほんの少しだけ沈んでいた意識を呼び起こしてみれば、目の前は青。
軍服の、鮮やかな色。
「今も、昔も変わりませんよ。貴方は私にとっての親友でしかない。私こそ軍人という身分でしかありませんが、皇帝である貴方に興味はありませんから。」
俺の首に腕を回して宥めるようにジェイドは俺を抱きこんだ。

珍しいこともあるもんだ。

笑い飛ばしてやってもいいが、折角だから甘えることにする。
「・・・たまに沈んでみるのも悪くはないな。」
耳元でくすり、と笑う声が聞えた。
それにつられて俺の口元も綻ぶ。

こちらからも両手を伸ばしてしっかりと抱きしめると、ジェイドの低い体温が微かに伝わってきた。
「どうせなら、私だけの王様でいてください。昔のように。」
静かに呟かれた言葉が心地よい。
これはきっと昔じゃ味わえやしないもんだ。
そう思えばやはり今現在だって悪いもんじゃない。

首筋の白い肌にきつく口付けをした。
残る痕は赤く映え。
「今も昔も、俺はお前しか見てないし、お前は俺のものでしかないぞ?」
「それはまた、随分と傲慢ですね。」
「王様、だからな。」
このまま柔らかな雰囲気の中に溶け込んでしまいたかった。
立場なんか忘れて、ただこいつだけを見て。

もう一度ジェイドがくすり、と小さく笑う。
「こんな関係の親友なんて居ねぇだろうな、他には。」







抱きしめた体温がいつまでも名残惜しかった。





END






「01 王様と軍人」
PJP同盟様のお題を使用させて頂きます(´ー`*)
ピオジェイです。やっぱりどことなく危なくなりました。
ぶっちゃけ続きあったんですが裏があったら即裏行きな感じになったので。
陛下の口調がよくわかりませんOTL


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