気づけば風は止んでいた。












寒い。
外に出てみて思うのはいつだってそれだけだ。
真っ白に降り積もる雪が頬に当たって鈍い痛みを覚える。
いつでも視界に留まって消えることのない。

目の前にある高い壁を乗り越えて建物の無い、草原だった場所へ飛び降りた。
手の付けられていない白銀の世界に跡を残すこの瞬間が、好きだ。
「陛下。」
今、俺が降りてきた壁の方から声がした。
誰かわからないはずはない。
来るとは思っていた、というより待っていたのだから。
「よぉ、ジェイド。珍しく遅いじゃねぇか。」
いつもなら先回りして待ってるだろ、と笑いながら振り返る。
雪混じりの強い風が気に食わないらしい。
ジェイドは髪を押さえながら近づいてきた。
「忙しいときに、大きな迷子を捜す者の身にもなって下さい。」
「おいおい、別に俺は迷ったわけじゃないぞ。」
「あなたに迷った気がなくとも、こちらにしてみればただの迷子です。」
俺にここまではっきりと嫌味を言う奴なんてこいつくらいのもんだ。
まぁ、こいつ以外の奴に何か言われるのも気に食わないが。
そう思い、苦笑してまたジェイドに背を向けた。

肌に伝わる冷たい感覚が心地よい。
昔から屋内でじっとしているのは嫌い、だった。

「なぁ、お前雪は好きか?」
「嫌いです。」
間髪居れずに答えが返ってくる。
まさかここまで即答だとも思っていなかったが、これはこれでこいつらしいと思う。
何故かなんて聞いたところで寒いからとか、鬱陶しいから、だとかそんなところだろう。
「なら、お前の好きなもんってなんだ。」
「・・・。」
そう尋ねると、今度は何も返ってこなかった。
悩んでいる、というよりも訝しく思っているに違いない。
そんなジェイドの様子に、答えてみろ、と視線で訴える。
「・・・何も思い当たりません。」
「嘘付け。」
そう来たか。
けれど、好きなものと問われて何ひとつ思い当たらないと答えるのもまた、こいつらしい。
適当に答えようと思わない辺り、根は正直な奴だってのがわかる。

俺だけが、知っている。

「なら、陛下の好きなものはなんですか。」
少し、怒ったような顔。
こいつにはこれが丁度良い。
俺の好きなもの。
そんなの、わかってるだろうに。

「おまえ。」

一瞬驚いてこちらを見る赤い瞳。



やがて、その色は穏やかに揺れて。






END






「いつだって本気」
お題に合ってる気がしないけど気にしない(汗
このあときっとピオ様はジェイドに殴られるに違いない。
ジェイドは陛下に向かって嫌いだとは言わないと思う。
寧ろ「嫌いではありませんが、」みたいな感じ(どんなだ



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